22世紀の民主主義
22世紀の民主主義
選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる
22世紀の民主主義
出版社
SBクリエイティブ

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出版日
2022年07月15日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書を読むと、現代において国を動かしている政治や選挙の在り方が、民主主義を実現する数多き手段のうちのたった一つに過ぎないことを実感できる。そして、それは数百年前に構想されたにもかかわらず、今もなお使われ続けているという現実を。

本書は近年多くのメディアで引っ張りだこの研究者で事業者、成田悠輔氏による処女作である。成田氏は、実のところ政治にも政治家にも選挙にも興味が持てず、「どうでもいい」と感じてきたそうだ。しかし、そのことが本書を書くきっかけとなった。

多角的な思考を持つ成田氏は「どうしたら民主主義をより良いものにできるか」という難題について、あらゆる可能性と脆弱性を検討した挑戦を綴った。現在、世界中で発現している社会現象を「民主主義の故障」と称し、その故障に対して「闘争・逃走・構想」の3つの切り口で解決への糸口を探っていく。どの切り口も豊富な過去事例と多彩な視野に富んだ刺激的な内容だ。

多くのメタファーと本心を織り交ぜた独特の文章は、噛めば噛むほど味が出て読者の感性をくすぐってくれる。要約は、本編に凝縮されている議論のほんの一部を抜粋できたに過ぎない。そのため詳細は是非原本にて確認し、正しい情報量と文脈を追った上で著者の主張を受けとめてほしい。

やるせない社会と忍耐強く日々闘争する人、失望し新天地へ逃走しようとする人。どちらの属性の方にも、現代社会に起きている症状について深い洞察を与えてくれる一冊だ。

著者

成田悠輔(なりた ゆうすけ)
夜はアメリカでイェール大学助教授、昼は日本で半熟仮想株式会社代表。専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う。混沌とした表現スタイルを求めて、報道・討論・バラエティ・お笑いなど多様なテレビ・YouTube番組の企画や出演にも関わる。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員などを兼歴任。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビューInnovators under 35 Japan・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    21世紀に入り、政治や政策が閉鎖的で近視眼的になる「民主主義の劣化」が起きている。
  • 要点
    2
    民主主義と闘争する方法はいくつか考えられるが、既得権益者らが自らの地位を脅かすことはしないため、始めから詰んでいる。
  • 要点
    3
    政治的に逃走をする「デモクラシー・ヘイブン」という考え方もある。だが、それは成金的発想であり、問題を根治することはできない。
  • 要点
    4
    民主主義的意思決定における入力と出力の質・量を拡げる「無意識データ民主主義」は、無数の政策や論点に同時並行して対処できるため、かつてない拡張可能性と自由度を獲得できる。

要約

故障

民主世界の失われた20年

富める者をさらに勝たせることが得意な「暴れ馬・資本主義」に「民主主義という手綱」をかけることで拮抗を保ってきたのが、ここ数十年の民主社会の構図であった。しかし、21世紀を迎えた現代においてはそのバランスが崩れかけている。資本主義の加速と民主主義の重症化だ。

ネットを通じた中東の民主化運動である「アラブの春」は一瞬火花を散らしただけて挫折し、むしろフェイクニュースなどの侵食により、米トランプ大統領、ブラジルのボルソナロ大統領などのポピュリスト政治家が増殖したと信じられている。

実際、民主主義は後退しており、非民主化・専制化へと舵を切る国が増加傾向にある。スウェーデン発の「多種多様な民主主義(Varieties of Democracy=通称V-Dem)」プロジェクトが作成した2001~19年における民主主義指数とGDP成長率の分析も、民主主義と経済成長の間に負の相関関係があることを示す。これは20世紀には見られなかったものだ。

「民主世界の失われた20年」とでも言うべきこの現象は、どの大陸・地域でも見られるグローバルな現象である。

コロナ禍では民主主義的な国であるほど命も金も失っている。「人命か経済か」という二者択一の議論はおそらく的外れだっただろう。その両方を救った国家はあったのだから。

民主国家ほど進む民主主義の「劣化」
Andrii Yalanskyi/gettyimages

前出のV-Demプロジェクトは、民主主義と専制主義の現状を定点観測するデータを世界中の国から収集しているが、著者はそこから次のような示唆を得る。民主主義への典型的脅威が今世紀に入ってから世界的に高まり、とりわけもともと民主主義的な国でその傾向が特に顕著であることだ。

ここでいう民主主義への典型的脅威とは、①政党や政治家によるポピュリスト的言動、②政党や政治家によるヘイトスピーチ、③政治的思想・イデオロギーの分断、④保護主義的政策による貿易の自由の制限、の4つだ。横軸に各国の民主主義度合い、縦軸に各4指標の過去20年間での増加分をとったグラフを作成すると、見事にどの指標も正の相関関係が見られた。

トランプ元大統領のような政治家が増え、政治的な分断の高まりに乗じて極端な政策を掲げる。将来の税制や貿易に不透明感が増し、事業活動と経済政策を鈍らせる。

インターネットやSNSの興隆も過度に民主主義を磨き上げ、世論の細かな動きまで政治を反映するようになった。「超人的な速さと大きさで解決すべき課題が降ってきては爆発する21世紀の世界では、凡人の日常感覚(=世論)に忖度しなければならない民主主義はズッコケるしかないのかもしれない」。

闘争

民主主義の「闘争・逃走・構想」

こうして、民主主義が重症に陥っている。では、民主主義が生き延びるためには何が必要だろうか。

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要約公開日 2022.07.25
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