室町は今日もハードボイルド

日本中世のアナーキーな世界
未読
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日本中世のアナーキーな世界
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室町は今日もハードボイルド
出版社
出版日
2021年06月15日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

「日本人は規律正しく温厚な民族である」。そんな固定観念を根底から覆してくれるのが本書だ。中世の日本のアナーキーなエピソードを、史料を丁寧に読み解くことで明らかにしている。例を挙げると、「母開」という現在では口にするのもはばかられるような悪口が飛び交っていた(どんな意味かは本書で!)、夫の浮気相手を武装して襲撃、存在しない国家使節団を名乗って堂々と外交、僧侶が武士を呪い殺す、などなど。「日本の伝統」というと格式ばった堅苦しいものを想像してしまうが、日本人のご先祖はもっとエキセントリックだったらしい。本書を読むと「日本の伝統って?」と疑問に思わずにはいられない。

私たちの今の常識は、大昔から同じように続いていると錯覚してしまいがちだ。しかし、古文書を紐解いていくと、中世にはそんな常識などなかったことがわかる。私たちが今「当たり前」と思っている常識の土台など、実はつい最近生まれたものなのだ。著者は歴史を学ぶことを通じて、こうした固定観念を疑ってみることの重要性を説いている。

本書は古文書の記録をまとめた学術的な内容を基にしながら、親しみやすい語り口と興味をそそる着眼点で、歴史初心者にも読みやすい。ご先祖たちの個性が大爆発するダイナミックな武勇伝を、ぜひ手に取って読んでほしい。そのおもしろさの奥に、現代を生きる私たちが学ぶべきことが見えてくるだろう。

ライター画像
千葉佳奈美

著者

清水克行(しみず かつゆき)
1971年生まれ。明治大学商学部教授。歴史番組の解説や時代考証なども務める。著書に『喧嘩両成敗の誕生』(講談社選書メチエ)、『日本神判史』(中公新書)、『戦国大名と分国法』(岩波新書)、『耳鼻削ぎの日本史』(文春学藝ライブラリー)などがあるほか、ノンフィクション作家・高野秀行氏との対談『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社文庫)が話題になった。

本書の要点

  • 要点
    1
    中世日本の三大特質は、公権力に頼らず、すべてを当事者の「自力」で解決する自力救済原則、神仏への信仰心の篤さ、社会の多元的・多層的な実態の3つである。
  • 要点
    2
    中世日本は国家としての体制をギリギリ保っているような状態だったが、すべてを一つに統一することが必ずしも理想的ではないことを教えてくれる。
  • 要点
    3
    中世は人々の信仰が薄れつつある時代でもあった。戦乱の前に信仰は無力だったからである。大規模な社会混乱が起きると、人々は新しい価値観を求めるようになり、合理主義の近世へと向かう。

要約

【必読ポイント!】 激しく生きる中世人

「ふぉんのうじに、ふぃの手が!」

「母とは二度会うけど、父とは一度も会わないもの、な~んだ?」

これは戦国時代に書かれた『後奈良院御撰何曾(ごならいんぎょせんなぞ)』というなぞなぞの本に登場する問題の現代語訳である。正解は「くちびる」。「母」と発音するときには二度触れ合うが、「父」では一度も触れ合わないからだ。

現代日本話者ならば、首をかしげる説明だろう。「ハハ」と発音してもくちびるは触れ合わない。実は、戦国時代以前と以後ではハ行の発音が異なるのだ。戦国時代以前の日本語では「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」と発音されていたらしい。「母」は「ファファ」だったのである。時代考証をきちんとするなら、戦国ドラマは「ふぉんのうじ(本能寺)にふぃ(火)の手が!」「ふぁか(謀)られたか!」となるべきなのである。

江戸時代以降の日本人とそれより前の日本人とでは、言葉の発音ひとつとってもずいぶん異なっていた。そんな中世日本の言葉の問題に注目する。

日本語は悪口が少ない?
prezent/gettyimages

日本語は悪口や罵倒語のボキャブラリーが少ないことはよく知られている。しかし、これを「日本人は昔から人をけなさない温厚な民族だった」という論に帰結させるのは安易だ。鎌倉時代までさかのぼれば、現代では想像もつかないような強烈な悪口が数多く使われていた。

例えば、鎌倉時代の裁判史料に登場する「母開」という言葉は、かなり強烈な悪口だったようだ。この言葉が古文書に登場するのはわずか2回だが、いずれもこれを口にした側には高額の罰金が科されている。ではこの「母開」とはどのような意味なのだろうか。

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要約公開日 2021.09.15
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