ウクライナ戦争と世界のゆくえ

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ウクライナ戦争と世界のゆくえ
出版社
東京大学出版会

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出版日
2022年08月01日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

ウクライナとロシアの戦争は、日本でも大きく報道され、高い関心をもって受け止められた。専門的な知識を持たない我々は、ともすればロシア側・ウクライナ側というふうに、世界を2つに分けてしまいがちだ。しかし、現実はそう単純ではない。戦争自体、多くの専門領域にまたがり、多様な議論が溢れている分野である。けれども我々の眼差しはそこまで届かない。「アメリカや欧州がロシアに反発するのはなんとなく理解できるけど、中東や中央アジアがどういう理屈で行動しているのかまるでわからない」という人は多いだろう。比較的日本人の関心が高い中国も、ロシア寄りになったかと思えば国連で距離をとり、かと思えば台湾をけん制したりと、やはり直感的には理解できない行動が目に付く。

本書は、地域・国際関係の研究者がそれぞれの専門分野から、ロシア・ウクライナ戦争を多角的に論じたものだ。ロシア・ウクライナ戦争の性質、経済制裁の有効性、中国や中東の思惑や行動原理についても論じられ、どの章も実に読みごたえがある。要約という形では省かざるを得なかったが、書籍ではより緻密に論理が展開され、多くの参考文献が記載されている。手に取れば、それぞれの分野の研究者ならではの確かな視点が感じられるはずだ。

メディアには、この戦争に関するさまざまな質の情報が溢れている。だからこそ、今一度専門家の眼差しを取り入れ、戦争の多様性に触れてみてはどうだろうか。

著者

鈴木一人(すずき かずと)
東京大学公共政策大学院教授
専門は国際政治経済学・科学技術と安全保障・宇宙政策
著書に『宇宙開発と国際政治』(岩波書店)、『EUの規制力』(日本経済評論社、共編著)などがある。

小泉悠(こいずみ ゆう)
東京大学先端科学技術研究センター専任講師
専門はロシアの安全保障政策
著書に『現代ロシアの軍事戦略』(筑摩書房、2021年)、『「帝国」ロシアの地政学――「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版、2019年)などがある。

鶴岡路人(つるおか みちと)
慶應義塾大学総合政策学部准教授
専門は現代欧州政治、国際安全保障
著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(筑摩書房)、『EUの国際政治――域内政治秩序と対外関係の動態』(慶應義塾大学出版会、共編著)などがある。

森聡(もり さとる)
慶應義塾大学法学部教授
専門は国際政治学、現代アメリカ外交、冷戦史
著書に『ヴェトナム戦争と同盟外交――英仏の外交とアメリカの選択1964-1968年』(東京大学出版会)などがある。

川島真(かわしま しん)
東京大学大学院総合文化研究科教授
専門はアジア政治外交史
著書に『中国のフロンティア』(岩波書店)、『21世紀の「中華」』(中央公論新社)、『20世紀の東アジア史』(共編著、東京大学出版会)、『よくわかる 現代中国政治』(共編著、ミネルヴァ書房)、『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』(共編著、東京大学出版会)など多数。

宇山智彦(うやま ともひこ)
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授
専門は中央アジア近現代史、比較政治
著書に『現代中央アジア:政治・経済・社会』(共編著、日本評論社)、『ロシア革命とソ連の世紀5 越境する革命と民族』(編著、岩波書店)、『ユーラシア近代帝国と現代世界』(編著、ミネルヴァ書房)などがある。

池内恵(いけうち さとし)
東京大学先端科学技術研究センター教授
専門はイスラーム政治思想史・中東研究
著書に『アラブ政治の今を読む』(中央公論新社)、『増補新版 イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社)『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)、『シーア派とスンニ派』(新潮選書)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    ロシア・ウクライナ戦争は、クラウゼヴィッツの言う「古い戦争」の色が濃い。それは政治目的を達成するために軍事力を振るう「拡大された決闘」である。
  • 要点
    2
    一方で、この戦争は新しい戦争としての側面も有しており、戦争の形態が簡単には消えずに多様性を残していることを示唆している。
  • 要点
    3
    中国はロシアと緊密な関係を築きながら、必ずしも一枚岩とはいえない行動をとっている。共産党の人事によってその行動はある程度制限されている。また、対外政策ではアメリカが念頭に置かれている。

要約

【必読ポイント!】 古くて新しいロシア・ウクライナ戦争(小泉悠)

「古い戦争」とは
CSA-Printstock/gettyimages

2022年2月に開始されたロシアのウクライナ侵略(以下ロシア・ウクライナ戦争)は、第二次世界大戦後の欧州で発生した最大規模の国家間戦争だ。プーチン大統領が戦争を始めた動機を、現時点で正確に論じることはできない。それは後世の歴史研究に任せ、ここではロシア・ウクライナ戦争の性質について論じていく。

19世紀、プロイセンの軍人だったカール・フォン・クラウゼヴィッツは著書『戦争論』で、戦争を「他を以てする政治の延長」と定義した。それは国家が「政治」的な目的を達成するために暴力を使う闘争であり、クラウゼヴィッツは戦争を「拡大された決闘」にたとえた。こうした戦争をここでは「古い戦争」と位置付けよう。

その後、1990年代から2000年代にかけて、この戦争モデルに対して、次のような議論が盛んになった。『戦争論』での戦争は歴史的に見ると必ずしも普遍的なものではない。近代国家が出てくる前の軍事力は貴族、教会、都市などに広く偏在し、名誉、宗教的使命など、政治的目的以外にもさまざまな目的で行使された。破滅を伴う核兵器が登場してからは、政治的目的達成のための国家間戦争は合理的ではなくなった。超国家的機構、地域間機構、非国家主体などの登場により、国家は相対化されていく。冷戦終結後は多くの社会主義国家が崩壊し、米ソの戦略に支えられていた国家が失敗国家化していった。こうした状況下で、人々は国家と自己を同一化しなくなり、戦争を避けるようになっていった。

多くの論者は、クラウゼヴィッツの戦争は過去のものになっていくだろうと予想した。21世紀における戦争は、国家同士の大きな軍事衝突とは限らない。その動機も政治的目的の達成とは限らず、勝利ではなく戦争という状況のなかで利益を得ることにすぎない、というわけだ。

古い戦争とロシア・ウクライナ戦争

しかし、今回のロシア・ウクライナ戦争は全体的に「古い戦争」の特徴が色濃い。

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要約公開日 2022.11.26
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