NEXUS 情報の人類史 上
NEXUS 情報の人類史 上
人間のネットワーク
NEW
NEXUS 情報の人類史 上
出版社
河出書房新社

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出版日
2025年03月05日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

変化を研究するのが歴史――この言葉を軸に展開する本書は、人類が「情報」を通じて真実と秩序をどう生み出してきたかを大胆に解き明かす。特徴的なのは、「情報はただの武器ではない。むしろ、人類の情報ネットワークにおいては、自らが生き延びるため、真実を追求するだけでなく秩序を築くことも必要だ」という視点である。これは、神話と官僚制という二本柱が大規模社会を支えているという、本書の立論の背景とも重なる。

興味深いのは「人々は自分がその人物と結びついていると考えるが、実際にはその人について語られる物語とつながっている」という指摘だ。ブランド化された個人や組織への支持の実態が、情報によって構築されたイメージの共有にすぎないことを示している。さらに、「真実はほんのわずかでも秩序がたっぷりあれば、多くを達成できる」のが情報ネットワークであり、歴史上、多くの制度や社会運動は必ずしも高い真実性を求めなかった。

その一方で、進化論のように、真実を追究する動きが既存の秩序を揺るがした事例も、数多く紹介される。本書の最大の魅力は、こうした光と影を余すところなく解き明かし、“情報”が人類の興隆を支えつつ、ときに危険な方向へ導いたという、両面性を示している点にある。変化を生む原動力としての情報の役割と、人々をまとめる秩序の必要性が、歴史を織りなす二大テーマだと痛感させられる一冊だ。

著者

ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)
歴史学者、哲学者。1976年生まれ。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して2002年に博士号を取得。現在、ケンブリッジ大学生存リスク研究センターの特別研究員もつとめる。2020年のダボス会議での基調講演など、世界中の聴衆に向けて講義や講演も行なう。また、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『フィナンシャル・タイムズ』紙、『ガーディアン』紙などの大手メディアに寄稿している。著書『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』、および児童書シリーズ『人類の物語 Unstoppable Us』(以上、河出書房新社)は世界的なベストセラーとなっている。社会的インパクトのある教育・ストーリーテリング分野の企業「サピエンシップ」を、夫のイツィク・ヤハヴと共同設立。

本書の要点

  • 要点
    1
    情報は真実を映し出すのではなく、誤りや虚構を通じて大規模社会を結びつける原動力となりうる。
  • 要点
    2
    サピエンスは物語を通じて「共同主観的現実」を作り上げ、巨大なネットワークと柔軟な協力を実現してきたが、ときに誤った方向へ導く危険をもはらむ。
  • 要点
    3
    文書と官僚制は情報管理を飛躍的に高度化させたが、不透明性や真実の犠牲を招く可能性がある。

要約

情報とは何か?

情報が果たす役割

素朴な見方では、情報は「現実を表示する試み」であり、誤情報や偽情報はあくまでも例外的な失敗とされる。さらに、より多くの情報を集めれば自然に真実が見えてくるという期待がある。

しかし、実際の情報は単に現実を映すのではなく、異なるものを結びつけて新たな現実を創り出す働きを担う。正確性に欠ける情報が社会に流布しても、人々の信念を強く結びつけ、ネットワークを形成する力となり得るのだ。その点では、誤りや嘘、空想であっても情報となることがわかる。

こうした側面を踏まえると、情報は本質的に真実と結びついているのではなく、「物事を配置して構成された状態(イン・フォーメーション)にする」と言える。陰謀論のような現実の誤った表示でさえ、団結力のある新しい集団をつなげ、想像を超えた社会的変化を引き起こす引き金になってしまうのだ。

人間の歴史における情報
gremlin/gettyimages

現実を正しく映すだけのものとして情報を捉えると、聖書や占星術のように重大な影響力を持った現象を説明しきれない。しかし、人々を結びつける「社会的なネクサス(つながり、結びつき、中枢)」とするならば、聖書が数十億もの人々を統合し、強大な宗教ネットワークを築けた理由も納得しやすくなる。

近代では、ドイツのナチスやソ連のスターリン主義のように、高度な技術のなかでさえ妄想的なイデオロギーによって国全体を短期間に統制した例もある。誤りや空想にもとづく主張であっても、それが集団を弱体化させるどころか、社会そのものを大きく動かしうることを示している。

こうして歴史を振り返ると、情報テクノロジーが発達して接続性が飛躍的に高まった一方で、現実の忠実な表示の方向には進んでいないのがわかる。サピエンスの成功は、情報から正確な地図を描く能力ではなく、情報を用いて大勢の人間を束ね、新たなネットワークを創り出す力量によると考えられるのだ。

そうして生み出された最初の情報テクノロジーが、物語である。

【必読ポイント!】 物語――無限のつながり

共同主観的現実

サピエンスが世界を支配するに至ったのは、特別に賢いからではなく、大集団で柔軟に協力できる唯一の動物だからだ。言語能力と脳構造の変化により、約7万年前から、虚構を語り信じる力を得た結果、同じ物語の共有による集団行動を可能にした。相手を個人的に知らなくても、同じ物語さえ知っていれば、無数の人と接続できる。これは現代のブランド戦略にも通じる。製品や人物に物語を結びつけ、現実の特性とは関係ないイメージを人々に浸透させる。

物語には客観的現実や個人の主観を超えて「共同主観的現実」を生み出す力がある。法律や企業、神、通貨などは、もともと物語が交換されるなかで生まれたフィクションであり、それによって人間は巨大な社会ネットワークを築いてきた。誰もがアメリカや中国の存在を疑うことはないが、イスラエルとパレスティナの紛争では、片側しか認めない政府もある。これは、国家が共同主観的現実であるという事実を浮き彫りにしている。

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要約公開日 2025.05.10
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