イノベーション・オブ・ライフ

ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
未読
イノベーション・オブ・ライフ
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ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
未読
イノベーション・オブ・ライフ
出版社
翔泳社
出版日
2012年12月06日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

「あなたの人生を評価するものさしは何か?」この問いに自信をもって答えられる人は多くはないのではないだろうか。『破壊的イノベーション論』でビジネス界に風穴を開けた経営学者クリステンセンが、ハーバード・ビジネススクールの卒業生に向けた人生訓である。彼は、職業人として輝かしい功績を収めながらも、仕事に真のやりがいを見出せず、離婚や不幸な結婚生活に見舞われた同級生が少なくないことに大きな疑問と無念さを抱いた。そこで、ビジネス理論を個々人のキャリアや家庭生活に応用することで、充実度の高い人生を送れるのではと彼は提言する。こうした理論は、人間の営みへの深い理解に支えられ、世界中の組織によって検証、活用されているためだ。

本書では、真の動機付けと人生の優先事項の関係や、人生計画と偶然の機会のバランスの取り方、戦略を実行するための資源配分の方法が書かれている。企業や個人の成功例や失敗例が豊富に紹介されており、人間や組織の本質を抉り出すスリリングなケーススタディーとしても興味深い内容ばかりだ。厳しい現実に向き合うための「思考法」と、人間心理への深い洞察を与えてくれるという点で、巷の人生指南書とは一線を画している。

転職や起業、結婚など人生選択の岐路に立つ人や、一定のキャリアを築いてきて、人生の時間配分を見直す節目を迎えた人には、ぜひ本書を読んでほしい。クリステンセンたちの渾身のメッセージは、豊かな生き方の本質を思い出させる道しるべとなるだろう。

ライター画像
松尾美里

著者

クレイトン・M・クリステンセン
ハーバード・ビジネススクール(HBS)の看板教授。優良企業におけるイノベーションがはらむ落とし穴を実証し、衝撃を与えた「破壊的イノベーション論」で一躍ビジネス界に不動の地位を確立した。発表した論文は、50年以上の歴史をもつマッキンゼー賞受賞5回を含む数多くの賞を授与している。

ジェームズ・アルワース
オーストラリア出身。ハーバード・ビジネススクールを成績優秀者に贈られる、ベイカースカラーで卒業。ブーズ・アンド・カンパニーとアップルコンピュータで勤務していた。

カレン・ディロン
コーネル大学とノースウエスタン大学大学院でジャーナリズムの修士号を取得。2011年まで『ハーバード・ビジネス・レビュー』の編集者として20年のキャリアをもつ。2011年、アショカ財団により世界で最も影響を与えた女性として選出される。

本書の要点

  • 要点
    1
    仕事の満足度に直結する「動機づけ要因」は、責任があり成長ややりがい、意義を感じられる仕事をしているかどうかであり、金銭的報酬は仕事の不満を減らす「衛生要因」にすぎない。
  • 要点
    2
    戦略の成功の鍵を握るのは、時間や労力、能力、財力などの資源配分プロセスである。目先の成果にとらわれず、家族や友人と過ごす時間など、自分が本当に大切にしたいものに投資をするべきである。
  • 要点
    3
    子どもが将来直面しそうな困難から逆算して身につけておくべき能力を考え、その能力を養えるような経験ができているかを考えることが大切だ。

要約

【必読ポイント!】 幸せなキャリアを歩む

didi/Thinkstock
真の動機づけ要因を探る

人を真に動機づけるものは何だろうか? 世の中には、金銭的報酬で人を動かす誘因理論(インセンティブ理論)があるが、わずかな報酬で、過酷な状況であっても努力を惜しまず働く人が存在するのも事実だ。動機づけ理論(モチベーション理論)によれば、人を真に動機づけるのは、「人に本心から何かをしたいと思わせること」なのだ。

報酬は、安全で快適な職場環境や上司や同僚との良好な人間関係と同様に「衛生要因」にすぎず、仕事への不満をなくす程度の効果しかもたない。一方、仕事の満足度に直結する「動機づけ要因」は、やりがいのある仕事、他者による評価、責任、成長などが含まれる。

著者の同級生の多くは、収入などの衛生要因を基準にキャリアを選んでいたため、経済的に安泰であっても、満たされない思いを抱くようになっていたのだ。元々は社会問題の解決や起業を志していたにもかかわらず、富の誘惑に惑わされる例が後を絶たない。自分が有意義だと思える仕事をしているかどうかが、幸せを見出せる仕事探しの鍵を握ることを肝に銘じておくべきだ。

計算と好機のバランス
a.collectionRF/Thinkstock

では、動機づけを与えてくれるキャリアを見つけるにはどうしたらいいか。願望や目標を追求することと、予期せぬ機会を活かすことのバランスを図ることが成否を分けると言ってもよい。戦略の選択肢は、意図的に追求できる機会をもとにした意図的戦略と、予期されない機会から形成される創発的戦略の2種類がある。戦略決定は、限られた資源をめぐって、拮抗するこの2つの戦略からどちらかを選び取っていく、持続的かつ無秩序なプロセスである。これは企業だけでなく個々人の人生選択でも同様である。

若い人や学生で、今後5年間のキャリアを予め計画しておくべきだと思い込んでいる人が多いことに驚かざるを得ない。もしも衛生要因と動機づけ要因の両方を与えてくれて、努力に値する仕事がすでに明確ならば、意図的戦略を取って目標達成に集中するのが理にかなっている。しかし、そうしたキャリアがまだ見つかっていない場合は、道を切り拓く新興企業のように、外へ出て色んな物事を試しながら、自分の能力と関心、優先事項が結びつきそうな分野を見つける創発的戦略を取るのがよい。人生の窓を開け放つことが大切なのだ。

次に、戦略自体の有効性を知るためには、「戦略の成功において、どんな仮定の正しさを証明する必要があるか」を考えるのがおすすめだ。具体的には、戦略の予測の基礎となる仮定を、重要度と不確実性の高い順にリストに並べ、重要な仮定をできるだけ低コストで検証していけばよい。そうすれば、予測を実現する上で本当に必要なことに注力することができ、仮定の軌道修正がしやすくなる。この方法は職業選択においても効力を発揮する。「この仕事で成功するには、どんな仮定の正しさが証明されなくてはならないだろう?」と自問し、仮定を検証しよう。

正しい「資源配分」の重要性
whitetag/iStock/Thinkstock

失敗した事業の根本原因を探ると、長期的成功をもたらす取り組みよりも、見返りが短期的に現れる取り組みを促す意思決定システムが問題であることが往々にしてある。例えばユニリーバでの、ホームラン級の製品に恵まれないという課題には、同社の幹部候補育成プログラムの構造上の欠陥が潜んでいた。

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要約公開日 2014.11.25
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