レビュー
物質的にも金銭的にも満たされているのに、なぜか心は満たされない。そんなときの悩みは、おそらく人間関係だろう。家族との関係や、職場の人との関係、これらを解決するために本書が提案するのは、「サーバント・リーダー」という考え方だ。これは、権力を行使して人を支配し動かすリーダーではなく、傾聴し、感謝や称賛を与えながら、周囲の人のニーズを適切に満たし、人を導くタイプのリーダーである。
ストーリー形式で進む本書の主人公は、社会的には成功しながらも、家庭と仕事の両方において悩みの尽きないジョンという男性だ。ジョンは、ひょんなことから修道院で行われる一週間の研修プログラムに参加し、そこで修道士兼講師であるブラザー・シメオンと、5人の参加者に出会う。シメオンと参加者たちはともに議論しながら、リーダーシップという言葉を定義し、仕事や家庭、教育の現場など、あらゆる人間関係に適用する方法を探していく。本書の描くリーダーシップは、リーダーとして権威を身につけようと決意し、行動しようとしさえすれば、誰でも身につけることができる技能だ。しかし、その道のりは平坦ではない。まっとうするには、多大な努力が必要だ。しかし、その価値があるだろうという納得感を与えてくれるのが、本書の魅力だ。
本書を読みはじめたとき、要約者は一気読みだった。読後はまるで本書で描かれる一週間分の研修を受けたような充実感がある。リーダーシップを実際の人間関係に役立てたい方におすすめの一冊だ。
ジェームズ・ハンター (James C. Hunter)
デトロイト近郊にある労使関係およびトレーニングのコンサルティング会社J・D・ハンター・アソシエイツの主席コンサルタント。サーバント・リーダーシップとコミュニティ形成に関する講演者、トレーナーとしても活躍。彼の主なクライアントには、マイクロソフト、マクドナルド、アメリカン・エクスプレス、ベスト・バイ、ジョンソン&ジョンソンといった錚々たる企業、および米国陸・海・空軍などが名を連ねる。
リーダーシップについての誤った認識
地位も豊かさも手に入れた。人生は崩壊しかけていた。
主人公は、若くして世界的な板ガラスメーカーを仕切るゼネラルマネジャーになったジョンだ。大学で出会った美しい女性と結婚し、養子を一人迎えたあと、妻が妊娠しもう一人子どもを迎えた。社会的な地位も物質的な豊かさも手に入れたはずだったがジョンの人生は崩壊しかけていた。すべてを与えてきたはずなのに、妻から結婚生活への不満を打ち明けられる。子どもたちともうまくいかない。さらに、工場の従業員たちが労働組合を作る運動をおこしたことで、管理職としての責任を問われる。
妻の強い勧めで牧師に相談すると、ミシガン湖の湖畔にある修道院の修養会に参加して、一人でじっくり考える時間を持つことを提案された。ばかばかしい提案だと思ったジョンだったが、修道院の修道士には、伝説的人物レナード・ホフマンがいると聞いて興味を引かれた。ホフマンは、フォーチュン500に入った企業の重役を務めた人物だ。海軍では将校として数々の勲章を得て、終戦後はそのリーダーシップで複数の崩壊寸前の会社を黒字転換させた。
リーダーシップに必要なのは、「権力」ではない
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ホフマンは、ブラザー・シメオンという名で修道士をしており、その週の修養会でリーダーシップについての講義を受け持つことになっていた。
ジョンを入れて6人の参加者は、日曜の朝に初日の講義を迎えた。シメオンがかつて会社で働いていたとき、職場ではリーダーが作り出した環境で従業員が多くの時間を過ごしているのに、その責任に無頓着なリーダーが多かったと語る。自分が率いる人の生活への影響など、考えたこともなかったジョンは居心地が悪くなった。これから7日間リーダーシップについて考えるにあたり、リーダーシップという言葉の定義を一緒に考えてほしいと、シメオンは全員に呼びかけた。そこで出た答えは、「共通の利益になると見なされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能」であった。