「兵とは国の大事なり、死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり」
(訳)戦争は国家の一大事。それによって国民の生き死にも国の存亡も決まるのだから、安易に行ってはならない。
『孫子の兵法』が生まれた時代は、群雄が割拠した春秋戦国時代。有力国が覇権を争う中で、戦いには勝っても国民が疲弊し国力が衰え滅亡した国もある。
現代では過度な「成果主義」が独り歩きし、営業成績だけを上げることだけを考えてはいないだろうか。ムリなスケジュールで受注し周囲に迷惑をかける人、無茶な値下げを断行して赤字を出す人、などを見たことがあるだろう。本当に大事なのは、瞬間の成功よりも、長く続く繁栄の道を取ることなのだ。
「これを経るに五事を以てし、これを校ぶるに計を以てして、其の情を索む。一に曰わく道、二に曰わく天、三に曰わく地、四に曰わく将、五に曰わく法なり」
(訳)戦いを起こすときには、5つの重要な事柄を検討し、7つの視点から「計算」しなければならない。第一の「道」とは、民衆と君主の間の「人心」が安定しているか。第二の「天」とは時期やタイミング。第三の「地」とは土地の状況。第四の「将」とは、将軍の力量。第五の「法」とは、軍や行政の統率である。
ビジネスにおいては、まず、重要なのが「道」であり、これは大義名分である。経営者と社員は、同じ方向を見て同じ思いを共有していなければいけない。「天」は時期やタイミングである。「地」はビジネスでは市場環境。「将」とは、能力があり多くの人が認めるリーダーの存在。「法」はチームや組織としての役割分担を機能させる規律だ。特に30代が若手と中堅をつなぐ世代であり、組織において「道」(理念)を浸透させる中核をなす存在となることを志向してほしい。
「兵とは詭道なり。(中略)其の無備を攻め、其の不意に出ず。此れ兵家の勢、先きには伝うべからざるなり。」
(訳)戦争とは「騙し合い」「策略の戦い」でもある。敵をいかに騙し、策略にはめるかによって、敵の無防備を誘い、不意をつくことができる。これが軍学者の言う、その場その場の「臨機応変」であるから、あらかじめ決めて伝えることはできない。
孫子の教えを自らの経営に取り入れていることで知られる、ソフトバンクの孫正義社長には、このようなエピソードがある。単身渡米して、カリフォルニア州で大学の検定試験を受験した際、「自分は日本人なので、英語はわからない。でも、英語さえわかれば問題は解ける。だから辞書を使うことを許可してほしい。さらに、辞書を使う分、時間が必要なので試験時間も延長してほしい」と試験官に要求したのだ。
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