遊牧民から見た世界史

増補版
未読
遊牧民から見た世界史
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遊牧民から見た世界史
出版社
日本経済新聞出版

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定価
1,047円(税込)
出版日
2011年07月01日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

私たちは歴史を「事実」として認識している。しかし、歴史とは残された記録によって紡がれるものである。記録を残した者によってバイアスがかけられているのは、考えてみれば当然のことだ。

また、私たちは現在の枠組みを、過去にも投射してしまいがちだ。今自分が持っている常識はほんの数十年で定着したものかもしれず、それを何百年、何千年にわたる過去に当てはめて考えるのは適切ではない。「歴史」をあるがままに捉えるということは、実は非常に難しく繊細な作業なのである。

本書は膨大な史料をもとに、「世界史」を問い直す。著者は旧来の「世界史」は、西欧中心に据えられた「西欧史」だと批判する。西欧が世界をつなぎ「世界化」したことを、一部では認めつつも、西欧に覇権が移るまで重要な地位を占めた中央ユーラシアに注目し、「世界史」を見つめ直すというのが本書の主旨だ。

中央ユーラシアで重要な役割を果たしたのが遊牧民だという。日本のように水と緑が豊富な土地に住んでいると、定住しない生活というのはイメージしにくい。しかし、作物が育たないような広大な乾燥地域では、移動生活が必然であった。「非定住生活は特殊である」という考えには、現代日本に住む我々のバイアスがかかっていることを忘れてはならない。

文字通りのグローバル(地球)化が進んだ現代、歴史をあるがままに捉えるという試みは、単に「歴史を知る」ということ以上に、思考を深めてくれるだろう。

ライター画像
千葉佳奈美

著者

杉山正明(すぎやま まさあき)
昭和27(1952)年静岡県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。京都大学人文科学研究所助手、京都女子大学専任講師、助教授を経て、現在、京都大学大学院文学研究科教授。主要研究テーマはモンゴル時代史。日本におけるモンゴル史研究の第一人者。95年『クビライの挑戦』でサントリー学芸賞、03年司馬遼太郎賞、06年紫綬褒章、07年『モンゴル帝国と大元ウルス』で日本学士院賞受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    世界史は「ユーラシア史」である時代が長かった。西欧中心の「世界史」において、15~16世紀に世界が「発見」される以前から、ユーラシアは広くゆるやかなつながりを持っていた。
  • 要点
    2
    中央ユーラシアは、ヨーロッパとアジアを合わせた地域の内陸部分を指す。この巨大な地域は「乾燥」を共通項とした、同質性の高い地域である。
  • 要点
    3
    中央ユーラシアは草原とオアシスに二分化される。草原で非定住生活を営んだのが遊牧民である。彼らの存在が地域を結び付け、ひとつの大きな「世界」をつくり出した。

要約

【必読ポイント!】 中央ユーラシア世界に住む人々

「ユーラシア」とは何か

ヨーロッパとアジアを合わせて「ユーラシア」と呼ぶ。これにアフリカを加えた「アフロ・ユーラシア」という呼び名もある。ある一定の価値観やイメージがつきまとう「旧世界」「旧大陸」などの呼び方に比べ、ユーラシアやアフロ・ユーラシアは乾いた表現である。

地球上の陸地の主要部分はユーラシアと北アフリカに偏在しており、そこが長らく人類にとっての「世界」であった。人類の歴史である「世界史」が「ユーラシア世界史」である時代が長く続き、現在に至る「地球世界史」の時代になってからはまだ日が浅い。

ユーラシアの海に近いところは緑が濃いが、内陸に入ると乾燥地帯となる。この乾燥が共通項となった地域をひとまとめに「中央ユーラシア」と呼ぶ。アジアだけでなく、ヨーロッパにまで及ぶ広範な地域だ。中央ユーラシアは巨大だが同一性の高い生活圏である。北から順に横縞の帯状に、タイガ、森林草原、ステップ、半砂漠、砂漠が広がり、人々の暮らし方は狩猟、牧畜、遊牧、農耕、商工業などの単純な区分となる。生活のし方が、人種や言語の違いとは別の区分の指標となっている。

乾燥を第一の共通項とする中央ユーラシアにおいては、そこで暮らす人々の意識や価値観も共通性を帯びている。複数の地域単位からなる巨大地域であり、歴史上、密接・不可分の関わり合いの中で動いている。

「乾燥」を共通項とする巨大地域
hadynyah/gettyimages

この巨大地域である中央ユーラシアの歴史がひとまとまりに語られることは少なかった。古くからあるのは「東西文化の通過点」というシルク・ロードのイメージである。東の中国文明と西のイランや中東、地中海地域が、「不毛の地域」を通って結ばれるイメージだ。

重要な物事はこの土地の外側の「文明地域」からやってくると思われ、内陸世界そのものは「文明」とみなされてこなかった。

しかし近年、そうした風潮が見直され始めている。内陸地域に共通した諸要素や歴史展開が認識され、地域を総述しようとする試みがなされている。

中央ユーラシアは「草原とオアシス」という二大区分によって把握されている。これは「点と面」、「動くものと動かないもの」、「遊牧と農耕」といった二種類の生活形態を象徴する。

両者に共通するのは「乾燥」である。中央ユーラシアには草原、荒野、砂漠が広がっている。いずれも乾燥した地域で、山麓の湧水線などのオアシスを除けば、人間の定住は難しい地域である。農耕はもちろん、定住型の牧畜もまず不可能だ。

「遊牧民」という人々

このような「不毛の大地」を生活圏としたのが遊牧民である。遊牧民の存在により、点在するオアシスが結び付けられた。

遊牧民という「面」と「移動」の中で生きる人々の存在によって、中央ユーラシアはひとつの「世界」となり得たのである。彼らがいなければ、ユーラシアと北アフリカという「陸の世界」はつながることはなかった。

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