大学教授のように小説を読む方法[増補新版]
大学教授のように小説を読む方法[増補新版]
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大学教授のように小説を読む方法[増補新版]
出版社
出版日
2019年11月05日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

心臓病に魅せられた人たちがいる。これは何も、注目を集めたいがために奇をてらった発言をしているのではない。誰にとって魅力的なのか——それは作家にとって、だ。

作家に好まれやすい病気、というものを考えたことがあるだろうか。本好きであっても、そうしたことに思いを巡らせるのは稀であるはずだ。しかし、よくよく考えてみると、物語にはよく登場する病気と、そうでない病気があることに気づく。天然痘と心臓病、ドラマや小説でよく目にするのはどちらだろう。なぜそこに格差があるのか? それは作家が(意識的にしろ無意識的にしろ)特定の病気を好ましいと思っているからだ。

本書は、私たちに特別な読解装置を与えてくれる。それはさながら、物語を見たこともない角度から切り取ってみせるナイフのようなものだ。人間は長い歴史のなかで、無数の物語や詩を生み出し、語り継いできた。その蓄積は地層のように重なり、物語にはパターンが育まれている。いわゆる「死亡フラグ」も、この発明のひとつだろう。お決まりの「パターン」は飽きられるどころか、それを育んできた無数の作品の文脈を呼び込む、新たな物語に奥行きを与える役割を果たしている。宗教、気候、食事、季節等々、ストーリーに散りばめられたこれらの要素に気を配ることで、物語を深く掘り下げて理解することが可能になる。

いつも何気なく楽しんでいる小説や映画、アニメ、演劇――そのすべてが、この一冊によってもっと味わい深くなるはずだ。

著者

トーマス・C・フォスター(Thomas C. Foster)
ミシガン大学フリント校名誉教授。オハイオ州出身。ダートマス・カレッジおよびミシガン州立大学で学び、2014年まで27年にわたってミシガン大学フリント校で、20世紀および21世紀英・米・アイルランド文学を教えた。2003年に刊行された本書の旧版は、アメリカで学校関係者・読書会に参加する人々・一般の読書家などから高い評価を受け、ロングセラーとなった。

本書の要点

  • 要点
    1
    物語にはパターンがある。特に主人公が旅に出たときは目を光らせるときだ。旅には真の目的がある。主人公が何かしらの変化をするための旅だ。それを知らないのは主人公自身だけだ。
  • 要点
    2
    ヒーローの隣に立ってはいけない。ヒーロー自身に降りかかる厄災はヒーローの周辺にも降りかかる。それだけじゃない。ヒーローが成長するために犠牲になるのは、大抵ヒーローの親友だ。
  • 要点
    3
    物語はたったひとつしかない。神話の頃から、あるいはもっと昔から、人はストーリーを紡いできた。ストーリーはいつも、私たちのすぐ傍にある。

要約

それは、こじつけでしょう

いや、違うんだ
rihard_wolfram/gettyimages

「大学教授」と学生が戯曲について議論をしていると、双方が独特の目つきをする瞬間がある。先生は「なんだ、こんなことがわからないのかね」という目つき、学生は「わかりませんよ。そんなの先生のこじつけでしょう」という目つき。ひとつの物語を読むにあたり、同じ「分析機器」を持っていないがために生ずるひとときだ。

大学教授は少しばかり読者としての経験が豊富だ。だから「読解の言語」を使いこなすことができる。学生の方はそれを身に付け始めたばかりだ。読者は文学の文法、伝統的手法やパターン、コードと法則などを、読むことで学んでいく。どんな言語にもルールがあるように、文学にも読解のルールが存在する。

文学のルールを意識したことがなくても、読者は読む力を持っている。作文の作法を知っていて、それを認識し、結果を予測することも、読む能力の一部だ。一方、文学にも、特有の技法がちりばめられている。登場人物のタイプ、プロットのリズム、章分け、視点の制約等々。そのうえ、ジャンルを超えた共通の約束事まである。たとえば「春」はとても普遍的な題材で、春が登場すると青春、期待、新生活など、あまたの想像が脳裏を駆け巡るはずだ。

文学を読むにも技法が鍵となる。それは理解できた。ではそれはどうすれば習得できるのだろうか。答えはひとつ。カーネギー・ホールの舞台を目指すのと同じだ。つまり、練習あるのみである。

【必読ポイント!】 主人公が旅立ったら、目を光らせるとき

旅はみな探求の冒険である(ただし例外もある)

キップという少年の話をしよう。舞台は1968年の夏だ。キップは母親からお使いを頼まれてパンを買いに行く。安い自転車に乗って町を走るだけで居心地が悪い。道中ではジャーマン・シェパードとのトラブルもあった。最悪だったのは、スーパーマーケットの駐車場で片思いの相手カレンと、スポーツカーに乗ったトニー・ヴォクソールがいっしょにいるところを見てしまったことだ。キップはスーパーマーケットに入り、パンの棚に手を伸ばす。その瞬間、こんなシケた町にいるくらいなら年齢をごまかして今すぐ海兵隊に志願してやる、と決心するのである。

英文学の教授なら誰しも、たった今騎士が宿敵に遭遇する場面を目撃したことに気づくはずだ。いやいや、ただパンを買いに行っただけではないか、と疑問を持つかもしれない。しかし、それこそが探求の物語なのだ。騎士、危険な道程、姫君、邪悪な騎士……先の話は探求の冒険の要素を満たしている。

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要約公開日 2025.06.21
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