リヴァイアサン 上

未読
リヴァイアサン 上
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リヴァイアサン 上
出版社
出版日
2022年12月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
3.5
革新性
5.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

世界史の教科書では必ず取り上げられるので、本書と著者の名前はよく知られているが、実際に通読したことがある人は多くないだろう。本書は、絶対王政を擁護したと説明されることも多いが、一方で、近代のリベラリズムの源流として位置づけられる書物でもある。一見すると矛盾した主張のように思えるかもしれないが、本書を直接読めば、その主張の理由が理解できるだろう。

著者にとって、国家とは個人の生命の安全を守るためのものであり、その目的を果たすために必要なのは、単一の主権への臣従である。君主制か合議制かといった統治形態の違いは必ずしも問題とはならない。本書が書かれた17世紀のイングランドでは、国王が処刑された清教徒革命を中心とした内戦による混乱が長期間続いていた。著者が抱いていたのは、そのような政治的混乱をなくすためにはどうすれば良いのかと考え抜く、冷静かつ情熱的な想いだ。

同時に、他者を侵害してでも自分が生き延びることが認められるという、そもそもの「自由」を放棄してでも契約が結ばれるのは、それが個人にとって合理的な選択となるからだとする、経済学やゲーム理論にも通じる先進的な発想も芽生えている。

論述に用いる言葉や概念を一つひとつ丁寧に定義しながら、演繹的に議論を進めていくスタイルは論理的だ。文化的背景が異なる現代に読んでも明晰に理解できる。政治に関する様々な思想の基礎となった本書は、国家や権力の本質を考える上で必読の書物だ。

ライター画像
大賀祐樹

著者

トマス・ホッブズ(Thomas Hobbes)
1588‐1679年。イングランドの哲学者・政治思想家。経験論・唯物論・唯名論を総合した立場に立ち、自然学・人間学・政治学の三部からなる壮大な哲学体系を構想する。自然権をもつ人間は、〈万人の万人に対する戦い〉にある自然状態から社会契約によって国家状態に移ると考えた。主著は『リヴァイアサン』。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間の力は平等だからこそ、ものを奪い合い、自分が生き延びるために争いが生じる。共通の権力がない段階では、人間は自分の安全を自力で守るためには何をしても不正にはならないため、各人の各人に対する戦争状態が生じる。
  • 要点
    2
    合理的に考えれば、危険な戦争状態よりも平和な状態のほうが確実に安全を保障できるため、各人は権利を譲渡して共通の権力に委ねるという信約を結ぶ。
  • 要点
    3
    共通の権力は、人であれ合議体であれ、一つの人格から構成される。人々は、主権を行使する一つの人格に臣従することで、戦争状態を脱し、平和を得る。

要約

人間と人工的な人間の本性

人工生命としての国家

時計のような自動機械は人工的な生命であると言える。心臓はバネであり、神経は紐、関節は歯車であって、これらは設計者が意図した通りの運動をもたらすからだ。人間はこのように、神の創造を技術によって模倣して、自動機械のような人工的動物を作り出すことができる。

技術はやがて、自然のもっとも優れた作品である〈人間〉を模倣して、「政治的共同体」あるいは「国家」と呼ばれる「リヴァイアサン」を創造する。リヴァイアサンは人間よりもはるかに巨大で、力も強く、人々を守るためにできている。〈主権〉は人工的な〈魂〉であり、〈為政者〉や〈役人たち〉は人工的な〈関節〉だ。そして、義務を遂行させる〈賞罰〉という〈神経〉を通して身体全体に命令が伝えられる。この政治体を作り上げる結合、統合における信約は、神が世界を創造した際の、「人間を造ろう」という布告に似ている。

本書ではこの人工的な人間の本性に関して考察しているが、要約では次の2点についてまとめる。第一に、素材であり製作者でもある人間について。第二に、リヴァイアサンはいかなる信約によって作られたのか、主権者の正当な権力と権威は何か、それを維持し、または解体するのは何か。

人間について
mathisworks/gettyimages

人間の思考は、すべて「感覚」に由来している。感覚は、外部の物体(対象)の運動により目や耳などの器官に刺激が与えられることによって生じ、心象を生み出す。対象がなくなっても私たちはその映像を保持できる。それが時間とともに衰えゆく感覚、「想像」だ。

そして、言語やそれ以外の記号によって与えられる想像が、〈理解〉である。言語がなければ、人間には政治的共同体も、社会も、契約も、平和もなかっただろう。人間は、想像と言葉による思考を行い、優れた論理的な推論を得ることで「学問」に到達する。

動物には2つの運動がある。脈拍、呼吸、消化、排泄のような、出生から始まり生涯を通して継続される〈生命的運動〉と、意志にもとづいて、心象として浮かんだとおりに身体を動かす〈動物的運動〉だ。したがって後者の運動のきっかけは想像作用である。それが、歩くこと、話すことなどの目に見える行為の前に現れる場合、「努力」と呼ばれる。その努力が、それを引き起こしたものに向けられると、「欲望」「欲求」となる。一方、努力が何かから離れようとする場合、「嫌悪」と呼ばれる。

人があるものを欲求するときには「愛する」と言われ、何かを嫌悪するときは「憎悪」と言われる。食事や排泄への欲望のように、生まれつき備わっている欲望や嫌悪もあるが、その数は多くない。

人間の欲望、欲求の対象は何であれ、その人にとっては善となり、憎悪、嫌悪の対象は悪となる。善悪はその語を用いる人の人格との関係において決まるので、単純かつ絶対的で本性にもとづく善悪の基準は存在しない。生命的運動を強める快楽は善の感覚であり、不快は悪の感覚である。また、熟慮の末にある行為を行うか回避するかに直結する最後の欲望または嫌悪を「意志」と呼ぶ。

人間の「力」とは、未来における明確な善を獲得するための手段であり、容姿や技能、高貴さといった身体や精神的な強さによる〈生来的な力〉と、財産や名声、幸運などの〈道具的な力〉がある。人間の力が最大になるのは、きわめて多くの人間の力が合成されるときであり、人々の力が同意によって一つの政治的な人格に合一されるときである。

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要約公開日 2023.03.04
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