人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学
人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学
NEW
人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学
ジャンル
出版社
日本経済新聞出版

出版社ページへ

出版日
2025年05月23日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
要約全文を読むには
会員登録・ログインが必要です
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』は、2025年3月に慶應義塾大学SFCを定年退職した著者が、学生向けに行なった「認知心理学」の最後の講義をベースに書籍化されたものだ。この科目は「一般教養」で、受講生の多くは卒業後に研究者になろうとしているわけではない。認知科学者である著者が、何を伝えたら学生たちの将来や人生に役に立つのかと、28年にわたって積み上げてきたのがこの授業だ。

生成AIが急速に発展し、これまで人間にしかできないと思われていた「知的活動」まで模倣しはじめた。こうなってくると、さまざまなバイアスがあり、情報処理力や記憶力に限界がある人間は、生成AIよりも劣った存在なのではないかと不安に思う人もいることだろう。そんななかで著者は、認知心理学は「生成AI時代を幸せに生きる」ために役立つ学問だと説く。それはけっして単なる気休めではない。認知心理学的な知見から考えれば、悪者にされがちな「バイアス」は人間ならではの学習や知識の創造に役立っており、何かを極めることができるのは人間だけだというのだ。

情報過多の現代において、人間ならではの思考を問い直す本書は、「人生の大問題」と向き合うための羅針盤を提供してくれる一冊だ。著者の最終講義は、これからの時代を生きる若者への温かいエールだ。この目線の温かさは、多くの人の人生を明るく照らしてくれることだろう。

ライター画像
池田友美

著者

今井むつみ(いまい むつみ)
慶應義塾大学名誉教授。今井むつみ教育研究所代表。1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。94年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。
慶應義塾大学環境情報学部教授を経て現職。専門は認知科学、言語心理学、発達、心理学。主な著書に『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)、『学力喪失』(岩波新書)など。
共著に『言語の本質』(中公新書)などがある。国際認知科学会(Cognitive Science Society)、日本認知科学会フェロー。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間にはさまざまなバイアスがあり、これは合理的な選択を妨げるものとして悪者にされがちだ。しかし、バイアスがあるからこそ、人間は世界とより良く関わることができ、人間ならではの推論や学習ができるという側面もある。
  • 要点
    2
    バイアスがないAIは、直観に基づく仮説を立てることができないため、新しい知識を創造することができない。
  • 要点
    3
    常に変化し、独自性を持った意思決定ができるようになるのは、真剣で考え抜いた訓練を積み重ねた人間だけだ。

要約

そもそも私たちは「客観的」に世界を見ることができるのか

自分の見ている世界と隣の人が見ている世界は違う
Brillianata/gettyimages

「認知心理学」は、膨大な情報の中で人が何に注目し、どのように処理・理解し、知識を創り、意思決定をしているのかを問う学問だ。

私たちは何となく、「自分が見ている世界」と「隣の人が見ている世界」は同じだと思っているが、そうとは言いきれない。

数年前にSNSを中心に、1枚のドレスが写っている1枚の写真が流行った。それはある人には青と黒のボーダーのドレスに見えるのに、ある人には白と金のボーダーのドレスに見える。青と黒のボーダーに見える人が多いようだが、著者はそれを聞いてもなお白と金のドレスにしか見えない。

なぜこのような個人差があるのかは、実は明らかになっていない。おそらくは認知心理学の範囲である「知覚認知」の問題であるのだろう。

私たちがものを見る際には「かげ」の情報を無意識に使いながら、色を判断している。たとえば同じ黄色でも、光に当たった状態で見るのと、かげに置かれた状態で見るのとでは、見える色は異なる。網膜に実際に映っている色は違うのに、「かげ」の有無をふまえて無意識に「黄色だ」などと色を判断しているのだ。

「かげ」の情報を使っている自覚は見る人にはないため、先ほどのドレスは人によって違う色に見えるのではないかと考えられる。この仮説が今のところ有力ではあるが、まだ決定的とまではいえないようだ。

「見る」という認知過程ひとつとっても、万人に共通するものではない。ときには人によって見え方に違いがあるということだ。

人は「論理的思考」が苦手である

人間は「論理的な思考」が苦手だ。心理学の授業でほぼ必ず紹介されるある有名な実験は、それをよく表している。

イギリスのロンドン大学(当時)の心理学者ペーター・カスカート・ウェイソンが発表した、通称「ウェイソン課題」は、4枚のカードに関する問題を出した。

片面にアルファベットが書かれ、その裏側には数字が書いてあるカードがあり、「片面が母音ならその裏側は偶数でなければならない」という規則があるとする。この規則が守られているかを確かめるために、「E」「K」「4」「7」の4枚のカードのうち、どれを裏返す必要があるだろうか。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3453/4382文字

3,400冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2025.08.06
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
AIのド素人ですが、10年後も仕事とお金に困らない方法を教えて下さい!
AIのド素人ですが、10年後も仕事とお金に困らない方法を教えて下さい!
木内翔大
となりの陰謀論
となりの陰謀論
烏谷昌幸
ちょっと死について考えてみたら怖くなかった
ちょっと死について考えてみたら怖くなかった
村田ますみ
若者が去っていく職場
若者が去っていく職場
上田晶美
もっと学びたい!と大人になって思ったら
もっと学びたい!と大人になって思ったら
伊藤賀一
自分に嫌われない生き方
自分に嫌われない生き方
谷口たかひさ
リサーチ・クエスチョンとは何か?
リサーチ・クエスチョンとは何か?
佐藤郁哉
ジョブ型人事の道しるべ
ジョブ型人事の道しるべ
藤井薫