「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけないの表紙

「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない


本書の要点

  • 子育てにおいて大切なのは、制限をかけることではなく、その子に合った可能性を見せることだ。

  • 「人に迷惑をかけるな」という声かけは、「人に助けを求められない子」を育てることになりかねない。「困った人がいたら助けなさい」と教えることが、豊かな社会をつくることにつながる。

  • 「早くしなさい!」と言っても、子どもは何をしてよいかも、早くすべき理由もわからない。子どもとともに一貫性のあるルールを作り、それを習慣にしていくことが望ましい。

1 / 4

子どもに呪いをかける言葉

大人の反応や声かけで、子どもの自信と行動が変わる

子どもが算数のテストで低い点数をとったとする。それを見た親が「あなたは本当に算数が苦手だよね」と言ったら、子どもは「そうだ、自分は算数が苦手なんだ」と思い込み、それを証明するような思考や行動をとるようになっていく。一方で、正解できた部分に目を向けて「ここができるようになったね」と伝えれば、子どもは認めてもらえたと感じ、次はもっと頑張ろうと思うようになる。

このように、反応や声かけを変えれば、子どもの自信も次の行動も変わってくる。子どもの思考や行動は、大人の反応や声かけによって作られるのだ。

親の言葉が子どもの思考や認知を作る

yamasan/gettyimages

思考や認知は言葉によって作られる。つまり、親の言葉によって子どもの考え方や世界の見え方が変わるといえる。

『3000万語の格差』(ダナ・サスキンド、明石書店)は、幼児期における声かけの重要性を示す良書だ。この本によると、貧困層の子どもたちが3歳までに聞く言葉の数は、社会的に成功している層の子どもたちに比べて3000万語ほど少ないという。

著者のダナ・サスキンド氏は、耳の聞こえない子どもに人工内耳を移植する小児外科教授だ。彼女は、早い段階で耳が聞こえるようになれば、その子は言葉を理解して標準的な生活を送ることができると考えていた。だが生後7〜8か月に人工内耳を移植した2人の子どもを比較すると、それぞれの言語能力に著しい差が見られた。1人は小学3年生のときに標準的な読み書きができるようになったが、もう1人は幼稚園レベルにしかなれなかったのだ。後者は、家庭での声かけが圧倒的に少なかったことがわかっている。

また、社会的に成功している家庭では、豊かな語彙やポジティブな言葉が使われる傾向にあることも明らかになっている。親の使う言葉の数や種類によって、子どもの将来が左右されるのだ。

自己肯定感を下げる声かけから、可能性をひらく声かけに

社会が急速に変化する中、「子育てのやり方を変えないといけないのでは」と不安になっている人もいるようだ。しかし、社会がどう変わろうと、子育ての本質的な部分は何も変わらない。時代が激しく変化していくからこそ、本質に立ち返ることが重要である。

本書で伝えたいのは「『やめなさい』と制限をかけるのではなく、その子に合った可能性を見せること」だ。それなのに現代の日本は、「あれはダメ、これはダメ、もっと空気を読みなさい」と、その子の可能性をつぶしてしまう方向に向かっているように見える。

グローバル化とテクノロジーの進歩は、管理社会化を進めている側面がある。どんな情報も履歴に残り、趣味嗜好や行動がすぐにバレてしまうだけでなく、下手したら「晒される」。ますます「空気を読まなければならない感」が強まっているのである。

日本人はもともと、お互いの意図を察し合う「ハイコンテクスト文化」を持っている。しかしこれは世界のスタンダードではない。グローバルという観点でみると、価値観も体験も知識も違う人同士では、空気を読むことなどできるはずがないだろう。

日本は、以心伝心のカルチャーを持ちつつも、きちんと自己主張でき、自分で選択して行動できる文化へとバージョンアップすべきである。そのためには、子育てや教育の本質に立ち返り、子どもたちにかける言葉を変えることだ。子どもたちの自己肯定感を下げ、判断力を奪う声かけから、可能性をひらく声かけに変えていこう。

2 / 4

【必読ポイント!】自分から動けなくなる呪いをかける言葉

「人に迷惑をかけるな」

TARIK KIZILKAYA/gettyimages

ここからは、子どもにかけがちな「呪いの言葉」を例に出し、その言葉をどう変えていくべきかを考えていく。

まずやめたい声かけは「人に迷惑をかけるな」だ。多くの親が子どもに言っていることだろうが、誰にも迷惑をかけずに、誰の手も借りずに生きている人なんているのだろうか?

もっと見る
この続きを見るには...
残り2036/3632文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2021.10.16
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

なぜ、あなたは他人の目が気になるのか?
なぜ、あなたは他人の目が気になるのか?
根本裕幸
気くばりがうまい人のものの言い方
気くばりがうまい人のものの言い方
山﨑武也
がんばらない戦略
がんばらない戦略
川下和彦たむらようこ
人生の扉を開く最強のマジック
人生の扉を開く最強のマジック
関美和(訳)ジェームズ・ドゥティ荻野淳也(解説)
世界で活躍する人の小さな習慣
世界で活躍する人の小さな習慣
石倉洋子
自己肯定感のコツ
自己肯定感のコツ
植西聰
超ライティング大全
超ライティング大全
東香名子
いちいち悩まなくなる 口ぐせリセット
いちいち悩まなくなる 口ぐせリセット
大嶋信頼

同じカテゴリーの要約

いいことが起こる人の習慣
いいことが起こる人の習慣
内藤誼人
頭の中がどんどん言葉になる瞬間言語化トレーニング
頭の中がどんどん言葉になる瞬間言語化トレーニング
荒木俊哉
すぐやる! 「行動力」を高める“科学的な”方法
すぐやる! 「行動力」を高める“科学的な”方法
菅原洋平
なぜ働く?誰と働く?いつまで働く?
なぜ働く?誰と働く?いつまで働く?
有山徹
無料
精神科医が教える 休みベタさんの休み方
精神科医が教える 休みベタさんの休み方
尾林誉史
なぜか機嫌がいい人がやっている100の習慣
なぜか機嫌がいい人がやっている100の習慣
藤本梨恵子
「自分には価値がない」の心理学
「自分には価値がない」の心理学
根本橘夫
決定版 アドラー心理学がマンガで3時間でマスターできる本
決定版 アドラー心理学がマンガで3時間でマスターできる本
吉田浩岩井俊憲 (監修)
そろそろ論語
そろそろ論語
浅田すぐる
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
榎本博明