戦後の高度経済成長期から称揚されてきたのは、「成功のキャリア」である。経済的価値にのっとり、上昇することだけを善としてきた。競争路線から外れると、負け組の烙印を押され、敗者復活も難しい。その反動として生まれたのが、仕事はほどほどにして自分の心と身体を守る「自己防衛のキャリア」である。
ときには自己を痛めつけながら戦う「成功のキャリア」も、快ばかりを追うことになりかねない「自己防衛のキャリア」も、極端な価値観だ。人生100年時代が到来した今、この2つのキャリア観を止揚したところにある「健やかさのキャリア」を育むべきだ。これは、自分の「在り方」を見つめ、働くことで「ウェル・ビーイング(良好、健やかであること)」な状態になることを目指すものだ。
生きる営みには、3つの戦いがある。
1つ目の戦いは、「身体・生活の維持」だ。生きるためには、働いてお金を稼ぐ必要がある。経済力を持つようになると「もっと持ちたい」「もっと快くすごしたい」という、「より裕福な生活」を求めるようになる。これが2つ目の戦いである。物質的、経済的に満たされることによって生活がおだやかになるが、これはまだ、「小さな健康」と呼ぶべき状態だ。
3つ目の戦いは、「大きな健康」を得るための、生きる意味の探求である。これを得るためには、想像や貢献に軸足を置いた活動に邁進する必要がある。自分の能力的存在が十分に開いていると感じたとき、人はもっとも強く安定する。それが長いキャリアを渡っていく健康力になる。
「健やかな仕事」とは、「こころとからだが強く安定した状態でなされる仕事」であり、同時に「それを行うことにより、こころとからだを強く、安定した状態にさせる仕事」である。「健やかな仕事」を積み重ねることで、「健やかなキャリア」が築かれる。
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