朝6時前に起きて、身支度をして朝食をとり、最寄駅を午前7時50分に発車する電車に乗れるだろうか。出発までおよそ2時間もあるのだから、余裕だと思うかもしれない。ところが、実際にやることをリストアップして、それぞれの所要時間を足していくと、少しの余裕もないことがわかる。人は、「たんなる足し算」が意外に苦手だ。
決まりきった用事を実行するだけでも、100分先の予測がうまくできないのだから、100日後の締め切りが守れるかなど到底わからない。それなのに、私たちは仕事にかかる時間を見積りたがるうえに、その見積もりは「おおよそ正しい」と信じてしまう傾向がある。
たとえば、著者は自分の行動記録をつけて、1ヶ月で自分が書ける文章量を把握しているが、それを説明しても出版社の人には信じてもらえない。「やればできる」と考えられてしまい、さらにはその信念を覆すことは容易ではないからだ。実際、本書の執筆も「締め切りまでには書き上がらない」と確信して引き受けた。
このように、締め切りに追われて消耗しないためには、時間に余裕を持とうとするだけでは足らない。大事なのは、仕事の約束や締め切りを守れないといったアクシデントが起こったときに、心を消耗しないと決めておくことだ。仕事の見積りが正確なはずはなく、未来の予測はデタラメだと理解していれば、締め切りや時間のことで自分や他人を責めなくて済むようになる。
「時間はなくならない」という主張は、他の主張とは違ってなかなか信じてもらえない。私たちはそれほどまでに、「時間が足りない」という考えを叩き込まれてきているのだ。
しかし、著者は自身の経験から、人生のどんな時期にも「時間がなくなった」経験はなかったと語る。どんなに悲惨な時期や忙殺されていた時期であっても、たとえお金はなくても、時間だけはあったのだ。もちろん、締め切りまでの日数が足りなくて忙しい気持ちに焦った経験はたくさんある。しかし、それは締め切りまでの日数が少ないのであって、時間がないのとは根本的に異なる。たとえ原稿が書き上がらないまま締め切りを迎えても、時間はなくなったりしない。編集さんに不愉快に思われるかもしれないが、原稿を放置して家族でディズニーランドに出かけることだってできる。
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