目の見えない白鳥さんとアートを見にいく

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目の見えない白鳥さんとアートを見にいく
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目の見えない白鳥さんとアートを見にいく
出版社
集英社インターナショナル

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定価
2,310円(税込)
出版日
2021年09月08日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

目の見えない人がアートを「見る」? 著者のそんな疑問から3人の旅は始まる。

本書は、全盲の美術鑑賞者、白鳥建二さんと、著者、友人の佐藤麻衣子さんがバンドメンバーのように日本全国の美術館を巡り、ピカソや仏像、現代美術などの作品を前にしておしゃべりをする内容となっている。美術作品そのものを楽しむ本であり、全盲のひとの人生の話であり、酔っ払った友人同士の恋や夢をめぐる雑多な会話の記録でもある。

美術鑑賞の合間に、白鳥さんは少しずつ自分のことを語っていく。なぜ美術鑑賞を始めたのか、どんな作品が好きなのか、どんな子ども時代だったのか。白鳥さんを次々と「発見」していく形でストーリは展開する。

3人の面白おかしい、時としてちぐはぐな会話が、「言葉で鑑賞する」ことの可能性を広げていく。目の見えているひと同士でも、見えているものが違うことがある。だが、わたしたちは普段それを意識することがなく、自分の見えているものを言葉で共有しようとする機会は少ない。白鳥さんと鑑賞することで、著者の側に新たな発見や喜びが生まれていく。

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』は、多くの人の共感を得て、「2022年 Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」を受賞した。誰かと美術鑑賞をする喜び。自分の中にあった偏見。見えていても見えないもの。目の見えないひととの鑑賞を通して、本書のテーマはどんどん広がっていく。読み終わったら、世界の見え方が少し変わるかもしれない。多くのひとにぜひ読んでいただきたい一冊である。

著者

川内有緒(かわうち ありお)
ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。大学卒業後、行き当たりばったりに渡米。中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で新田次郎文学賞を、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『パリでメシを食う。』『パリの国連で夢を食う。』(共に幻冬舎文庫)、『晴れたら空に骨まいて』(講談社文庫)、『バウルを探して〈完全版〉』(三輪舎)など。白鳥建二さんを追ったドキュメンタリー映画『白い鳥』、『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督。現在は子育てをしながら、執筆や旅を続け、小さなギャラリー「山小屋」(東京・恵比寿)を家族で運営。趣味は美術鑑賞とD.I.Y。「生まれ変わったら冒険家になりたい」が口癖。
note.com/ariokawauchi/
Twitter:@ArioKawauchi/

本書の要点

  • 要点
    1
    全盲の美術鑑賞者・白鳥建二さんと、著者、友人の佐藤麻衣子さんは、日本全国の美術館を巡り、作品を前にして会話をする。白鳥さんは、アテンドの言葉を介して、美術作品を「耳」で見る。
  • 要点
    2
    白鳥さんとアートを見ていると、目の解像度が上がり、対話が生まれる。白鳥さんにアートを見せているようでいて、見せてもらっているのは自分たちなのかもしれない。
  • 要点
    3
    白鳥さんは美術が好きなのではなく、自分の実存を確かめるための手段としての美術館が好きなのである。

要約

全盲の美術鑑賞者、白鳥さん

言葉にすることで、目の解像度が上がっていく
nata_zhekova/gettyimages

「ねぇ、白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ! 今度一緒に行こうよ」。全盲の美術鑑賞者、白鳥さんと著者が出会ったのは、20年来の友人のマイティこと佐藤麻衣子の発した一言がきっかけだった。

目の見えないひとが美術作品を「見る」とはどういうことだろう。そんな疑問を抱きながら、著者はマイティに誘われ三菱一号館美術館に向かう。印象派の名画を集めた「フィリップス・コレクション展」で、3人の旅は始まった。

最初はピエール・ボナールの作品。「じゃあ、なにが見えるか教えてください」と、白鳥さんは明後日の方向を向いたまま囁く。マイティが白鳥さんの体に手を添え、絵に向かってまっすぐ立たせた瞬間、著者は理解した。彼は「耳」で見るのだ。

著者とマイティは、一つひとつの作品を描写しはじめた。同じ作品を見ていても、著者とマイティの受ける印象が真逆のときもあった。白鳥さんは正しい作品解説よりも、見ているひとが受けた印象や思い出などを熱心に聞きたがった。それは、「わかること」ではなく「わからないこと」を楽しんでいるようだった。

1つの作品を10分も15分もかけて言葉にしているうちに、途中から印象が変わったり、最初は気づかなかったディテールに驚かされたりもした。白鳥さんがいることで、目の解像度が上がり、これまでなかったような対話と満足感が生まれた。白鳥さんに絵を見せてあげているようでいて、本当に見せてもらっているのは自分たちのほうなのかもしれなかった。

“障害者のあるべき姿”への疑問

美術館に行く途中や展覧会を見終わった後、白鳥さんはたくさんの話をしてくれた。1969年生まれで、両親や親族に盲目のひとはいない。家族からは「苦労するに違いない」と心配され、特に祖母からは「ひとの何倍も努力しないと」と諭された。小学3年生で千葉県の盲学校の寄宿舎に入ると、通常の授業カリキュラムに加え、視覚障害者が独り立ちするためのスキルも叩き込まれた。白杖を使って街を歩けるようになり、高校生時には一人で中島みゆきのコンサートに行ったりもした。行動範囲が広がるにつれ、“障害者のあるべき姿”に疑問を抱くようにもなった。盲学校では、障害があるからこそまじめに努力しなければならないと教わった。そこには「障害者は弱者、健常者は強者」という考え方や、障害を補って健常者に近づこうという先入観があった。

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