「価格上昇」時代のマーケティングの表紙

「価格上昇」時代のマーケティング

なぜ、あの会社は値上げをしても売れ続けるのか


本書の要点

  • 価格上昇時代を生き残るには、まず「値上げは悪」という固定観念から解き放たれることだ。

  • 値付けは、原価や仕入れ値にとらわれずに顧客の心の中の比較対象から考えること。そして何度か試して収益最大化ポイントを見つけ出そう。

  • 値上げをする時は、その理由をはっきりと伝えること。提供する商品やサービスに、楽しさと体験を加えていくことで、高い価格を喜んで払ってもらえるようにするのが値上げの作法だ。

  • マスターとして新しい世界を示すことができれば、値段を気にせず、顧客に愛され、喜ばれるビジネスを営んでいけるだろう。

1 / 5

「安さこそが価値」からの脱却

意味のあるものが選ばれる

AlpamayoPhoto/gettyimages

コロナ禍の影響で価格高騰の波が一気に押し寄せてきた。しかし、多くの企業やお店は値上げに踏み切ることができないでいる。「値上げは悪」「1円でも安く」という固定観念の呪縛から解き放たれなければ、価格上昇時代に生き残ることはできない。

理解しておくべきは、消費者は「どうでもいいものにはお金を使わないが、自分にとって意味があると思ったら、惜しみなくお金を使う」ということだ。著者はこれを「意味合い消費」と呼んでいる。

例を挙げて説明しよう。都内でレストランを経営する「ティナズダイニング」はその運営店舗で、人気漫画『ゴールデンカムイ』に出てくる「チタタプ」という料理を再現した「アイヌジビエコース」を出している。お客さんがその場で「チタタプ、チタタプ」と唱えながら肉を叩いて作るユニークなもので、値段は8580円とかなりの高額だ。

だが、客には「アルバイト代を貯めて来た」という若いカップルも来るらしい。生活必需品への出費を切り詰めて、このレストランでの食事に「予算」を「配分」したのだ。

コロナ禍により、誰もが「限りある自分たちの時間やお金を何に使うか」を深く考えるようになった。だからこそ「意味のある」ものが選ばれる。「価値をしっかり伝えれば、価格維持どころか、価格を上げても売上が落ちることはない」。

2 / 5

「価格」は「価値」に従う

価値を語れば価格は消滅する

お客さんがものを買うまでには、「買いたいか、買いたくないか」と、「買えるか、買えないか」の「2つのハードル」があるが、2つ目の価格のハードルは意外と低い。

東京都板橋区主催の「ワクワク系の店づくり実践講座」に参加した惣菜屋の「おかずや」は、自慢のビーフシチューを800円で売っていた。他店と比べて高額なため、なかなか売れなかったという。それもそのはず、「ビーフシチュー 800円」としか書かれていなかったPOPは、「買いたい」という1つ目のハードルを越えられていなかったのだ。

そこで、「大きなお肉をじっくり煮込み余分な脂をとりのぞき、三日がかりで作りました、当店のおすすめです」と書き換え、その価値を伝えることにした。売上は一気に例年の2倍になった。

ビジネスにおいて、主役は「価格」ではなく「価値」なのだ。

そうして「買いたい」のハードルを越えれば、あとは「買えるか、買えないか」だ。ここに関与してくるのが予算の「配分」である。買おうとしている商品・サービスが自分にとって意味のあるものと感じれば感じるほど、その商品・サービスへの配分は多くなり、「買えない」のハードルは下がることになる。

つまり、「価格」は「価値」に従うのである。商品の価値を伝えていくことに、じっくりと取り組む。「価値」あるものになれば、「価格」は消滅する。

3 / 5

「値付け」の作法

顧客本位で価格を付ける

IvelinRadkov/gettyimages

価格を原価から決める方法は大量消費時代のやり方であり、現代にはそぐわないし、「作り手本位」「売り手本位」だ。同業他社の価格と横並びか、少し安い価格を付けようとすることも間違いである。「安くないと売れない」という古い常識に縛られている。ではどうやって「値付け」をすればよいのか。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2988/4305文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2022.10.30
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

最強知名度のつくり方
最強知名度のつくり方
西村誠司
売上最小化、利益最大化の法則
売上最小化、利益最大化の法則
木下勝寿
成長の技法
成長の技法
田坂広志
自分の仕事をつくる
自分の仕事をつくる
西村佳哲
3秒で勝負を決める ビジネスTikTok
3秒で勝負を決める ビジネスTikTok
堀越大樹
BtoBマーケティングの定石
BtoBマーケティングの定石
垣内勇威
戦略的ビジネス文章術
戦略的ビジネス文章術
野上英文
ダマシオ教授の 教養としての「意識」
ダマシオ教授の 教養としての「意識」
千葉敏生(訳)アントニオ・ダマシオ

同じカテゴリーの要約

ベンチャー人事のすごい仕組み
ベンチャー人事のすごい仕組み
村上亮
大きなシステムと小さなファンタジー
大きなシステムと小さなファンタジー
影山知明
非常識な「ハイブリッド仕事論」
非常識な「ハイブリッド仕事論」
文化放送 浜カフェ(著)入山章栄(編)
アメーバ経営 新装版
アメーバ経営 新装版
稲盛和夫
「人事のプロ」はこう動く
「人事のプロ」はこう動く
吉田洋介
無料
新版 エスキモーに氷を売る
新版 エスキモーに氷を売る
ジョン・スポールストラ佐々木寛子(訳)
カスハラの正体
カスハラの正体
関根眞一
心理的安全性のつくりかた
心理的安全性のつくりかた
石井遼介
小澤隆生 起業の地図
小澤隆生 起業の地図
北康利
ユニクロ
ユニクロ
杉本貴司