リサーチのはじめかた

「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法
未読
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「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法
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リサーチのはじめかた
出版社
出版日
2023年08月30日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

研究者とそうでない人には距離がある。たとえば歴史の教科書に載っている事実は、多くの人にとってはただの事実でしかない。どこかの誰かの話を聞いたとか、何かの古い本に書いてあったとか、その程度の認識だろう。けれども、実際はある1つの事実を確定するために膨大な量の研究や議論を蓄積しなくてはならない。大学に入った学部生の多くを戸惑わせるのは、こうしたギャップである。

学部生が頭に思い描く研究テーマは、本人にとっては狭く具体的で、発展性のあるものだ。ところが実際はそうじゃない。そうしたテーマの大半はあまりにも広く、そして漠然としている。1から研究プロジェクトを立ち上げるとき、こうしたビジョンのままだと、ほとんどが立ち往生するか、あるいは意義の伝わらない論文を生み出してしまう。

多くの学部生は、研究のやり方を知らない。それはある意味正しい。でも、そもそもその前の段階で躓いているのが実態だ。世の中には研究のやり方を手引きする書籍はたくさんあるが、研究の前に光をあてたものはなかった。

本書は、そうしたいままで見過ごされていた部分に焦点を当てている。学部生が陥る、「自分は一体何をしたいのか」という悩みへの回答となるような技術が山のように詰まっている。これは何も、大学で研究を続けようとしている人だけの話ではない。問いとリサーチを繰り返し続ける多くの社会人も、似たような課題を抱えているはずだ。本書は、そうしたすべての人たちの興味を引き出し、問いを鍛え、答えを探す旅の良き伴侶となってくれるだろう。

著者

トーマス・S・マラニー(Thomas S. Mullaney)
スタンフォード大学歴史学科教授。コロンビア大学で博士号を取得。専門は中国史。邦訳書に『チャイニーズ・タイプライター』(2021年、中央公論新社)がある。その研究はBBCや、L.A. Times、『アトランティック』などで取り上げられ、Google、Microsoft、Adobeなどで招待講演も行っている。

クリストファー・レア(Christopher Rea)
ブリティッシュ・コロンビア大学アジア研究学科教授。コロンビア大学で博士号を取得。専門は近代中国文学。著書にChinese Film Classics, 1922-1949などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    研究を成就させるためのロードマップを作ったはいいが、学生たちは戸惑うばかり。学生たちは研究を始める前の段階で躓いていた。
  • 要点
    2
    テーマは、研究の範囲をある程度絞る上ではたしかに役立つ。しかし、テーマだけで研究は前進しない。重要なのは、問いだ。かしこまらず、それでいて正直な問いを生み出すことが準備の第一歩になるだろう。
  • 要点
    3
    問いを立てたら、今度はそれを磨いていかなくてはならない。その問いは誠実か。バイアスがかかっていないか。最初からあらかじめ結論が用意されていることはないか。

要約

どうして上手くいかないのか

船出には準備がいる
Mykola Sosiukin/gettyimages

著者たちが大学院に在籍していたころ、研究方法論の講義で学部生を指導していた。必須のゴールは研究計画書を完成させることである。そのための完璧なロードマップを作ったつもりだった。しかし、それが上手くいかない。これに従えば完全に研究プロジェクトを最後まで導けるはずなのに。その原因は意外なところにあった。

研究は、手をつける前からすでに始まっている。研究対象に「興味」を持たなければ、文献を収集したり、仮説を立てたりすることもできない。そう、学生たちは「自分が何を研究テーマにすればいいのか」からわからなかったのである。

もっとも難しいのは研究を続けることではなく、研究に着手する前の段階なのだ。なのに、それを教えてくれるものはどこにもない。研究の道筋について手ほどきする書物はたくさんあるのに、研究テーマを見つけるための本はほとんどない。

それは「人はやりたいことを最初から知っている」という根拠のない思い込みがあるからだ。でも実際は、やりたいことを言語化できないか、そもそもやりたいことに気付いていない可能性がある。往々にして人は、他人を模倣して、それが「自分のやりたかったことだ」と錯覚する。

真の研究というものは、研究者が自分のなかにある問題を見極め、それに対しての道筋を考えることから始まるのだ。

本書では「自分中心的」アプローチを推奨する。注目するのは研究の初期段階だ。研究という船出にあたって役立つ、様々な技術や心構えを説明しよう。

自分中心的研究とは

実践の点では、自分の直感、興味、志向との密接なつながりを研究の始めから終わりまで維持することが重要だ。「自分中心的な」研究者であるためには、自分の中に強い芯をもたなくてはならない。

精神的には、研究者としての自己の能力を見極め、意識的に評価していくことだ。自分は何者なのかを認め、自分の直感を信頼し、研究を進めながらそれを深化させていく。

そして、「自分中心的な」考えかたとは、自分のアイディア、前提、関心事を重視することだ。それによって、研究する意義のある、自分にとって重要な問題をより上手に発見できるだろう。

自分中心的な研究者は、自己中心的なのではなく、むしろ自分をたえず反省し、自分に批判の目を向ける。一方で、他者の意見が妥当かどうか客観的に評価できる公平性と自信を持ちあわせ、常識に挑戦する能力もある。

自分中心的研究のゴールは、「この世界の一面について、実証的で、根拠があり、理論的に裏づけられた説得力のある研究成果を生み出すこと」だ。他者にとって本当に重要な問題を解決するためには、まずその問題が自分にとっても重要でなくてはならない。これこそが自分中心的研究の考えかたといえるだろう。

ちょっとした好奇心や思いつき、誰かから割り当てられた仕事などを「研究の焦点に据えてはいけない」のである。

【必読ポイント!】 研究の第一歩となる「問い」

テーマの罠
anilakkus/gettyimages

研究にとりかかる際、最初に立ちはだかる難題は「テーマ」をいかに具体化し、「興味をそそる問いに落とし込むか」である。誰でも面白そうなテーマを見つけることはできるが、これを具体的な問いに変化させるのがもっとも難しい。

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要約公開日 2023.11.11
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