目の見えない白鳥さんとアートを見にいくの表紙

目の見えない白鳥さんとアートを見にいく


本書の要点

  • 全盲の美術鑑賞者・白鳥建二さんと、著者、友人の佐藤麻衣子さんは、日本全国の美術館を巡り、作品を前にして会話をする。白鳥さんは、アテンドの言葉を介して、美術作品を「耳」で見る。

  • 白鳥さんとアートを見ていると、目の解像度が上がり、対話が生まれる。白鳥さんにアートを見せているようでいて、見せてもらっているのは自分たちなのかもしれない。

  • 白鳥さんは美術が好きなのではなく、自分の実存を確かめるための手段としての美術館が好きなのである。

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全盲の美術鑑賞者、白鳥さん

言葉にすることで、目の解像度が上がっていく

nata_zhekova/gettyimages

「ねぇ、白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ! 今度一緒に行こうよ」。全盲の美術鑑賞者、白鳥さんと著者が出会ったのは、20年来の友人のマイティこと佐藤麻衣子の発した一言がきっかけだった。

目の見えないひとが美術作品を「見る」とはどういうことだろう。そんな疑問を抱きながら、著者はマイティに誘われ三菱一号館美術館に向かう。印象派の名画を集めた「フィリップス・コレクション展」で、3人の旅は始まった。

最初はピエール・ボナールの作品。「じゃあ、なにが見えるか教えてください」と、白鳥さんは明後日の方向を向いたまま囁く。マイティが白鳥さんの体に手を添え、絵に向かってまっすぐ立たせた瞬間、著者は理解した。彼は「耳」で見るのだ。

著者とマイティは、一つひとつの作品を描写しはじめた。同じ作品を見ていても、著者とマイティの受ける印象が真逆のときもあった。白鳥さんは正しい作品解説よりも、見ているひとが受けた印象や思い出などを熱心に聞きたがった。それは、「わかること」ではなく「わからないこと」を楽しんでいるようだった。

1つの作品を10分も15分もかけて言葉にしているうちに、途中から印象が変わったり、最初は気づかなかったディテールに驚かされたりもした。白鳥さんがいることで、目の解像度が上がり、これまでなかったような対話と満足感が生まれた。白鳥さんに絵を見せてあげているようでいて、本当に見せてもらっているのは自分たちのほうなのかもしれなかった。

“障害者のあるべき姿”への疑問

美術館に行く途中や展覧会を見終わった後、白鳥さんはたくさんの話をしてくれた。1969年生まれで、両親や親族に盲目のひとはいない。家族からは「苦労するに違いない」と心配され、特に祖母からは「ひとの何倍も努力しないと」と諭された。小学3年生で千葉県の盲学校の寄宿舎に入ると、通常の授業カリキュラムに加え、視覚障害者が独り立ちするためのスキルも叩き込まれた。白杖を使って街を歩けるようになり、高校生時には一人で中島みゆきのコンサートに行ったりもした。行動範囲が広がるにつれ、“障害者のあるべき姿”に疑問を抱くようにもなった。盲学校では、障害があるからこそまじめに努力しなければならないと教わった。そこには「障害者は弱者、健常者は強者」という考え方や、障害を補って健常者に近づこうという先入観があった。

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要約公開日 2023.03.09
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