米TitleMax社が発表した、世界のキャラクタービジネスのビジネス規模ランキング(2018年)によると、アンパンマンの累計市場規模は602億8500万ドルで第6位。当時の為替レート(1ドル=109円)で円換算すると、約6.6兆円にのぼる。アンパンマンはテレビ放映開始から30年で、これほどまでの巨大ビジネスへと成長したのである。
アンパンマンは、並み居るキャラクターの中でも非常にユニークな存在だ。顧客は日本の乳幼児が中心であるにもかかわらず、世界トップクラスの経済圏を築いているからだ。
エンタメ社会学者の中山淳雄氏は、「日本におけるアンパンマンは、ディズニーを超える最強キャラクター」だと断言する。0~2歳におけるキャラクター支持率は、男女ともに1位。3~4歳でもミッキーマウスやきかんしゃトーマス、ハローキティを上回っている。日本の乳幼児市場において、アンパンマンは不動の人気キャラクターなのである。
やなせたかしは1941年、22歳のときに軍隊に召集され、43年から中国に駐留した。このときの戦争体験はやなせたかしの作品、とりわけ「アンパンマン」に大きな影響を与えている。アンパンマンには、戦争における「空腹」と「正義」の強烈な記憶が織り込まれているのだ。
やなせたかしは戦争を通じて「空腹は人間にとって最も辛いこと」という真理を、身をもって経験した。中国に渡ったやなせは福州に派兵され、その後、上海に移動した。上海ではマラリアを発症し、そのうえ「飢え」の苦しみを味わうこととなる。上海決戦に備えて食料は切り詰められ、食事は1日2回、薄いお粥だけであった。
後年、やなせたかしは中国での3年間を振り返り、「一番地獄だったのは飢えである」と語っている。「重労働は一晩寝ればなんともない。辛い訓練にも耐えられる。耐えられないのは、食べ物がないということだ」。
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