経営戦略の経済学

未読
経営戦略の経済学
経営戦略の経済学
著者
未読
経営戦略の経済学
著者
出版社
日本評論社
出版日
2004年09月01日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

元来、経営戦略と経済学は目的や方向性が異なるものだ。しかし、ハーバード大学のマイケル・E・ポーターが経済学を基にした競争戦略論を展開したように、アメリカのビジネススクールでは、多くの経済学者が戦略論を教えている。いまや経営戦略と経済学は、切手も切り離せないものとして扱われているのだ。

こういった欧米の流れを汲み取り、著者は、経営戦略に関わる人材が分析の基礎となる経済学を学び、公共政策に重きを置く経済学畑の人材が実務に近い経営戦略論を知ることは有益であると考え、本書の執筆に至ったのだという。本書は、著者が学習院大学で実施した「経営戦略」及び「ビジネス・エコノミクス」の講義内容をベースとし、日本では経営学の領域として扱われることが多い経営戦略論を経済学的観点から考察した一冊だ。

経営学と経済学の壁を払拭しようとする著者の試みは本書の構成からも伝わってくる。テーマ毎に、テーマに関連する実際の企業事例を冒頭で紹介。次に、関連する経済学理論の紹介や経済学的アプローチによる説明を展開している。分かりやすい説明に加えて、グラフや図も多く掲載され、読者の理解を助けている。経済学初心者の方でも、事例に触れてから経済学的アプローチに進めるため、やや難解な理論展開も理解しやすい。また、経営戦略論を学びたい方にとっては、様々な企業の事例が紹介されており、興味深く読み進めることができるだろう。経済学の様々な理論や近年の研究状況も掲載されており、経済学に明るい人でも充分満足できる内容と言えるのではないか。

著者

淺羽 茂(あさば しげる)
1961年5月21日 東京都新宿区に生まれる。
1985年3月 東京大学経済学部卒業。
1990年3月 東京大学大学院経済学研究科修了。
1990年4月より学習院大学経済学部講師。
1992年4月より同助教授。
1994年3月 東京大学より博士号(経済学)取得。
1997年4月より学習院大学経済学部教授。
1999年8月 カリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)よりPh.D.取得

本書の要点

  • 要点
    1
    企業が打ち出す戦略の総称を経営戦略という。経営陣で協議される企業戦略は企業の方向性を決める重要な戦略であり、本書では「製品・業種」「垂直的段階」「地域」の3つの軸で議論を展開する。
  • 要点
    2
    市場の新規参入を図る際には業界の構造分析を行うことが必要だ。また、競争戦略にはコスト優位に立つ戦略や差別化戦略があり、いかに価値を生み出し競争優位を確立するかがポイントとなる。
  • 要点
    3
    戦略的行動の一つに新規参入阻止があり、製品の価格設定や広告、製品増殖といった手段が用いられる。競争優位を持続するには模倣困難性や先発優位性が鍵となる。

要約

【必読ポイント!】 企業戦略

多角化戦略
Kheng guan Toh/Hemera/Thinkstock

企業戦略とは、企業の事業定義と複数事業間の資源配分に対しトップレベルで策定される戦略のことだ。企業戦略を語る上で近年注目されているのが「選択と集中」そして「多角化」というキーワードである。

興味深い事例として、選択と集中を進める旭化成工業と、多角化を進める日本たばこ産業(JT)が紹介されている。かつては「ダボハゼ経営」と言われる多角化経営だった旭化成は、採算性の低い食品事業をJTに売却するなど事業のスリム化を実施した。専業割合が増加する傾向は、旭化成に限らず全製造業で見られるものだ。

一方、専業割合が低下している業界は飲料・たばこ事業と石油・石炭製品製造業である。その一つであるJTは、専業であるたばこ事業の伸び悩みから豊富な余剰資金をバックに食品や医療品といった経験値の浅い分野を積極的に買収した。多角化を行うことはその専門事業者と競争することを意味しリスクも大きい。多角化戦略を成功させるためには他専業企業との競争に勝ち抜くだけの根拠や経済的メリットがないと成立しない。

多角化の動機と経営成果

JTのように、時代の流れに逆らうとも思える多角化を行うメリットとは何だろうか。その一つは、収益時期が異なる事業を組み合わせてリスク分散・安定収益が可能となる点にある。経済学には「範囲の経済」、つまり複数の事業者がそれぞれ単品を製造するよりも一事業者が複数製品を製造する方がコスト安になる、という理論がある。範囲の経済の根拠は「複数事業間で共有できる準公共財的な投入物」、つまり生産能力や本社機能という資源の共有である。JTのような強いブランド力は自社の資源と考えることができ、ブランドマーケティングによって新事業での経験値をカバー(共有)することが可能となる。

また、経営学においては相乗効果を意味する「シナジー効果」という概念で説明することができる。

多角化経営には様々なタイプがあるが、組み合わせ方によって収益性と成長性に違いがあることが分かった。また、企業の財務データの調査から一定基準を上回った企業の78%が単一のコア事業を有することが分かった。企業の成長に必要不可欠な多角化で成功するためには、収益性と成長性のトレード・オフ関係を考慮し最適な多角化を決定すること、自社のコア・コンピタンスを共有する事業を創出することが重要だ。

分化と統合

市場取引と垂直統合の選択
stuartmiles99/iStock/Thinkstock

垂直的段階で事業を策定する際、生産から販売、サービスまでの一連業務のうち自社で行う部分(make)と他社に委託する部分(buy)をどう決定するかが事業戦略の重要なポイントの一つだ。

このテーマに関する近年話題の事例として、電子機器の製造受託を行うEMS(Electronic Manufacturing Service)がある。日本企業が海外のEMSに自社工場を売却する等動きが活発化しているのだ。資産の特定性がモジュール化によって低下し、市場取引が選好されるようになったことが、ここ数年のEMS成長の背景にある。また、特に1990年代以降、アウトソーシングが垂直的段階の様々な業務で活用されたが、一方で垂直統合と呼ばれる社内一括生産を重要視する動きもあり、いずれも重要な企業戦略である。

垂直的段階における分化のメリットは

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要約公開日 2014.12.22
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