「それってあなたの感想ですよね?」
このフレーズは、ベネッセホールディングスによる「小学生の流行語ランキング2022」で1位にランクインした、「ひろゆき」こと西村博之が口にするフレーズだ。「論破王」と称されるひろゆきは討論番組で相手を言い負かす姿で人気を博している。
ひろゆきにとって重要なのは、議論に勝つことだ。そのためには、あえて相手を苛立たせたり、煽ったりすることも辞さない。彼はこうした振る舞いをパフォーマンスとして行っているし、討論番組では演出として「論破」が求められている。それ自体に問題はない。問題なのはこうした「論破力」が美徳として共有されることだ。
たとえば、こんな出来事が報告されている。ある小学校で、掃除の時間にふざける児童に対し、他の児童が「ちゃんとやってよ」と注意した。すると、注意された児童は「それってあなたの感想ですよね?」と、協力を拒否した。こうした文脈の論破は「対話を切り、黙らせる言葉」として機能する。その言葉を使った児童自身が孤立することもあるという。
これは子供たちだけの問題ではない。世論は誰が誰を論破したのかに大きく影響され、ときにはそれが政治を動かすことさえある。論破力を美徳として高く評価することは、社会の分断をいっそう深め、私たち自身を孤立させることになるのではないか。
しかし、ひろゆき的な言説に対峙する際、根本的な困難がある。詭弁で相手を論破しようとする彼を、詭弁によって論破しようとすることは、彼の手法の反復にしかならないということだ。むしろ、それによってひろゆき的なコミュニケーション観はさらに強化されてしまう。怪物と闘う者は、自分自身が怪物と化さぬよう気をつけなければならないというのはニーチェの弁だ。私たちは、自分自身がひろゆきのような詭弁の「怪物」と化すことなく、その怪物性を制御しながら詭弁に抵抗する方法を考えなければならない。
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