データの見えざる手

ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則
未読
データの見えざる手
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ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則
未読
データの見えざる手
出版社
草思社
出版日
2014年07月25日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

ウェアラブルセンサ、という人間行動を24時間継続的に記録する画期的な新技術をもとに、様々な研究結果を導き出した著者のライフワークが詰まった一冊である。膨大なデータを前に、たゆまず地道に研究を続けてきた軌跡が全編を通して読み取れ、著者に対する尊敬の念を持たずにはいられない。これまでサイエンスが対象としてこなかった事象をも科学的に解析する、という目的自体も実に興味深いが、それ以上に一つ一つの研究の掘り下げ方や、理論展開の方法が斬新であり、且つ丁寧に説明をしてくれるという点において、読者は深い理解を得られるとともに、本書の世界に引きずり込まれるであろう。

特に、「人は自由に時間を使えるのか」という第一章では、U分布の成り立ちについて具体例を用いてビジュアル的な説明を行っており、統計学があまり得意でない人々にとっても分かりやすい内容となっている。また、エネルギー保存の法則やエントロピーの増大法則、といった熱力学とのアナロジーも巧みに解き明かし、著者の研究の奥深さを垣間見ることができる。

テクノロジーの先端技術や近年流行しつつあるウェアラブル製品に興味を持つ方はもちろんのこと、あまりサイエンスに関心を抱いてこなかった人でも、人の幸せや運、といったテーマも取り扱っているので十分に楽しめる内容である。幅広い層の人々にお勧めしたい一冊である。

著者

矢野 和男(やの・かずお)
株式会社日立製作所中央研究所、主管研究長。1984年早稲田大学物理修士卒。日立製作所入社。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功。2004年から先行してウエアラブル技術とビッグデータ収集・活用で世界を牽引。論文被引用件数は2500件。特許出願350件。のべ100万日を超えるデータを使った企業業績向上の研究と心理学や人工知能からナノテクまでの専門性の広さと深さで知られる。博士(工学)。IEEE Fellow。日立返仁会総務理事。東京工業大学大学院連携教授。文科省情報学技術委員。

本書の要点

  • 要点
    1
    ウェアラブルセンサ技術を活用して得られる大量データは、これまで科学の対象とならなかった経済活動や社会現象を科学的手法で解析することを可能にする。
  • 要点
    2
    人間行動や社会現象に関する計測データの統計分布の殆どがU分布に従う。つまり、人間は自分の意思で自由に行動を決めていると考えているが、実際は自然法則に縛られている。
  • 要点
    3
    人の幸せはウェアラブルセンサで測ることができる。また、幸せは人から人へと連鎖的に伝染する。
  • 要点
    4
    膨大なデータの背後にあるパターンや法則性を明らかにし、そのデータの元となるモデルを逆生成する、いわば「自ら学習するマシン」は、今後社会におけるサービスとその中での人間の役割を大きく変える。

要約

【必読ポイント!】ウェアラブルセンサの革新技術

sinemaslow/iStock/Thinkstock
ビッグデータによる社会現象及び経済活動の解析

24時間継続的に人間の行動を記録するリストバンド型のウェアラブルセンサ(人に装着するセンサ)を著者自ら装着し、1秒間に20回も計測した詳細な加速度データを過去8年間に及んで蓄積・分析した集大成が本書である。社会現象や人間行動については「社会科学」領域の研究において定性的なレベルの内容にとどまっているが、ウェアラブルセンサの技術で得られた大量データを活用することで、社会現象や経済活動についても定量的かつ精密なサイエンスを構築することが可能となった。本書は、そのようなこれまでサイエンスが対象としてこなかった事象について科学的な解析を多方面から紹介している。

「人の行動に科学的な法則性があるのだろうか?」とは、本書が最初に掲げた問いである。そこでまず、人の時間の使い方に焦点が絞られる。「人は時間の使い方を意思により自由に決められるのか、それとも時間の使い方は何らかの法則により制約されるのか?」ということを、センサ技術によって取得する大量データに基づき、解析をする。

右肩下がりの分布が社会を支配する

12人の被験者にウェアラブルセンサを着用してもらうことで得たデータによると、人間の腕の動きは「U分布」という統計分布に従う。このU分布とは、人間行動や社会現象にまで見られるという普遍的な分布の裏付けとなる理論を構築して、著者がその統計分布の数理に名付けたものである。

統計学では、正規分布という「釣り鐘型」の分布を前提にすることが多いが、これに対して、U分布は「右肩下がり」である。正規分布は平均値を中心として、その両側に「裾野」が広がっているのが特徴であり、それは分布が一様にランダムにばらまかれている状態を表す。一方、U分布は正規分布よりもっと「まだら模様」で「ばらつき」が大きい状態を表し、いわば、「偏り」を許す、もっと自由度の大きい分布となっているのである。

そして、この「偏りのあるばらつき」は「やりとりの繰り返し」によってもたらされる。例えば、エネルギーの分布はU分布と同じ形をしている。気体中では分子どうしが常に衝突しあい、その際に持っているエネルギーの「やりとり」が行われ、結果右肩下がりの分布となる。分子どうしが衝突する「機会」は等しく、換言すると「平等なチャンス」が与えられているのだが、「やりとりの繰り返し」の後には「偏りのあるばらつき」を示すという「不平等な結果」が必然的に生まれる。この「繰り返しの力」を背景にした「資源配分の偏り」は、幅広い人間行動や社会現象を説明するU分布となるのである。

時間の使い方は法則により制限される

人間の腕の動きに注目すると、腕の動きという有限の資源を、優先度の低い時間には温存し、優先度の高い時間に割り当てる、という「腕の動きのやりとり」が繰り返されている。従って、人それぞれがどんな「意識」「思い」「感情」「事情」を持っていようとも、必ずU分布に従う。また、U分布に従うと、一日の総活動量(身体運動の総回数)が決まることで、ある帯域の行動にどれだけの時間が使えるか、という「活動予算」も決まってくる。

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要約公開日 2014.12.19
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