タクシーで「東京駅までお願いします」と言うと、「東京駅?」とびっくりしたように言う運転手さんが時々いる。びっくりした返事をされた方がびっくりしてしまう。確かに復唱はしているが、びっくりして返事をされたのでは居心地が良くない。この復唱が、車内にギスギスした敵対関係をつくりだすのだ。
それに対して、デートで恋人と一緒にケーキを食べている時に「おいしいね」、「うん、おいしいね」と反復するのは、好意の反復だ。「昨日京都に行ったんだ」、「おお、京都に行ったんだ」と同じことを言うだけで、会話のやりとりが成り立つのだ。コミュニケーションではこういう返しが大切だ。この反復を覚えると、話は続くようになる。反復することで、興味を持っていることが相手に伝わる。特にポジティブワードの反復は大切だ。
しかし、「寒いね」というネガティブワードも「うん、寒いね」と反復されることで、相手から暖かい言葉になって返ってくる。ここに優しさや温かさが出るのだ。
会話をとぎれないようにするためには、遠慮しないで言いたいことを言うことだ。遠慮してしまうのは、会話の拒否だ。「これを言ったら嫌われるかもしれないな」と思って言わないのは、拒絶と同じことだ。「言う」ことを前提にして、「じゃあ、どう言おうか」というスタンスを取るのだ。
早くしてほしいときに、「早くしてよ」というのは、ダイレクトすぎる。そういうときは、「いつもありがとうね。忙しいのに急がしてごめんね」と先に言う。これが「ありがとう」の使い方だ。指示する時は、必ず「ありがとう」をまぜた言い方をする。よく、「トイレをきれいに使ってください」と書いてある。もっときついと、「トイレを汚さないでください」だ。英語では「サンキュー・フォー」という表現がある。「いつもトイレをきれいに使っていただいてありがとうございます」というのが、「サンキュー・フォー」の使い方だ。
話している量と記憶に残る量は、反比例する。人は、ついたくさん話そうと頑張ってしまいがちだが、長話をすればするほど、「あの人は何を言ってたんだっけ?」と、印象に残らなくなる。社長やCEOが、偉く見えないことがあるが、それはしゃべりすぎが原因だ。スッと出てきて、30秒ほど何かボソボソとしゃべって、笑いをとってスッと帰れば、威厳を感じる。ところが、社長がマイクを持って司会をしてしまうと、威厳はまったくなくなってしまう。話す量の少ない人のほうが「聞いた感」があるのだ。会話の中でも、自分が言いたいことを際立たせるために、低い声で言う部分があっていい。
ドラマでは、主役のセリフは短い。「古畑任三郎」では、犯人がこうやって死んで、どうなってという状況説明は、必ず今泉君がやってくれる。長ゼリフの状況説明は、先頭切って司会役をやって、バーっとしゃべる人に振っておいてもらう。そのあとに一言二言ポンポンと入れるほうが、結果としては印象に残るのだ。最初にしゃべる方が損だ。
会議でも、得意先でプレゼンする時も同じだ。
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