使える経営学

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ジャンル
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2014年11月06日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「経営学は役に立たない」。多くのビジネスの実務家はこんな本音を抱いているのではないだろうか。しかし、著者は「経営学は使い方次第で役に立つ」と、この風潮に真っ向から反論する。本書の出発点は、経営学の論理の有用性が抽象的で目立たないがために、真の活用方法が実務家に浸透していないことへの強い課題意識にある。

経営学の重要な役割は「アンラーニング(固定観念をリセットすること)」である。それは、固定観念から導き出される特定の仮説に飛びつかず、解決策がなかなか見えない局面でも、解決策を粘り強く考え抜く「思考持久力」を高める一助となってくれるのだ。

本書では、経営学が役に立つ理由を解説し、アンラーニングの4つの型を、具体的な企業の事例とともに紹介する。4つの型の紹介では、たとえば、「吸収能力」や「粘着する知識」、「ユーザーイノベーション」、「ソーシャルサイド・クリエイティビティ」、そして、ポーターの「競争戦略論」などの論理を、どのようにアンラーニングに実際に「使う」のか、ということが説明される。思わず膝を打つ内容が目白押しだ。本書に取り上げられる最先端の研究事例を読み進めるうちに、経営学がいかにビジネスに有用で、面白いものかを実感できるだろう。

凝り固まった思考を解きほぐし、未知なる問題解決に臨みたい。そんな情熱とプロフェッショナリズムをもった全てのビジネスパーソンに、新しい局面を切り拓く上での武器となる「経営学」の真髄を本書から学び取ってほしい。

ライター画像
松尾美里

著者

杉野 幹人
A.T.カーニー マネージャー。東京農工大学工学部特任教授。
東京工業大学工学部卒業。INSEAD MBA修了。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。NTTドコモを経て、A.T.カーニーに参画。経営戦略、マーケティング戦略、新規事業、経営会議運営支援等の幅広い経営コンサルティングプロジェクトを手掛けている。著書に『会社を変える会議の力』(講談社現代新書)、『コンテキスト思考 論理を超える問題解決の技術』(共著、東洋経済新報社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    経営学の論理が役立つのは、「アンラーニング」を促進してくれるという点である。経営持論一辺倒を防ぎ、他の仮説に目を向けさせてくれる。
  • 要点
    2
    企業の研究開発部門は、新しい知識を創り出すだけでなく、組織の吸収能力を高めるという役割をもつ。ある手段がもつ特定の「役割」に固執することを防ぐ「役割のアンラーニング」によって、誤った意思決定を避けることができる。
  • 要点
    3
    ユーザーイノベーションの論理によって、代替的な選択肢に目を向けられるようになる。特定の「選択肢」への固執を避け、新たな選択肢を検討できるようにするのが「選択肢のアンラーニング」がもたらす効果である。

要約

経営学は役に立つのか?

経営学と経営持論の違い
cacaroot/iStock/Thinkstock

平均的に、MBAで経営学を修めた人たちには市場価値が認められているのは、MBA修了生たちの平均年俸から見ても明らかだ。にもかかわらず、「経営学は役に立たない」と批判するビジネスの実務家が後を絶たない。その理由は、実務家が経営を実践する中で育んだ経験則である経営持論の方が、すぐに役に立つものとして幅を利かせているためである。

経営学は、モデルの構築→モデルの確認→モデルの細分化というプロセスを経て、一般化を志向する論理である。抽象的かつ「現実の個々の事例にただちに当てはまるとは限らない」という性質ゆえに、役に立たないと評価されがちである。

一方、経営持論は、その論理が培われたときの特殊な環境や経営資源が前提であるが、組織の置かれている局面が変わらない限り、その局面にフィットした特殊解を提供してくれる。しかし、新規事業に参入するなどの「新しい局面」において、これまでの特殊な環境や経営資源にフィットしていた経営持論に固執してしまうと、誤った解決策を導くなどの弊害を引き起こす恐れがある。

経営学が役に立つ理由

新しい局面で役に立つのは、経営学である。経営学の論理は、経営持論と比べて細分化されているため、新しい局面で論理を一から組み立てる必要があるときには、他の論理と組み合わせて臨機応変に特殊解をつくり、実践の足がかりとなる仮説を提供してくれるからだ。

また、経営学が役に立つ最大の理由は、「アンラーニング」を促進してくれる点である。アンラーニングとは、これまでの成功体験などから生まれた経営持論を冷静に客観視し、それにこだわらない状態を作ることである。経営学の論理が、固執しがちな経営持論への対抗馬的な仮説となり、他の仮説にも目を向けさせてくれる。

さらには、さまざまな経営学の論理を、いつでも使える武器として用意しておくことで、柔軟な思考が可能になり、新しい局面での問題解決にふさわしい論理を考え抜ける力(思考持久力)を高められる。

経営学の論理をすぐに使えるようにするには、アンラーニングの型と、それに対応する形で経営学の論理を整理しておくことが有効である。その4つの型である「役割」「選択肢」「条件」「関係性」と具体例を見ていきたい。

【必読ポイント!】 役割のアンラーニング

吸収能力の向上
4774344sean/iStock/Thinkstock

「役割のアンラーニング」とは、ある手段が可能にする目的を特定のものに固執せず、他の可能性も考えることである。手段が果たす役割を見落として、誤った意思決定をするのを避ける効果が期待できる。

具体例としてはまず、「吸収能力(組織の外部にある知識の価値を認識し、活用できるよう取り入れる能力)」という経営学の論理を考えてみたい。

現在、日本企業の研究開発費が減少の一途をたどっている。特許やノウハウ、論文などの新たな知識という成果が生まれていなければ、研究開発部門は不要または縮小していけばいいと考えられているためである。果たしてその考え方は正しいのだろうか?

「吸収能力の向上」という視点に立つと、この考え方は正しいとは言えない。

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要約公開日 2015.01.27
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