世界の経営学者はいま何を考えているのか

知られざるビジネスの知のフロンティア
未読
世界の経営学者はいま何を考えているのか
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知られざるビジネスの知のフロンティア
未読
世界の経営学者はいま何を考えているのか
出版社
英治出版
出版日
2012年11月13日
評点
総合
3.3
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

会社の規模に関わらず、市場環境の変化の激しさに晒されるなかで、中長期にわたって有効となる戦略指針がないものか、経営学にその答えを求めたいビジネスパーソンは多いことだろう。

本書を読むと、世界の最先端の経営学者が何に興味関心があるのかがおおむね分かるようになる。彼らの研究は、ドラッカーのように名言を生み出すことではなく、いかに科学として企業経営を理論的に構築し検証するか、という点を重視したものだ。経営の真理を追究する経営学者と、競争優位を築くために自社が採るべき活動内容が知りたい実社会でのビジネスパーソンとでは、隔たりがあるという点は著者も認めるところではある。それでもビジネスパーソンはこうした研究の成果をもとに、自社の置かれた環境や固有の要件を勘案しながら、進むべき道を選んでいく必要がある。

本書は特に経営に携わる方に是非一読いただくことを勧めたい。また、経営学に携わる方であれば、本書で語られているような、経営学が抱えている課題を改めて認識し、是非ともその解決にチャレンジをしていただきたいものだ。

ライター画像
大賀康史

著者

入山 章栄
1996年慶應義塾大学経済学部卒業。1998年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2003年に同社を退社し、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年よりニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーに就任し、現在に至る。専門は経営戦略論および国際経営論。

本書の要点

  • 要点
    1
    マクロ分野の経営学には三つの流派、経済学ディシプリン、認知心理学ディシプリン、社会学ディシプリンが存在し、それぞれの興味にもとづいて多様な考え方をする経営学者が存在する。
  • 要点
    2
    マイケル・ポーターは「競争しない戦略」を唱えたが、企業が競争優位を持続できる期間が短くなった現代では、「一時的な競争優位の連鎖」を生み出す、より積極的な競争行動が必要とされている。
  • 要点
    3
    世界の経営学が直面している課題は大きく下記の三つであり、経営学者は経営学を社会科学として確立し、知のフロンティアを推し進めようと、日々格闘している。 課題①:研究者の理論への偏重が、経営理論の乱立化を引き起こしている。 課題②:おもしろい理論への偏重が、重要な経営の事実法則を分析することを妨げている。 課題③:平均にもとづく統計手法では、独創的な経営手法で成功している企業を分析できない可能性が残る。

要約

これが世界の経営学

iStock/Thinkstock
経営学についての三つの勘違い

一、アメリカの経営学者はドラッカーを読まない

「経営学の父」と呼ばれるピーター・ドラッカーの書籍は、日本の書店のビジネス書コーナーに行くと、ところ狭しと並んでいる。一方でアメリカでは研究のためにドラッカーの本を読むことも議論することもない。なぜならドラッカーは「学問としての経営学の本」とは認識されず、「名言ではあっても、科学ではない」と考えられているからだ。

二、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)は学術誌ではない

HBRを学術誌と認識している人が多いが、けっしてそうではない。HBRの論文には、学者が紹介する経営分析の新しいツールや最新の企業戦略の動向などは語られているが、それらの科学的な分析の仔細が報告されている訳ではないからだ。

三、よい授業をしても出世などできない

アメリカの大学はアシスタント・プロフェッサー、アソシエイト・プロフェッサー、フル・プロフェッサーの三段階制である。上のポジションに昇格するために決定的に重要なのは、「上位ランクの学術誌」に何本論文を載せたかであり、学生からのティーチングの評価は「教授全体の平均ぐらいか、あるいは多少下でもかまわない」といった程度である。

iStock/Thinkstock
経営学の研究領域

「アメリカの大学の博士課程で一般的に使われている、経営学の理論を網羅した教科書を教えてほしい」とよく聞かれるが、そのようなものはない。少なくとも、経営戦略論、組織論、国際経営論などの分野において、研究者向けの代表的な教科書は存在しない。

経営学は大まかにはマクロ分野とミクロ分野に分かれる。マクロ分野では、企業を一つの単位としてとらえ、その行動や他企業との競争関係、協調関係、組織構造のあり方などが研究トピックとなる。例えば、経営戦略論、(マクロ)組織論、それらの横断領域として、国際経営論、アントレプレナーシップ論、技術経営論などが含まれる。

ミクロ分野は、企業内部の組織設計や人間関係を分析する研究領域で、「組織行動論」と呼ばれる。例えば、チーム・グループ行動、リーダーシップ、人的資源管理などが含まれる。

マクロ分野の経営学の三大流派

① 経済学ディシプリン

この流派の研究者は、経済学の中でも産業組織論や組織の経済学といわれる分野に基礎をおくことが多い。大雑把に言えば、「人は本質的に合理的な選択をするものである」という仮定がおかれている。有名なハーバード大学のマイケル・ポーター教授はこのカテゴリーに入る。

② 認知心理学ディシプリン

この流派は、古典的な経済学が想定するほどには人や組織は情報を処理する能力がなく、それが組織の行動にも影響を及ぼしている、という考えを出発点にしている。認知心理学ディシプリンの始祖は、一九七八年にノーベル経済学賞を受賞したハーバード・サイモン教授だ

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要約公開日 2013.10.31
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