経営戦略としての人的資本開示

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ジャンル
出版社
日本能率協会マネジメントセンター

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出版日
2022年06月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

人的資本経営への注目が一気に高まっている。2022年8月には、内閣官房が「人的資本可視化指針」を公表した。2023年には大手企業に対し、人的資本の情報開示が義務づけられる見込みだ。欧米ではすでに人的資本の情報開示が始まっており、重要な企業情報の1つとなっている。一方、日本では、人的資本経営の重要性はわかっていても、その情報をどう開示したらいいのか悩む経営者・人事担当者が多いという。そもそもなぜ開示が必要なのだろうか。

本書を読めば、戦略的な開示が企業価値向上につながる重要な手段であると実感できる。まず自社の人的資本経営における強みや弱みを把握し、理想の姿を描く。そのうえで、現状を開示することにより建設的なフィードバックを得やすくなる。それを踏まえて改善を積み上げた結果、人的資本経営がレベルアップし、投資家など多方面のステークホルダーから高い評価を得られるようになるのだ。

本書には、そんな戦略的開示のノウハウが詰まっている。人的資本開示の世界的潮流、人的資本経営の実現に向けたHRテクノロジーの活用、会計学からのアプローチ、分析の方法論など、実践的な内容ばかりだ。経営者や人事部門、サステナブル経営推進部門、IR部門にとっては、必読の内容といえる。

著者らは2024年には日本が人的資本開示の先頭を走る欧州市場に追いつくと予想している。人的資本開示の本質とプロセスを体系的につかむうえでも、本書をおすすめしたい。

ライター画像
中山寒稀

著者

一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム
HRテクノロジー活用と人的資本情報開示の普及のため、法人・個人会員と政・学・官のオープンな連携、業種業態を超えて中立的でオープンなディスカッション等を行う団体。日本企業が世界で戦うために極めて重要となるHRテクノロジーおよび人的資本マネジメント関連市場の成長・底上げに直結する「非営利」だからこそできる活動を推進。対象分野は、HRテクノロジー活用、人的資本の情報開示、HRデータ分析、データドリブンHCマネジメント、AI(人工知能)、エンゲージメント、経営視点からの人的資本、健康経営、人材開発とHRテクノロジー、機械学習、ⅠoT、組織心理学等多岐にわたる。

本書の要点

  • 要点
    1
    人的資本開示の背景には、無形資産に対する金融市場の認識の変化、人事領域へのクラウドテクノロジーの流入、働き手の価値観の変化という3つのメガトレンドがある。
  • 要点
    2
    戦略的開示では、企業価値の向上を目的とし、開示はその手段だととらえる。
  • 要点
    3
    人的資本開示を実践するうえで、著者らは3つを提言している。それは、経営者・人事によるナラティブな説明、データサイエンスを用いた「攻め」の人事機能、人材版中期計画の策定である。

要約

戦略的な人的資本開示

3つのメガトレンド
metamorworks/gettyimages

2022年、日本の経済界において「人的資本開示」というテーマが大きく盛り上がっている。まずは、人的資本開示の背景で起きている3つのメガトレンドを紹介しよう。

1つめは、無形資産に対する金融市場の認識の変化である。2010年以降、投資家は人的資本を主な構成要素とする「無形資産」を重視する方向に変わっていった。アメリカのS&P500を対象とした企業価値の源泉を見極めるための分析によると、1975年には有形固定資産が83%、無形固定資産は17%だった。それに対し2020年には、無形固定資産が90%を占めている。ESG投資家が探しているのは、無形資産、特に人的資本を育むことにより企業価値の向上を目指す企業だ。人的資本の開示は今後の日本企業の経営のあり方を変えていくだろう。

2つめのメガトレンドは、人事領域へのクラウドテクノロジーの流入である。2010年代初頭より、人事領域でもHCMクラウドサービスを活用する企業が増えている。たとえば、S&P500の企業の半数が利用するワークデイは、労働集約的な業務の多くをクラウドで処理できるサービスだ。これにより、人事部門のスタッフは、戦略的な人事業務にフォーカスしていける。HCMクラウドサービスの浸透を背景として、人的資本マネジメント領域の国際標準規格「ISO30414」(人的資本開示ガイドライン)が生まれた。ISO30414の公表後、マルチステークホルダーに向けた開示を義務化する国が増えており、日本も急速にキャッチアップを始めている。

3つめのメガトレンドは、働き手の価値観の変化である。テレワークの普及も相まって、自分の意志で働く先を選び、よりよいキャリアを構築しようとする人が増えているのだ。企業と働き手は対等な立場で選び合う時代になった。経営者や人事担当者は、企業価値の向上に向けて、人事施策に働き手の価値観の変化を反映させる必要に迫られているのだ。

戦略的開示の効果

日本で本格化している人的資本の開示に対し、経営者や人事部門、IR部門の対応は次の2つに分かれることが予想される。

1つめの対応は、開示義務がある項目だけを最小限の労力で記述し、開示自体を目的とする「やっつけ開示」だ。人的資本経営の本質を省みることがないため、開示のボリュームと内容の質が低くなりがちだ。これでは人的資本経営のマネジメント品質の向上は期待できない。

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要約公開日 2022.12.24
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