時間・自己・幻想
時間・自己・幻想
東洋哲学と新実在論の出会い
NEW
時間・自己・幻想
出版社
出版日
2025年04月28日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「哲学」といえば、古代ギリシャ発祥の西洋の思想である。現代の最先端の哲学者である著者も、「新実在論」と「新実存主義」というオリジナルな思想を提唱しつつ、その発想は西洋の哲学の伝統に根づいている。しかし、グローバル化が進展した現代の世界では、東洋は西洋の文化や価値観の影響を強く受けているだけでなく、例えば世界中で日本のサブカルチャーが受け入れられているように、西洋も東洋文化の影響を受けている。

グローバル化が進む時代に生まれ育った著者は、西洋と東洋の存在論の統合を目指す。本書でも仏教、ヒンドゥー教、老子、孔子、西田幾多郎などについて掘り下げて論じられており、東洋思想への造詣も深い。新実在論と新実存主義は、西洋の近代的な人間の自己のあり方を批判的に再構成するものであり、西洋に対するオルタナティブである。

私たちの日常的な感覚では、世界や時間が、認識される対象として客観的に存在しているように思われている。しかし、著者はそうではない可能性をひらき、その点が特に東洋思想と共鳴する。ふだん何気なく生きている世界も、これは本当にあるものなのか。時間とはいったい何なのか。そうした問題について、西洋哲学と東洋思想という多角的な観点から、本書を通して、深く考えることで、様々な気づきを得られることだろう。

ライター画像
大賀祐樹

著者

マルクス・ガブリエル(Markus Gabriel)
1980年生まれ。史上最年少の29歳で、200年以上の伝統を誇るボン大学の正教授に就任。西洋哲学の伝統に根ざしつつ、「新しい実在論」を提唱して世界的に注目される。著書『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ)は世界中でベストセラーとなった。さらに「新実存主義」「新しい啓蒙」と次々に新たな概念を語る。NHK BS『欲望の資本主義』等にも出演。著書に『世界史の針が巻き戻るとき』『つながり過ぎた世界の先に』『わかりあえない他者と生きる』(以上、PHP新書)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    現代における危機は、単に複数の危機がある「複合危機」というよりも、一つの危機が別の危機に組み込まれて相関関係にある「入れ子構造の危機」であり、物事の関係のあり方を重視する東洋思想が存在感を増している。
  • 要点
    2
    「縁」によって物事をとらえ、世界を幻とする仏教の存在論は、新実存主義と新実在論に共通するところがある。
  • 要点
    3
    客体と主体の相関関係として捉えられた西田幾多郎の「純粋経験」は、それを知るすべがないという点で問題はあるが、新実在論と同様に入れ子構造を見いだせる点で優れている。

要約

西洋哲学と東洋思想

存在感を増す東洋思想
mim.girl/gettyimages

東洋思想は、現代の危機におおいに関わりを持つ。現代では、1つの危機が別の危機に組み込まれて、相関関係にある。したがって、単に複数の危機がある「複合危機」というよりも、「入れ子構造の危機」という言葉が当てはまる。この入れ子構造、ネットワークのネットワークにおいては、「安定した客体や点は関係の動きの結果にすぎず、客体は無限の関係が一時的に停止した点」でしかない。それが、現実そのものの形としての存在論だ。その点について、東洋思想が寄与してきた「すべてのものが相関している」という思想から、もっと精細に掘り下げなければならない。

インドで生まれた思想が2つに別れ、片方は西洋に行ってアフリカ(エジプト)の思想と融合、不変のものを探求する西洋哲学と一神教を生み出した。もう片方は東洋に行き、「変わらないものが存在するというのは幻想である、その幻想を克服しなければならない」とする東洋思想の源流となった。

西洋哲学と東洋思想には、どちらもパラドックスがある。東洋思想では、「すべてのものは変化しているが、変化は変わらない」としている。西洋哲学では、安定、永続したものを作ろうとしたが、たとえばギリシャの建築は何世紀も経るうちに廃墟になってしまった。

著者は、西洋と東洋が出会うグローバリゼーションの時代に育ち、東西双方の伝統から影響を受けてきたため、自身の描く存在論は、両者の統合を目指すものであるとしている。「21世紀はアジアの世紀」であり、「東洋思想がますます存在感を増す」だろう。

【必読ポイント!】 仏教との対話

日本には「実体」がある

ドイツの哲学者たちが日本に来ると、「ヘーゲルが『実体』と呼んだものがここにはまだある」と感じるという。ヘーゲルは、古代ギリシャ人には実体があり、デカルト以後の「近代人には主観、すなわち『自己』がある」と述べた。この実体とは、物には「目に見えない何か、共同体の形をつくる何かに関わる深い意味がある」こと、すなわち「物が意味のある形で結びついていること」を指す。

日本のビデオゲームを全部やりきったとしても、さらに新しいバージョンが考案されて、永遠に終わらない物語をプレイできる。そのように日本では何事においても、表面で何かを理解した気になっては、さらに別のレイヤーが現れて理解しきれなくなる、ということが起こる。「実体は変化でもありうるもの」であり、「むしろ変化が常態」だ。日本語には風を表現するさまざまな語彙があるように、「日本ではすべてが変化」するのである。

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要約公開日 2025.08.30
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