人生後半の戦略書

ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法
未読
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ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法
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出版社
SBクリエイティブ

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出版日
2023年03月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「死んだほうがましだなんて言わないで」

本書の冒頭は航空機内で苦悩に打ちひしがれる年配の男性と、それを慰めようとする妻の会話から始まる。偶然その場に居合わせた著者は思わず聞き耳を立てた。これまでの人生で大して名を上げることなく、自らの生きざまを悔やんでいるのだろう……。だが、その男性の顔を見るなり愕然とする。それは若かりし頃の功績を讃えられ、今なお愛され続ける国民的英雄だったからだ。

著者はこの出来事をきっかけに、「どうしたらキャリアの落ち込みに苦悩せず、優雅に受け入れられるだろうか?」という疑問が頭から離れなくなり、9年に渡って模索してきた。その結果見えてきたのは、仕事で成功した人がほぼ例外なく自身のキャリアの落ち込みに怯え、成功すればするほど人間関係の希薄さに悩むということだ。著者はこれを「ストライバーの呪い」と呼ぶ。

本書はこの呪いを克服し、残りの人生を幸せで意義深いものとするための研究結果を詰め込んだ一冊だ。キャリア中盤に等しく訪れる能力低下に悩む多くのビジネスパーソンにとって、またとない道標となるだろう。「自分の弱さを受け入れる」「落ち込みと、さらには死と、正々堂々と向き合う」「長年顧みなかった人間関係を取り戻す」。どれも一筋縄ではいかない「苦行」だが、これを乗り越えない限り呪いから解放されることはない。

キャリアの狭間に悩む数多のビジネスパーソンに、一読をお勧めしたい。

著者

アーサー・C・ブルックス(Arthur C. Brooks)
幸福について研究する社会科学者。ハーバード・ケネディ・スクールのウィリアム・ヘンリー・ブルームバーグ教授職(パブリック・リーダーシップ実践)、ハーバード・ビジネス・スクール教授(経営実践)。12冊の著作を持つベストセラー作家で、講演者としても高い評価を受けている。現在、『アトランティック』誌でコラム「人生の築き方」を好評連載中。過去には、ワシントンD.C.のシンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ研究所の会長を10年間務めた。最初の職はクラシック音楽のホルン奏者で、アメリカやスペインで楽団員として12年間活動していた。シアトル出身。現在はマサチューセッツ州ニーダムで妻エスター・ムント=ブルックスとともに暮らす。成人した子どもが3人いる。

本書の要点

  • 要点
    1
    中年期に入ると前頭前皮質の働きが低下する。この事実から逃れる術はなく、誰しもが中年期のキャリアの落ち込みに苦悩する。
  • 要点
    2
    人には「流動性知能」と「結晶性知能」の2つの知能が備わっているが、それぞれがピークを迎える時期は人によって異なる。前者は概ね30代から下降が始まるが、後者は人生の中~後期にかけて上昇していく。
  • 要点
    3
    結晶性知能へとシフトするには、「人間関係を深めること」「精神性を探究すること」「弱さを受け入れること」の3つが重要だ。
  • 要点
    4
    キャリアの過渡期は釣りにおける「引き潮」のようなものだ。恐れず糸を投げ入れよう。

要約

キャリアの下降と向き合う

驚くほど早く訪れる落ち込み

ほとんどの人が、自分が老いることも、それが仕事ぶりを変えてしまうことも、遠い未来のことだと思い込んでいる。実際は、高いスキルを求められる職業であればほぼ確実に、30代後半から50代前半にかけてキャリアの落ち込みが始まる。

ノースウェスタン大学で起業家精神論を研究するベンジャミン・ジョーンズ教授が行った調査では、主な発明家やノーベル賞受賞者が大発見をする時期は、30代後半が最も一般的であることが明らかになった。『種の起源』で歴史に名を残したあのダーウィンも、キャリア後半の落ち込みによって不幸になった一人だ。創造性に陰りを感じ、晩年には「私にとって人生はすっかり退屈なものになってしまった」とこぼしている。

パフォーマンスの落ち込みに関しては、カルフォルニア大学のディーン・キース・サイモントン教授が開発した「クリエイティブな職におけるキャリア経験年数と平均的な生産性の関係」のグラフによって予測できる。分野によって幅はあるものの、キャリア経験年数20年をピークとして落ち込む形になっている。キャリア20年とはその職業の「半減期」(それまでに生涯で生み出す仕事の半分が生産される時期)であり、衰えは避けられないことを示す。

キャリアが落ち込む理由
Andreus/gettyimages

では、なぜ落ち込みは起こるのだろうか。有力な説として脳の組織、特に前頭前皮質のパフォーマンスの変化が挙げられる。前頭前皮質は「ワーキングメモリーや実行機能、抑制機能(目の前の任務と無関係な情報を遮断し、集中力やスキルを高める能力)を担う中枢機関」だ。前頭前皮質が発達している人は、様々な専門分野で上達していく。

中年期に入ると前頭前皮質の働きが落ちる。すると、素早い分析や創造的な発明が困難になる。気が散りやすくなり、マルチタスク処理が苦手になる。「ながら勉強」は大人のほうができないのだ。集中したければ、スマートフォンを切り、無音の環境に身を置くとよい。そして、名前と事実を思い出すことが困難になる。膨大な情報で溢れかえる脳内を検索する能力が落ち、必要なときに思い出せない自分に腹を立てる。

人間は昔の栄光を単純に楽しめないし、「次の成功」を渇望して走り続けようとする。しかし能力は低下していく一方なので苦しみは増すばかりだ。これに対処するには、現在のあなたでは未来はやってこないことを受け入れ、新しい強みとスキルを身につけなくてはならない。そのための新しい考え方を紹介しよう。

【必読ポイント!】 もう1つの知能を知る

2つの知能

1971年、イギリスの心理学者レイモンド・キャッテルは「人には2種類の知能が備わっているものの、各知能がピークを迎える時期は異なる」と提唱した。

1つ目は「流動性知能」だ。推論力、柔軟な思考力、目新しい問題の解決力を指す、いわゆる「生得的な頭の良さ」である。これは成人期初期にピークに達し、30から40代に急速に低下しはじめるという。つまり、キャリアの落ち込みは「流動性知能の衰退によるもので、ハードワークで成功した人たちはほぼ全員、キャリア初期は流動性知能に頼っていた」と言えよう。

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要約公開日 2023.08.22
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