NEXUS 情報の人類史 下
NEXUS 情報の人類史 下
AI革命
NEW
NEXUS 情報の人類史 下
出版社
河出書房新社

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出版日
2025年03月05日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

コンピューターが登場したことで、人類社会はどのように変容するのか? これまでいくつもの「予感」をもたらしてきたテーゼだが、本書はそうした私たちの「予感」を、「確信」に変える一冊といっていい。

コンピューターは単なるツールにとどまらず、私たち人間とは全く異質な、そして私たちを超える社会的・経済的な力を持った新たな社会の「メンバー」となる可能性があるという。少し前ならよくあるSFの話として退けることもできたかもしれない。だがここまで生成AIが発達したいま、おそろしいほど現実味を帯びた話だ。

本書はAIが創出しうる「聖典」にも触れており、じつに興味深い。神を超えて、AIがその役割を担う日が来るのではないかという指摘は、AIが人間の手を離れた新たな「権威」として登場する可能性を想起させる。

加えて、AI自身がソーシャルメディアをコントロールし人々の感情や行動に影響を与えることについても警鐘を鳴らしている。そうして「真実」を超えた力を持った情報が、私たちの行動を決定づけてしまう。「情報革命」とは、単なる技術革新ではない。それは人類の意識や社会構造に、これまでにないような深い影響を与えるポテンシャルを有していることがわかる。

本書の魅力は、未来を恐怖のカタログとして煽るのではなく、読者に「いま選択肢を握っているのは誰か」を自覚させる点にある。AIの台頭が避けがたい以上、私たちが取るべきは消極的な傍観ではなく積極的なデザインだ。そのためには、どういう前提に私たちが置かれているのかを正しく把握する必要がある。迷っているゆとりは、おそらくもうあまり残っていない。

著者

ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)
歴史学者、哲学者。1976年生まれ。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して2002年に博士号を取得。現在、ケンブリッジ大学生存リスク研究センターの特別研究員もつとめる。2020年のダボス会議での基調講演など、世界中の聴衆に向けて講義や講演も行なう。また、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『フィナンシャル・タイムズ』紙、『ガーディアン』紙などの大手メディアに寄稿している。著書『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』、および児童書シリーズ『人類の物語 Unstoppable Us』(以上、河出書房新社)は世界的なベストセラーとなっている。社会的インパクトのある教育・ストーリーテリング分野の企業「サピエンシップ」を、夫のイツィク・ヤハヴと共同設立。

本書の要点

  • 要点
    1
    コンピューターは「道具」から意思決定する参加者へ昇格し、人間抜きで情報を連鎖させ、社会の設計図そのものを書き換え始めた。
  • 要点
    2
    民主主義の強みは誤りを正す自己修正メカニズムだが、コンピューターによる監視と自動化が、私たちの雇用と自由を脅かすだろう。善意・分散化・相互性・変化と休止という民主主義の特徴を柱に、柔軟性を高めることが不可欠になる。
  • 要点
    3
    AIは情報の集中に長け、独裁制を後押しする。その力を過信すれば情報の支配権を握られる危うさを忘れてはならない。

要約

コンピューターという新しいメンバー

連鎖の環

コンピューターの普及以前、情報ネットワークの連鎖は主に人間が担っており、それによって教会や国家といった大規模な社会的構造を築いた。たとえば、口伝えで情報を伝える人間同士の連鎖や、手紙という文書と人間の連鎖がそれだ。

逆に言えば、文書と文書を結びつけて新たな情報の連鎖を作り出すためには、必ず人間の関与が必要だった。どんな文書でも、それ自体が別の文書を生み出すのではなく、人間の思考を通過してはじめて、別の文書への道が作られた。

これに対し、コンピューターは人間の介入なしで文書や情報同士を繋ぐことができるという点で、以前のテクノロジーとは根本的に異なる。人間というメンバー同士を結びつけるだけの粘土板、印刷機、ラジオなどとは違い、コンピューターは本質的に、能動的に情報を処理し、意思決定を行う役割を果たすことができる。

コンピューターは情報ネットワークの新たなメンバーとなり、人間の役割を超え、多くの分野で強大な力を手にする可能性を秘めている。たとえば、金融の実態や法制度を把握し、自ら金融ツールを生み出して市場を支配したり、法令違反を監視したりするようになるかもしれない。

これから何が起こるのか?
Just_Super/gettyimages

コンピューターの力が増すことで、新しいネットワークが登場することは避けられないだろう。もちろん、それがすべてを一新するわけではなく、しばらくの間は従来の情報の流れも続くと考えられる。しかし、この新しいネットワークには2つの新しい連鎖が次第に加わっていくはずだ。

1つ目は、コンピューターと人間の連鎖である。コンピューターが人間同士を繋げるだけでなく、時には人間の行動をコントロールする。たとえば、フェイスブックやティックトックといったソーシャルメディアの仕組みがこれに該当する。このタイプの連鎖は、従来の「人間と文書」という結びつきとは大きく異なる。コンピューターは意思決定を行ったり、新たなアイデアを生み出したり、時には偽りの親密さを作り出したりする能力を持っており、文書では達成できないような形で人々に影響を及ぼすからだ。

2つ目は、コンピューター同士が独立してやり取りを行う、コンピューター間の連鎖である。今後、人間はそのネットワークから排除され、その中で何が起きているのかを理解することすら難しくなっていく。

この進化のうちでは、AIは「Artificial Intelligence(人工知能)」の頭字語ではなく、「Alien Intelligence(人間のものとは異質の知能)」と考えるべきかもしれない。

誰が責任を取るのか?

数百年、あるいは数千年にわたるコンピューターベースのネットワークの進化を予測することは難しいが、現時点での進化については見えている。それは誰に対しても即座に政治的・個人的な影響を与えるため、その動向を理解することは極めて重要だ。

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要約公開日 2025.05.18
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