生まれ変わる歴史的建造物

都市再生の中で価値ある建造物を継承する手法
未読
生まれ変わる歴史的建造物
生まれ変わる歴史的建造物
都市再生の中で価値ある建造物を継承する手法
未読
生まれ変わる歴史的建造物
出版社
日刊工業新聞社

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出版日
2014年07月25日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

歴史的建造物、というと、京都府の法隆寺や、広島県の厳島神社などの世界遺産を思い浮かべる方が多いだろうか。日本にはそのような、世界遺産に認定されるようなもの以外にも、建設背景や技術のために大切にされている歴史的建造物が数多くある。本書で取り上げられるのは、とくに東京都心にあり、近代以降に建てられた東京都中央郵便局や、歌舞伎座といった建物である。 これらの歴史的建造物はその地域を特色付けるシンボルとなるだけでなく、社会的にも経済的にも意義深い。

一方でわが国は地震大国でもある。東日本大震災、阪神・淡路大震災は記憶に新しい。特に阪神・淡路大震災以降、建造物の耐震性は、安全性を審査する上で重要なポイントとなってきた。また材質の経年劣化など様々な要因も相まって、歴史的建造物は建替えを迫られている。

ここで起きる問題は、「価値の継承」と、「課題の解決」である。歴史的建造物の持つ価値を保存しながら、建築物の安全性などの「課題」を解決していかねばならない。著者である野村氏は、前述の歌舞伎座などの歴史的建造物を含む数々の都市再生プロジェクトの設計を行ってきた、プロフェッショナルである。本書は歴史的建造物の成り立ちだけでなく、価値を継承しつつ現代に合わせた新規開発にどのように向き合うかを提示する。

著者

野村和宣
少年期より建築設計と歴史的な町並みに興味を持つ。大学時代は建築学科にて歴史意匠を専攻。三菱地所・設計部門時に丸の内再構築のマスタープランの企画設計、引き続き丸の内で日本工業倶楽部会館・三菱信託銀行本店ビルの設計チーフを担当する。以降、歴史的建造物を含む数々の都市再生プロジェクトの設計に携わる。
主な作品
・日本工業倶楽部会館・三菱信託銀行本店ビル 2003年(日本建築学会業績賞)
・京都ダイヤビル 2007年(旧三菱銀行京都支店:外壁保存)
・三菱一号館 2009年(日本建築学会業績賞、日本建設業協会賞)
・JIPタワー保存棟(旧東京中央郵便局) 2012年
・GINZA KABUKIZA (歌舞伎座・歌舞伎座タワー) 2013年

本書の要点

  • 要点
    1
    歴史的建造物の建替えには、「価値の継承」と「課題の解決」の2つの方向性のバランスのうえでの最適解を導きだすことが要求されている。
  • 要点
    2
    設計者としての仕事は、歴史的建造物を知り尽くし、思考力や分析力を駆使して、その上で歴史的建造物を活かした新しい活用方法を見出す提案をすることだ。
  • 要点
    3
    歴史的建造物の歴史継承の大きな意義は、ただ形を継承するだけでなく、そこに刻まれたモノづくりの技術や精神を読み取り、伝承していくことでもある。

要約

都市再生と歴史継承

歴史継承の価値
coroichi/iStock/Thinkstock

「戦後60年を経た変化の激しい東京都心部で、『歴史的建造物は残っていますか?』と問われれば、答えはYesである。」と著者はいう。近代化の中で最も成熟が進み、建築や都市計画の変化が見られる東京都心部においても、歴史を伝える建築は今も残っている。第一章では特に明治期以降、近代オフィスが立ち並ぶ東京都千代田区大手町・丸の内・有楽町地区を中心に「街が誕生し更新されていく中で歴史継承がどのように行われてきたのか」が紹介されている。

歴史的建造物とは文化財保護の分野で使われる用語であり、「築50年以上である/著名な建築家が設計した/時代を代表する形態や技術が維持されている/景観上重要な場所に存在している」などの性質をもった建造物と意味付けされている。しかし、本書では歴史的建造物の価値をより広義に捉え、「歴史継承」を、保存することだけでなく「歴史的建造物の価値を何らかの形で後世に継承すること」として定義する。

では、歴史的建造物の価値はどこにあるのか。「様々な歴史を後世に伝えている価値」はもちろんのこと、「建築史、技術史、社会史など学術的な観点から指摘される文化財としての価値」や「景観財としての価値」などが考えられる。

歴史継承の課題
ChristianChan/iStock/Thinkstock

一方で、歴史的建造物は「安全性、機能性、経済性」といった課題を抱えており、本書ではこの3点について考察されている。

まず安全性と聞いて真っ先に思いつくのは耐震性であろう。1995年に発生した阪神・淡路大震災以降、わが国では建物の耐震性について議論が活発となっている。歴史的建造物は古い建築物であるため、一般的には国が求める耐震性を満たしていない場合が多い。また耐震性の他にも、材質の経年劣化による躯体の劣化、耐久性の減耗、またそれに伴う建築物の崩壊による落下の危険性、さらには防災性能など安全に関する課題は多い。

機能性の課題とは、その建造物が担う活用用途に対する機能性が抱える問題を指す。ITの急激な発展に伴い、現代的な建築物は多くの機能を必要としている。またバリアフリーなど利用者を考えた建築設計が必要となっているが、歴史的建造物の多くはそのままではそのニーズを満たしていない。

最後の経済性は、維持するためのランニングコストや建替えにかかる経済的なデメリットを指している。

このように、歴史的建造物の建替えは「価値の継承」と「課題の解決」の2つの相反する方向性を抱えており、このバランスと最適解を求めることが要求されている。

歴史的建造物評価の手法

調査から、方針の策定まで
fralo/iStock/Thinkstock

前項では「価値の継承」と「課題の解決」の両立が必要であると述べた。特に「価値の継承」については、その歴史的建造物が持つ背景や建築方式の知識がなければ継承するべき「価値」について曖昧となってしまうことがすぐに想像できるだろう。本項では歴史的建造物の継承を検討する際の、著者の具体的な方法について紹介する。

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要約公開日 2015.01.30
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