石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?

エネルギー情報学入門
未読
石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?
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エネルギー情報学入門
著者
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石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?
著者
出版社
文藝春秋
出版日
2014年09月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

人類の発展はエネルギー消費と共にあったと言っても過言はないだろう。それだけ、エネルギーは我々の生活にとって欠かすことのできない存在であり、だからこそ経済発展をはじめ、国の外交戦略、安全保障、環境問題、といった重要課題と密接に関わってくる。しかし、エネルギー業界で働いていない限り、エネルギーの情報についてはさほど詳しくない、という人々が一般的ではなかろうか。

本書は、そのようなエネルギー業界に縁遠い人々がエネルギー全般に関する基本事項を理解できるよう、著者の経験談をふんだんに交えながら、分かりやすく解説した良書である。特に、著者が最も重要と考える石油と天然ガスについて焦点を当て、事細かに且つ丁寧に説明を行っている。エネルギーに関するニュース等を見ても、今ひとつピンとこなかった人々にとって、正しい理解を深めるのにこの上ない絶好のチャンスである。

残念ながら我が日本は資源の乏しい国であり、常に戦略的に資源を確保する必要がある。同時に環境面への配慮より増加するエネルギー需要を再生可能なエネルギーで賄うべき、といった課題も残る。今後、どのような国であって欲しいか、という視点からエネルギー政策を考えるべきであり、本書はそのようなエネルギー問題を読者が真剣に考えるための素地を与えてくれる、貴重な一冊である。

著者

岩瀬 昇(いわせ・のぼる)
1948年、埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。14年6月に三井石油開発退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。

本書の要点

  • 要点
    1
    日本のLNG価格は原油価格にリンクしていること、また、日本の電力会社が公益企業として「絶対に停電を発生させてはならない」という使命を持つこと、という2点故に、日本は他国よりも遥かに高い価格でLNGを輸入している。
  • 要点
    2
    石油の「資源量」と「埋蔵量」とは根本的に違う概念である。しかも、「埋蔵量」は増加する。
  • 要点
    3
    戦略物資として認識されていた原油は、先物市場の創設と共に次第にコモディティと化した。しかし、それでも尚、非常時には依然として戦略物資として扱われることとなる。

要約

日本の輸入ガスはなぜ高いか?

vichie81/iStock/Thinkstock
どこの国よりも高い日本のLNG輸入価格

2013年、日本の貿易赤字は約11.5兆円にのぼったが、この主因はLNGスポット輸入である、とされている。2011年3月11日に起きた東日本大震災により、全国の原子力発電所は運転停止に追い込まれ、その代替燃料として電力会社はLNGを購入しているのだが、このLNGの輸入価格が他の国が買っているものより高いのである。それは何故か? その答えを得るためには、日本のLNG輸入の歴史を見る必要がある。

日本のLNG購入量は1969年より急増したが、その主な理由は公害対策であった。当時、光化学スモッグによる大気汚染や水俣病、イタイイタイ病、といった公害病が大きな社会問題となっており、公害対策として人体に直接の悪影響をもたらす硫黄分および窒素分の排出量増加をいかに抑えるか、という点に焦点が絞られた。液化天然ガスであるLNGは、原油よりも硫黄分、窒素分が少なく、公害対策の救世主として輸入が必然的に増えていったのであった。そして、LNGは原油の代替燃料であったため、価格は原油価格にリンクすることとなった。

「絶対に停電させてはいけない」という公益企業としての使命

もともとガス市場は、アメリカを中心とする北米圏、ヨーロッパ諸国を中心とする欧州・ロシア・北アフリカ圏、日本を中心とするアジア・オセアニア圏の3つの地域がほぼ独立して存在していた。従って、地域間の価格関連性は低く、日本向けが原油価格にリンクし、欧州は重油や軽油価格にリンクし、アメリカは純粋に国内需給要因によって価格が決まる仕組みとなったのである。

2005年くらいまでは各地域の価格はそれなりの類似性をもった動きをしていたが、その後原油価格の高騰により、日本向け価格が独歩高となっている。また、日本の電力会社は、公益企業として「絶対に停電を発生させてはいけない」という使命を帯びている。従って、LNGの安定供給は絶対条件であり、LNGを産出する設備は設計段階から安全係数を高くとり、少々のことでは生産量がぶれないように建設されている。

一方トリニダード・トバゴ等のLNGは安定供給の義務がなく、生産された分だけ売るというコンセプトで作られているため、安全係数はほぼゼロであり、よって建設およびオペレーションコストを下げ、安いLNG供給が可能となっている。以上の2点より、日本向けLNG価格は他の地域と比べて高いのである。

【必読ポイント!】埋蔵量のナゾ

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要約公開日 2014.12.19
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