千年企業の大逆転

未読
千年企業の大逆転
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千年企業の大逆転
ジャンル
著者
出版社
文藝春秋
定価
1,018円(税込)
出版日
2014年08月06日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

変化の激しい現代において、企業の寿命はますます短くなってきている。商品サイクルが短期化し、厳しい国際競争に晒されるなかで、長期にわたって会社を運営していくことは実に困難だ。あなたが今勤めている会社だって10年後、いや5年後ですらどうなっているのか分からないのが現状であろう。

一方、日本には世界的に見ても非常に多くの老舗企業が存在していることをご存知だろうか。長期にわたって他国による侵略や内戦に見舞われたことのない日本は、100年以上存続している企業数が他の国に比べても圧倒的に多い。世界一の長寿企業である「金剛組」は、なんと古墳時代後期から今日までその屋号を守り続けているのである。

本書は、このように創業から100年とか200年もの年月を経てもなお繁栄を続ける企業を紹介している一冊だ。タイトルを見ると「千年存続している会社」を紹介しているように思うかもしれないが、実はそうではなくて、老舗が刻んできた時のぶあつさを表わしているのだという。

確かに本書で紹介されている企業が経てきた歴史は、他の企業について述べた書籍にはない長さ、そして深さを感じることができる。新技術が出てきたり、市場が衰退したり、経営者が次の世代に引き継がれたりと、歩んできた道の長さ故に生じる課題に対して、企業はどう対処していけば良いのか。この本を読めば、こうした波を乗り切るためのヒントが見つかるはずだ。企業ドラマの読み物としても楽しめる一冊であり、ぜひ多くの方に手に取っていただきたい。

ライター画像
苅田明史

著者

野村 進
1956年、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科中退。78~80年、フィリピン、アテネオ・デ・マニラ大学に留学。帰国後、『フィリピン新人民軍従軍記』で、ノンフィクションライターとしてデビュー。97年、『コリアン世界の旅』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞。99年、『アジア新しい物語』でアジア太平洋賞を受賞。現在、拓殖大学国際学部教授もつとめる。

本書の要点

  • 要点
    1
    創業から200年以上続いている企業が3000社も存在している日本は「世界一の老舗大国」と言える。日本に老舗が多いのは、長期にわたって侵略されたことも内戦に見舞われたこともなかったからだ。
  • 要点
    2
    代々家業としてきた本業を守り、仮に新たなビジネスを手掛けるにしても、本業のレールの延長線上から決してはずれない。こうした「本業力」こそ、つぶれない老舗の共通点のひとつである。
  • 要点
    3
    同族経営には負の側面もあるが、経営判断と事業着手の速さ、果敢な実行力、長期的な経営戦略、さらには親や周囲の人間を見て、自然と経営の心構えを身に付けられるという長所がある。

要約

【必読ポイント!】 近江屋ロープ株式会社

老舗の最大の敵とは

日本は「世界一の老舗大国」である。実践経営学会の調査によれば、創業から200年以上続いている企業は、韓国はゼロ、中国は6社、インドでは3社しかない。では日本はどうかと言えば、なんと3000社もある。日本に次ぐのはドイツだが、およそ800社で、日本の4分の1程度にすぎない。東京商工リサーチによれば100年以上で2万7千社、500年以上でも158社、千年以上の超老舗も6社存在しているという。いずれにしても、日本の老舗の数はずば抜けている。

世界一の長寿企業も日本にある。大阪にある「金剛組」で、おもに社寺の建築や修繕に携わってきた建築会社だ。創業は578年で、古墳時代後期から今日まで、実に1436年も存続してきた。

日本が世界一の老舗大国になれた一番の理由は、日本が事実上、長期にわたって侵略されたことも内戦に見舞われたこともなかったからだ。朝鮮半島は周辺の大国にくりかえし蹂躙されてきたため、100年を超える老舗は存在していない。日本でも老舗企業が多い京都では876もの老舗が存在しているのに対して、沖縄では泡盛の蔵元などたったの9社しかない。老舗の敵は紛れもなく戦争と言うことができよう。

林業の需要による好況
Natallia Evmenenko/Hemera/Thinkstock

本書で最初に紹介されている企業は1805年創業の「近江屋ロープ株式会社」だ。当初は麻の糸や布を販売していたが、やがて綱づくりに本業を移した。幕末には新撰組に「御用の縄」を納めていたものの、代金は踏み倒されることが多かったという、京都の老舗ならではのエピソードもある。明治以降はロープを製造し、戦争が終わるとロープの卸売り専業となり、販路をいっそう広げていった。

とくに、戦後の住宅建設ラッシュで盛んになった林業用のロープの伸びが著しかった。木材の搬送に使うウィンチやチェーンソーのような林業機械の卸売りにも乗り出し、収益はさらに拡大。高度経済成長期には社員旅行で一同ハワイにくりだすほど景気が良かった。

1980年代後半から90年代にかけてのバブル経済の絶頂期には、地価の高騰を背景に建築・土木業界が湧きかえり、近江屋ロープの売上は毎年10パーセント以上伸びていった。だが、現社長である野々内達雄さんが8代目社長に就任すると、その直後にバブルがはじけてしまう。

「見捨てる」という言葉
kosmos111/iStock/Thinkstock

林業に依存していた近江屋ロープは業績が急降下。さらには大番頭役の専務や監査役、先代社長の父親ら何十年も会社を支えてきた3人が相次いで亡くなり、経営は悪化の一途を辿る。社内の空気も沈み、営業担当の社員も外回りにしぶしぶ出かけていく有様だった。

そんな体たらくに業を煮やし、古株の営業課長を呼んで叱りつけた野々内さん。だが、そこで思いもよらない悲痛な叫びが返ってきた。「社長はもう、私も卸販売も見捨てておられるんでしょ。」

「見捨てる」という言葉は、よほど切羽詰まっていなければ部下の口から出てこない言葉だ。野々内さんはそのとき、200年続いた老舗の暖簾を守ることばかりに汲々として、社員の苦しみには無頓着でいた自分に気づいたという。

社員を守るためなら何でもやろう。暖簾を捨ててもかまわない。それほどまでに固く意を決したのだった。

転機となった新商品の開発
piyathep/iStock/Thinkstock

転機となったのは新商品の開発だった。「社長、どうか私のことを見捨てないでください」と懇願してきたベテラン社員が、シカの食害をふせぐ新たなネットの開発を提案してきたのだ。

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