宇宙ビジネスという言葉を聞いて、自分の仕事や生活に関係があると考える人はどれくらいいるだろう。想像もつかないような知識を持った理系の天才が携わる、たった一握りの人にしか関係のないビジネスだと思う人もいるかもしれない。
だが実際のところ、宇宙ビジネスは、今を生きるほぼすべての人の生活や仕事にかかわっている。例えばカゴメのケチャップ用のトマトは、宇宙を活用した技術を使って育てられている。宇宙ビジネスは私たちの身近に存在し、今や無くてはならないものになっているのだ。
日本政府は2024年から、10年で1兆円という大規模な予算を「宇宙戦略基金」として宇宙開発に当てている。もちろん、財源はすべて国民の税金だ。果たして宇宙開発はそれほどのお金をかける価値があるのか、と思う人もいるかもしれない。著者が2024年に取ったアンケートでは、政府による宇宙技術の開発支援について「人生において必要のない人もいるビジネスなので、そこにお金を大量に投資すべきではない」「自分の生活に益を感じることが無さそう」といったコメントも見られた。
ところが実は、宇宙ビジネスは意外にも私たちの生活に深くかかわっているし、少子高齢化や食糧安全保障といった社会課題を解決する可能性を秘めている。宇宙ビジネスは、現代日本においてとても重要な産業なのだ。
世界経済フォーラムが2024年に発表したレポートによると、2023年時点で宇宙ビジネスの市場規模は約98兆円に達している。これは、テレビやWEBメディア、屋外広告などをすべてまとめた世界全体の広告産業と同規模だ。さらに、この市場は2035年までにおよそ3倍にまで成長すると予測されている。
宇宙ビジネスの中で一番儲かっているビジネスはなんだろうか。「宇宙=ロケット」のイメージを抱いている人が多いかもしれないが、実際に最も収益を上げているのは「人工衛星の運用によって地上に還元されるサービス」だ。こうしたサービスと、それを支える地上局設備や端末を含めると、宇宙ビジネス全体の市場のうち71%を占めている。
宇宙ビジネスにおける人工衛星の役割は、大きく3つに分類できる。
1つ目は「通信衛星」だ。これは人工衛星を介して地上に通信を提供するものであり、地上に大規模な通信インフラがなくても、テレビ放送やラジオ、インターネットといったサービスを可能にする。飛行機内で提供されるWi‐Fiも、人工衛星を使った通信だ。
2つ目は「測位衛星」だ。これは、自動車のカーナビやスマートフォンの地図アプリで現在地を正確に把握するための基盤技術となっている。
3つ目は「地球観測衛星」だ。地球の様子を観測し、得られた情報を地上に届ける役割を果たす。最も身近な例は気象衛星「ひまわり」だろう。地球観測衛星は気象観測データにとどまらず、様々な分野で活用が進んでいる。とりわけ、災害時の状況把握や人命保護の観点から、極めて重要な機能を担っている。
人工衛星を宇宙空間へ送り出すにはロケットが必要であるため、人工衛星の増加に伴い、ロケットの打ち上げ需要も今後さらに高まると見られる。ロケットの打ち上げ失敗に備える保険ビジネスや、衛星が増えたことで生まれる宇宙ごみの除去、衛星の修理といったインフラ領域におけるビジネスも、有望な成長分野として注目されている。
宇宙飛行士は、地球の変化を自らの目で直接観察できる。私たちにもその視点を与えてくれるのが、地球観測衛星だ。
地球観測衛星がもたらす最も身近な恩恵は天気予報だ。2.5分に一度という高頻度で宇宙から送られてくる気象データは、今や天気予報に欠かせないものとなっている。
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