組織と働き方の本質
組織と働き方の本質
迫る社会的要請に振り回されない視座
組織と働き方の本質
出版社
日本経済新聞出版

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出版日
2025年04月09日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

雇用・労働界には「出羽守(でわのかみ)」が跋扈している。「アメリカでは……」「欧州では……」と、外国を引き合いに出して、日本の現状を憂い、外国出自の仕組みや制度の導入をもくろむ人たちだ。

最近では、ジョブ型雇用に関し、多くの出羽守が現われた。問題は、彼らのいうジョブ型が正確ではないばかりか、そのメリットだけ強調し、デメリットへの言及がなかったことである。

企業経営において、ジョブ型を入れると解雇がしやすくなるのは間違いない。ジョブ型では「人」ではなく「ジョブ(仕事)」に報酬を支払うため、あるジョブがなくなった場合は、そのジョブに就いていた人も「さよなら」となりやすい。対して、メンバーシップ型を採用する日本企業では、ジョブではなく人に報酬を払っている。そのため、ある仕事がなくなっても別の仕事を任せることができ、解雇する必要がない。

そう考えると、ジョブ型は働く側に解雇という困難を押し付けやすい仕組みといえるが、果たして日本人はそこまで理解しているのか。大きな疑問である。

本書は、そうした出羽守に痛棒を食らわせる内容だ。ジョブ型雇用をはじめ、人的資本経営、ワークライフバランス、自律分散型組織といった、経営や働き方に関する流行り言葉(バズワード)の本質を見抜き、取り出し、あるべき姿を提示する。

著者はリクルート出身で、リンクアンドモチベーション創設者の小笹芳央氏だ。昨今の流行り言葉に何か変だなと思っている人はもちろん、流行に踊らされない組織変革を志す人には、またとない一冊となるだろう。

ライター画像
荻野進介

著者

小笹芳央(おざさ よしひさ)
1961年、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材開発部、ワークス研究所主幹研究員、組織人事コンサルティング室長を経て、2000年に独立。同年、世界初のモチベーションにフォーカスしたコンサルティング会社、リンクアンドモチベーションを設立し、代表取締役に就任。行動経済学、社会システム論、心理学などを基盤にモチベーションエンジニアリングという独自の基幹技術を確立。大手企業から中堅中小企業まで幅広く組織改革の支援を行っている。2013年より現職。リンクアンドモチベーションは2008年に現東証プライム市場に上場。CVCとしても出資先企業多数、約半数がIPOまたはバイアウトなど驚異的な確率を実現中。著書に『会社の品格』(幻冬舎新書)、『モチベーションマネジメント』(PHP研究所)など計27冊。累計発行部数は約100万部。

本書の要点

  • 要点
    1
    人的資本経営を考える際、経営戦略と人事戦略の連動が大きな鍵を握る。具体的には、人的資本の指標と財務成果との繋がりを整理した「人的資本インパクトパス」をつくる必要がある。
  • 要点
    2
    日本版のジョブ型雇用は、仕事(ジョブ)ではなく、役割やポストで規定された「役割型」や「ポスト型」であり、本当のジョブ型とは似て非なる。
  • 要点
    3
    自律分散型組織が効力を発揮できるのは20~30人の組織に限られる。それ以上になると、結節点としてのマネジャーの存在を前提としたピラミッド型組織のほうが、意思決定や活動のスピードは上がる。

要約

会社と組織の本質

会社は人間の欲望をかなえるためにある

会社を英語でいうと、「カンパニー(Company)」となる。その語源はラテン語の「com(共に)」と「panis(パン)」に仲間を表す「-y」がついたもので、「一緒にパンを食べる仲間」という意味になる。この言葉は、会社という言葉が本来持っている共同体的なニュアンスをよく表している。

共同体的性格が変わり始めたのが、イギリスやオランダ、フランスなどの西欧諸国が、アジア諸国と貿易を行うために「東インド会社」を設立した1600年前後のことだ。

同社は「株式会社」という形態をとったことから、投資のリターンを求める株主だけではなく、アジアからの輸入品を売って儲けたい人、それらを買いたい人、働いて給料をもらいたい人などの欲望が、会社を通じて実現できるようになった。

そうやって生まれた会社は、それぞれの欲望を実現する「経済合理性」を中心軸として動く。つまり、儲からないことはやらないのだ。一方、社会には家族愛や友人愛、奉仕の精神といった多様な価値観が混在しており、経済合理性だけで動くわけではない。

結果、会社は摩擦やトラブルを引き起こす。別の言葉でいえば、会社は不祥事を起こす宿命を負っている。このことを私たちはしっかり理解しておく必要がある。

組織を成立させる3つの条件
Goodboy Picture Company/gettyimages

組織と集団の違いは何か。電車の駅のホームに並ぶ人々でいうと、電車を待っている人は「集団」であるが、誰かがホームから線路に落ちてしまい、その人を救おうとする人たちは、その瞬間「組織」になる。つまり、人が集まっているだけなら「集団」だが、ある要件を満たしたら「組織」になるのだ。その要件とは、「共通の目的」「協働意志」「コミュニケーション」の3つである。

電車を待っている人たちは、電車で移動するという同じ目的はあるが、一緒に何かをやる協働意志やコミュニケーションはない。一方、ホームから落ちた人を救おうとする人たちには、救助という共通の目的や協働意志があり、そのためのコミュニケーションが自然に発生する。

組織は一時的なものであるため、存続するには「組織成果」と「個人の欲求充足」の2つが存続要件となる。そのために必要なのが「One for All, All for One(個人は組織のために、組織は個人のために)」の実現だ。

組織の問題は「人」ではなく、「間」にあると捉えるべきだ。個と個、チームとチーム、階層と階層、機能と機能などの「間」である。

組織の人数が増えれば「間」の数も増えるため、組織をうまく分化させて複雑性を縮減していく必要がある。

「人的資本経営」の真相

事業成果と人的資本の関係を紡ぐ

これまで、財務などの有形資産に関して情報開示が義務化されていたが、無形資産については義務化されていなかった。しかし、人材こそが企業の競争力の源泉であり、企業が成長発展するための重要な資本であることから、企業は投資家から無形資産のひとつ、人的資本に関する情報開示が求められるようになった。

この場合、経営戦略と人事戦略の連動が重要になる。それが意識されることなく、オリジナルの指標や施策を考えて発表しても、投資家から興味を持ってもらえなければ意味がない。実際、財務情報と非財務情報を掲載した「統合報告書」の発行にあたり、頭をひねって人的資本情報に関する独自の指標や施策を考え出している企業が多い。それらは企業価値の向上とは相関がなく、単なる自己満足に終わっているケースもある。人的資本情報の開示という手段が目的化しているのである。

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要約公開日 2025.07.06
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