世界を動かした名演説

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世界を動かした名演説
出版社
出版日
2023年10月10日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

人類の長い歴史の中で、言葉の力は何度も世界を動かしてきた。こうした名演説にまったく心当たりがないという人は稀だろう。しかし、人生の中で演説をしたことがある、という人はどれくらいいるだろうか。特に日本はスピーチ文化に馴染みがなく、自分とは関係ないと思う人も多いだろう。

しかし一方で「言葉の力で人を動かす」ことは誰もが毎日行っている。仕事の場でも家庭でも、言葉を使ったコミュニケーションによって、誰かになにかをしてもらうことは避けて通れない。同時に、うまくいかなかった経験もすぐに思い起こすことができるはずだ。

演説で伝えたい内容そのものは、どのような名演説であってもたいていシンプルである。「あきらめず戦おう」「支援してほしい」「権利を認めてもらいたい」――単にそれを声高に訴えるだけなら、誰にでもできる。つまり優れた演説が人の心を動かす理由は、その内容よりも語り口にある。人の心を動かすためにはなにが必要なのか。どのような技術があるのか。それを学ぶための教材として、演説はうってつけである。

世界を動かす機会はなかなかないかもしれないが、人の心を動かさなければならないとき、大勢の人の前で話さなくてはならなくなったときには、ぜひとも演説のことを思い出してみてほしい。

ライター画像
池田明季哉

著者

池上彰(いけがみ あきら)
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、73年にNHK入局。記者やキャスターを歴任する。2005年にNHKを退職して以降、フリージャーナリストとしてテレビ、新聞、雑誌、書籍、YouTubeなど幅広いメディアで活躍中。名城大学教授、東京工業大学特命教授を務め、現在9つの大学で教鞭を執る。著書に『池上彰の憲法入門』『「見えざる手」が経済を動かす』『お金で世界が見えてくる』『池上彰と現代の名著を読む』(以上、筑摩書房)、『世界を変えた10冊の本』『池上彰の「世界そこからですか!?」』(以上、文藝春秋)ほか、多数。

パトリック・ハーラン(Patrick Harlan)
1970年生まれ。米国コロラド州出身。芸人、東京工業大学非常勤講師、流通経済大学客員教授。93年ハーバード大学比較宗教学部卒業。同年来日。97年吉田眞氏とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成。NHK「英語でしゃべらナイト」「爆笑オンエアバトル」等に出演し、注目を集める。「報道1930」「めざまし8」でコメンテータを務めるなど、報道・情報番組にも多数出演。2012年より池上彰氏の推薦で東工大の非常勤講師に。コミュニケーションと国際関係についての講義を担当。著書に『パックン式お金の育て方』(朝日新聞出版)、『ツカむ!話術』『大統領の演説』(角川新書)ほか、多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    説得力のある演説には、エトス・ロゴス・パトスがある。人格や経歴など、その人物の信頼性がエトス。論理的なアピールと言葉の表現がロゴス。感情に訴えるのがパトスだ。
  • 要点
    2
    ロゴスの人であるチャーチルの巧みな演説は間違いなく世界を動かした。エトス・パトスの人であるゼレンスキーは、チャーチルを効果的に引用し、聴衆の心に訴えかけた。
  • 要点
    3
    多くの名演説では、引用によって聴衆と文脈を共有したり、繰り返しの表現によって重要な部分を強調する手法が用いられている。

要約

ウィンストン・チャーチル

「我々は戦う。岸辺で、上陸地点で、野原で、街路で、丘で」 1940年6月4日 英国院議会にて
Panama7/gettyimages

チャーチルのこのスピーチは、文句なしに「現代史を動かした」名演説の定番と言えるだろう。名演説とは得てして状況がよいとき、たとえば歴史的な勝利を飾ったときに行われるものだが、この演説は違う。

第2次世界大戦下の1940年、ナチス・ドイツ軍の侵攻はベルギーからフランスへと進んでいた。イギリス軍はフランス軍を支援したが、ドイツに対して屈辱的大敗北を喫してしまう。結果、ヨーロッパ大陸から撤退しなければ、全滅するか数万人が捕虜になってしまうという危機的状況を迎えた。

連合軍はダンケルク海岸からの撤退作戦を計画するが、イギリス軍の軍艦だけではとても全員を救出できない。そこでチャーチルが行ったのがこの演説である。チャーチルは全英国人に向けて「あらゆる船を持つ人は全員ダンケルクに赴き、英軍と仏軍を救出してほしい」と訴えた。その結果、撤退作戦は見事に成功、33万人もの同盟兵が助けられた。

英国民もイギリス軍兵士も、負け戦に意気消沈していた。しかし兵士たちが作戦後に母国に戻ると、国民はこれを大歓迎した。さらにチャーチルの演説がラジオから流れ「さあ、ここからやるぞ!」と一層奮い立った。まさに人の心を動かした演説といえる。

チャーチルはこの演説で、国民の記憶に新しい失敗を挙げた。ドイツの攻撃を劇的に描写し、後悔を煽り、つらかった過去を思い出させた。その上で、今度はそれを総動員で乗り切ったという直近の功績を語る。その後で、この先どう防衛するかという本題に持ち込めば、聞く者の感情はどうしたって揺さぶられることになる。

特筆すべきなのが、首句反復と呼ばれるレトリックのテクニックだ。「我々は戦う。岸辺で、上陸地点で、野原で、街路で、丘で。我々は決して降伏しない。万が一、広く本土が征服され飢えに苦しむことになろうとも、わが帝国は海の向こうでイギリス艦隊に守られつつ、必ずや戦い続けることだろう。神の思し召しにより、新世界が持てる力の全てで旧世界の救済と開放に向かう時まで」――この演説の最終段落では、「we shall」が11回も繰り返されている。ここで力強く決して降伏しないという意志、そしてイギリスがヨーロッパを救うという決断を示したことは、大きく人の心を動かしたのである。

【必読ポイント!】 ウォロディミル・ゼレンスキー

「ウクライナに栄光あれ」2022年3月8日 英国議会・オンラインにて。同12月21日 米国連邦議会にて。
Olena_Z/gettyimages

ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、英国議会で行われたスピーチにおいて、チャーチルの演説を引用した。

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要約公開日 2023.11.05
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