本書の要点

  • 認知症を知るうえでは、医療従事者や介護者からの視点だけではなく、当事者の視点からの情報が欠かせない。当事者の視点を知ることが、認知症を抱える人の「生きづらさ」の解消へとつながる。

  • 認知症とは、認知機能が働きにくくなったために生活に困難を抱えている状態を指す。同じ「困りごと」に悩んでいても、その背景にある問題が同じとは限らない。「認知症」とひとくくりにせず、一人ひとり違うものとしてとらえることが重要である。

  • 認知症は、知らない誰かの問題ではなく、「少し先の未来の自分」、あるいは「自分の大切な家族」の問題である。

1 / 4

【必読ポイント!】「当事者の視点」で認知症を知ること

認知症の生きづらさ

認知症のある人の心と身体にはどのような問題が起きていて、いつ、どこで、どのような状況で生活しづらさを感じているのか。こうしたことを調べようとしても、見つかる情報は医療従事者や介護者視点で症状を説明したもので、当事者視点で「困りごと」を語った情報はほとんど見つからない。当事者視点の欠落が、認知症に関する知識やイメージの偏りを生み、本人と周囲の生きづらさにつながっている。「困っていることがあるのにうまく説明できない」という当事者の気持ちと、「本人に何が起きているのかわからないから、どうすればいいのかわからない」という周りの人の気持ちのすれ違いを少しでもなくすことが、本書の目的である。本書は認知症のある人にインタビューを重ね、蓄積した「語り」をもとに構成されている。認知症のある人が経験する出来事を、「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式にまとめ、身近でわかりやすいストーリーとして紹介する。

認知症は一人ひとり違う

kazuma seki/gettyimages

認知症とは、「認知機能が働きにくくなったために、生活上の問題が生じ、暮らしづらくなっている状態」を指す。認知機能とは、「ある対象を目・耳・鼻・舌・肌などの感覚器官でとらえ、それが何であるかを解釈したり、思考・判断したり、計算や言語化したり、記憶に留めたりする働き」だ。認知症のある人が入浴を嫌がるという話はよく聞く。しかし、その背景となる認知機能のトラブルは人それぞれだ。温度感覚のトラブルでお湯が極度に熱く感じるのかもしれないし、空間認識のトラブルで服の着脱が困難であったり、時間認識のトラブルで入浴したばかりだと思っているのかもしれない。「入浴を嫌がる」という1つのシーンをとっても、その人が抱える心身機能障害や生活習慣、住環境によって、なぜ、どんなことに困難を感じるかは異なる。「認知症」とひとくくりにしないことが重要だ。同じ困りごとでも、その背景にある理由によって対応の仕方は異なる。認知症は、少なくとも現時点では治すことができない。しかし、「本人の視点」から認知症を学び、生活の困りごとの背景にある理由を知れば、認知症との付き合い方や周りの環境を変えることができる。「病」を診て「症状」に対処する医療・介護視点のアプローチだけでなく、「人」を見て「生活」をともに作り直すアプローチもあるのだ。超高齢社会の日本で、認知症のある人が生きている世界を想像できる人が増えることで、良い変化があるはずだ。本書に登場するのは、架空の主人公でも、知らない誰かでもなく、「少し先の未来のあなた」、あるいは「あなたの大切な家族」である。

2 / 4

記憶と五感のトラブル

乗り込むと記憶を失う「ミステリーバス」

yangwenshuang /gettyimages

あなたはこれから認知症世界を旅していく。この世界の玄関口には、不思議なバス、「ミステリーバス」の停留所がある。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3394/4584文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2022.01.16
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

14歳からの個人主義
14歳からの個人主義
丸山俊一
知的文章術入門
知的文章術入門
黒木登志夫
ウイルスと共生する世界
ウイルスと共生する世界
フランク・ライアン多田典子(訳)福岡伸一(監修)
いつも「ダメなほうへいってしまう」クセを治す方法
いつも「ダメなほうへいってしまう」クセを治す方法
大嶋信頼
未来のきみを変える読書術
未来のきみを変える読書術
苫野一徳
読解力の強化書
読解力の強化書
佐藤優
会議の強化書
会議の強化書
高橋輝行
Invent & Wander
Invent & Wander
関美和(訳)ジェフ・ベゾスウォルター・アイザックソン(序文)

同じカテゴリーの要約

大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる
大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる
井堀利宏
忘我思考
忘我思考
伊藤東凌
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
榎本博明
すばらしいクラシック音楽
すばらしいクラシック音楽
車田和寿
すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる
すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる
荒俣宏
教養主義の没落
教養主義の没落
竹内洋
現代語訳 福翁自伝
現代語訳 福翁自伝
福澤諭吉齋藤孝(編訳)
町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
飯田一史
君たちはどう生きるか
君たちはどう生きるか
吉野源三郎
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅香帆