ササる戦略

未読
ササる戦略
出版社
三才ブックス
出版日
2015年06月05日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

企業活動の中で、最も心を配る領域の一つは、顧客が商品を手に取ってもらうためのマーケティングだろう。企業は顧客ニーズをとらえて新商品を開発し、適切だと想定したチャネルで届ける。しかし、実際には計画通りには売上が伸びてこないという事態に直面し、どうすれば現状を打開できるのかと悪戦苦闘する。

本書では、12の商品・サービスに着目して、ヒットを生み出す視点を掘り下げたインタビューが対談形式で掲載されている。著者の土肥氏の軽やかでライブ感のあるインタビューの方式が新鮮で、読みやすい一冊に仕上がっている。また、扱っているヒット商品も「ダイドーブレンドコーヒー」「熱さまシート」といった身近で親しみを感じやすいものが多い。ヒット商品の展開の裏には、細やかで地道なカイゼン活動がある。本書を読むと、多くのヒットのカギは「戦略」というよりは「戦術」や「展開」という印象を持つのではないだろうか。

本書を通じて一貫して語られているのは、いかに商品・サービスを伸ばしていくのか、という展開方法である。だからこそ、今、商品を抱え、どう売上を伸ばすのかに悩んでいる多くのマーケティング担当やセールス担当、海外展開担当の方に参考になる情報が多いだろう。優れた商品を企画すれば売れるというのは夢物語だ。実際の展開をしている担当の人だからこそ伝えられるノウハウが満載な本書は、マーケティング活動に悩みを抱えるビジネスパーソンに生きた知恵を与えてくれるだろう。

ライター画像
大賀康史

著者

土肥 義則(どい・よしのり)
1969年、大阪で生まれる。龍谷大学法学部卒業。教育出版社、金融専門誌を経て、ビジネス情報サイト「ITmediaビジネスオンライン」の記者。同サイトで連載中の「水曜インタビュー劇場」にて数多くの企業を取材している。ヒットした商品、話題になったサービスはもちろん、これまであまり注目されてこなかった「知らない世界」なども紹介している。

本書の要点

  • 要点
    1
    自動販売機の常識だった、左上のスペースが目立つという常識はアイトラッキングでの計測によって覆された。
  • 要点
    2
    横浜DeNAベイスターズは、20代後半~40代前半の社交性の高い男性をメインターゲットとする方針により、観客数を増加させている。
  • 要点
    3
    「熱さまシート」の海外展開には時間がかかったが、現在は現地のドラッグストアの大規模化やブランドの認知の広がりから、展開のスピードが上がっている。
  • 要点
    4
    タイでの讃岐うどんの展開は、店内にソファを配置し、長時間滞在する店づくりにして、独自のメニューを開発し、パクチーを取り放題にするなど、現地化を積極的に進めている。

要約

【必読ポイント!】ダイドードリンコ株式会社 ダイドーブレンドコーヒー

自販機の一等地は「左上」?

自販機業界では、30年以上も自販機の一等地は「左上」だと信じられていた。自販機の前に立ったお客は、最初に「左上」を見て、アルファベットの「Z」の形を描いて右下まで視線を動かすというのだ。しかし、アイトラッキング(眼球追跡)の技術により、その常識が覆された。

実際に自販機の前に立ったときに、人はどこをみているのだろうか。また、ダイドードリンコはその調査結果を受けてどのようなマーケティングを展開したのだろうか。広報・IR部の正本肇氏とマーケティング部の細井裕美氏に著者は話を聞いた。

アイトラッキングに注目した理由
Lightcome/iStock/Thinkstock

ダイドードリンコの本社は大阪にあるが、実はシェアが高いのは、東北、北関東といったエリアだ。これは東北、北関東のガソリンスタンドに置いていた置き薬の横にコーヒーを置いた、という事業上の背景がある。また、静岡、山梨もシェアが高く、以前の営業本部が静岡にあったという理由による。一方で、東京、名古屋、大阪といった都市部では苦戦を強いられている。

ダイドーの自販機をどうしたら利用してもらいやすいものに変えられるか、という悩みを解決するため、無意識の行動がデータとして得られる「アイトラッキング」を導入し、分析を行った。その結果、予想に反して自販機の商品陳列の「左下」に視線が集まっていることがわかったのだという。今までは常識にならって「左上」に主力商品を置いていたが、この分析を受けて缶コーヒーを「左下」に置くようにしたところ、売上が数十%アップしたのだ。

今ではセルフ式のコンビニコーヒーが急速に普及したため、缶コーヒー各社は苦戦し、対前年度比で2ケタマイナスとなっている会社も多い。しかし、ダイドーは同じ時期でわずかながらもプラスで推移しており、健闘していると言える。

自販機の存在感を強めるために

他にも工夫を重ねていることは多い。自販機という特性上、パッと見たときに、パッと買いたくなるようにしなければいけない。つまり、瞬間で勝負が決まる世界なのだ。

例えば、アイトラッキングの分析結果により、人は飲料の上と下を見る傾向があることがわかったため、自販機の中で露出を上げるPOPはその位置に置いた。

また、缶コーヒー単体のデザインだけを意識するのではなく、商品が並んだときにパッと見たときに特徴が分かりやすくなければならない。ダイドーブレンドでは、ロゴのフラッグを大きくしたり、文字も読みやすく大きく配置するカイゼンを重ねている。さらに一部の文字はパッケージから外し、POPの方に記載する、ということも行っている。流通においては、パッケージも、容器も、ブランドも大切である。そのノウハウを積み重ねながら、訴求力のある商品にして、商品を覚えてもらうことを追及している。

株式会社横浜DeNAベイスターズ 横浜DeNAベイスターズ

過去3年で観客動員数42%増! ファンが増えている理由
IPGGutenberg/iStock/Thinkstock

横浜DeNAベイスターズは、誕生してから2015年に4年目となる。チーム成績は1年目に6位、2年目と3年目は5位と低迷しているが、観客動員数は増え続けている。

主催試合の観客動員数は昨対比110%の156万4528人で、1試合平均は2万1730人にもなった。2011年と比較すると実に42%も増加している。全球団中最下位だった総動員数は、その期間で8位に躍進したのだという。

チームの成績はパッとしないのに、なぜファンはスタジアムに足を運び、「横浜DeNAを応援したくなる」のだろうか。

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要約公開日 2015.06.22
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