ワイドレンズ
イノベーションを成功に導くエコシステム戦略

未 読
ワイドレンズ
ジャンル
著者
ロン・アドナー 清水勝彦(監訳)
出版社
東洋経済新報社 出版社ページへ
定価
1,944円
出版日
2013年02月21日
評点(5点満点)
総合
4.5
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
4.5
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レビュー

 かつて、日本の「ものづくり」産業は、その高い技術力と商品力の高さゆえ、世界をリードしていた。ところが、現状を見ればどうだろう。ソニーやパナソニックといった企業は、素晴らしい製品を開発し続けているというのに、アップル、アマゾン、サムスンといった競合に大きく水をあけられている。

 監訳者の清水勝彦氏は、あとがきで、「『イノベーション=技術』という時代は終わったのだ」と解説する。技術革新なくしてイノベーションはないわけだが、自社だけの力でのイノベーションを起こすという発想は古くなっているというのだ。

では、これからのイノベーションを成功させるためには何が必要なのか。そのための考え方を提示したのが、本書である。表題「ワイドレンズ」というのは、自社製品の開発だけに注力する「狭い視野」に対して、文字通り「広い視野」という意味である。「ワイドレンズ」をもってして、パートナー企業群と協働する関係を組織化し、イノベーションのエコシステム(生態系)をつくる。そして、エコシステム全体を活用し、生み出される価値を増幅し、確固たるものにする。こうしたことが、企業間の協働関係がより複雑になっている昨今、必要とされているのだ。

必死でいいものをつくるだけではだめだ。自社だけでがんばっても限界がある。みなさまはすでに、お気づきなのではないだろうか。その気づきを具体的な課題解決に活かすためのヒントが、本書にはある。

熊倉 沙希子

著者

ロン・アドナー
ダートマス大学エイモス・タックビジネススクール教授。
1993年クーパーユニオン大学工学部卒業。1998年ペンシルベニア大学ウォートンスクールにてPh.D.取得。INSEAD(欧州経営大学院)准教授などを経て、2008年より現職。MBA学生より圧倒的な支持を受け、INSEAD(5回)、タック(1回)のベストティーチャー賞を受賞。Management Science の副編集長、Academy of Management Review、Strategic Organization、Strategic Management Journal の編集委員を務める。専門はイノベーションの成功と失敗の原因の研究、多角化、および経営戦略。企業でのコンサルティング、講演多数。Wall Street Journal、Harvard Business Review などの著名経営誌への寄稿、学術論文の発表も多いが、経営書としては本書が初の単著となる。

本書の要点

  • 要点
    1
    イノベーションのエコシステムには、ワイドレンズの視点を用いないと見落としてしまう死角がある。コーイノベーション・リスク(自身のイノベーションの商業的成功は他のイノベーションの商業化に依存するリスク)と、アダプションチェーン・リスク(パートナーがまずイノベーションを受け入れなければ、顧客が最終提供価値を評価することすらできないリスク)だ。
  • 要点
    2
    イノベーションのエコシステムを、リスクも含めて見渡せるよう整理した上で、自社にふさわしい役割、イノベーションのタイミングを検討して戦略を練ることが重要だ。

要約

【必読ポイント!】イノベーションのエコシステム

エコシステムの死角
Hin255/iStock/Thinkstock

顧客の納得のいくアイディアを思いつき、従来の戦略やマーケティングの考え方もふまえた方法できっちり実行しても、イノベーションが失敗することがある。

たとえば、ミシュランが開発したPAXシステムを考えてみよう。PAXシステムは、パンクしても均一(フラット)にある程度の距離を走ることのできるランフラットタイヤのことだ。つまり、パンクの憂き目にあっても、立ち往生する必要はなく、近くの修理工場まで走行すればよい。当初、タイヤ業界にとってPAXシステムはセンセーショナルなイノベーションだった! 

しかし、このイノベーションは失敗に終わった。このタイヤを修理できる修理工場や交換設備が整っていなかったため、消費者の不満が増大し、イノベーションの価値は大幅に低下したのだ。ミシュランは、PAXの成功は、イノベーションのエコシステム(生態系)への洞察なくしては成立しないことに気づかなかった。

エコシステムには2つのリスクが含まれている。コーイノベーション・リスク(自身のイノベーションの商業的成功は他のイノベーションの商業化に依存するリスク)と、アダプションチェーン・リスク(パートナーがまずイノベーションを受け入れなければ、顧客が最終提供価値を評価することすらできないリスク)だ。

ミシュランの失敗は、PAXが市場に出回る際には、修理工場がPAXのための修理設備に投資するはずだと思い込んでいたことだ。つまり、後者のアダプションチェーン・リスクの管理が甘かった。

これらのリスクを意識しないということは、運転中に後方を見ないで車線変更するようなものだ。つまりエコシステムの「死角」によって、イノベーションは「失敗」という事故に遭うことになってしまう。

コーイノベーション・リスクの管理
lzf/iStock/Thinkstock

ほとんどの人に携帯端末の行き渡った1990年代、モバイル通信業界の次なる成長の鍵は、データ通信を可能にする第3世代のモバイル通信(3G)だった。携帯電話はただの電話ではなく、携帯できるインターネット端末になろうとしていた。

どこよりも3G携帯電話の開発を急ぎ、1番に機器を完成させたのは、フィンランドのノキアだった。しかしこれは、残念ながら早すぎた。消費者が3G携帯を活用するには、いろいろな位置特定サービスや、携帯での支払いシステム、移動中に楽しめるアプリケーションなど、他社による多くのイノベーションを必要としていた。つまり、コーイノベーション・リスクの罠にはまってしまった。結果、ノキアは、市場の受け入れの遅れに伴い、収入の停滞に苦しまねばならなくなった。

このように、自社のイノベーションが協働関係にある企業のイノベーションに依存する場合、成功確率は、それぞれが特定の時間内にコミットメントを果たせるかという確率にかかってくる。

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著者
ロン・アドナー 清水勝彦(監訳)
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出版日
2013年02月21日
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