ある食品会社で営業部長を務める50代の男性は、「営業で大切なのは気合と根性」と断言して憚らない。自分がかつて気合と根性で営業成績をあげた話を繰り返しては、現実離れした目標を達成させようとする。
根性論を持ち込む上司は「みんながやる気を出せば、すべてがうまくいく」と考えがちだ。こうした思考回路の根底においては、しばしば「すべてがうまくいけばいいのに」という願望と「すべてがうまくいく」という現実が混同されている。これを精神医学では「幻想的願望充足」と呼ぶ。このような人は、目の前の現実を受け入れられない、現実否認の傾向が強いのだろう。過去の栄光をしきりに持ち出すのも、現実を直視したくないからだと思われる。
現実否認の傾向の強い人には、具体的な数字や根拠とともに「業界全体を見ても、こうなっている」「数字が落ちているのは長期的な傾向」などと示し、現実を見てもらうべきだ。決して「あなたのやり方は現実的ではない」「あなたは現実を見ていない」などと言ってはいけない。
ある中小企業では、30代の女性社員が突然、20代の女性社員を怒鳴りつけることがあるそうだ。怒鳴りつける内容は、「この前、頼んでいた仕事はどうなったの。まだできてないの。なんでそんなに遅いの」「あなたが作った書類はミスが多くて、後で修正するのが大変なのよ。もっとちゃんとやってよ」といったものだ。
その女性が怒鳴るのはいつも、社長から叱責された日か、その翌日らしい。怒鳴られて怒りと欲求不満が溜まった結果、自分よりも弱い相手に当たり散らして鬱憤を晴らそうとするのだろう。このケースのように、怒りや欲求不満の原因になった相手に反撃できず、別の対象に矛先を向けることを、精神分析では「置き換え」と呼ぶ。
このケースの問題は、20代の社員が傷つくことだけではない。当たり散らされた20代の社員も、自分よりも弱い立場の相手、後輩や派遣社員、パートタイマー・アルバイトに対して、鬱憤を晴らそうとするだろう。その対象にされた側も、自分より弱い相手に当たり散らす――。「置き換え」による八つ当たりの連鎖が起こるのだ。
八つ当たりの連鎖が起きている職場では、仕事の能率も業績も下がる。そして、それに激怒したトップが部下を怒鳴りつけ、怒鳴りつけられた部下は自分より弱い相手に八つ当たりをして……と、悪循環に陥っていく。
ある金融機関の20代の男性行員は、「僕は有名な△△大学の出身でさ」などと、相手を見下すようなことを言う。同僚が辟易していても、本人はまったく気づいていないそうだ。
3,400冊以上の要約が楽しめる