合理的なのに愚かな戦略

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合理的なのに愚かな戦略
出版社
日本実業出版社

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出版日
2014年11月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

「顧客志向」や「プライシング」、「ブランド」、「コミュニケーション」、「選択と集中」。優良企業の合理的な戦略はなぜ失敗するのだろうか? 本書は、マーケティング界の第一人者が、豊富な企業事例を用いて、経営戦略上見落とされがちな人間の「認知バイアス」について考察した一冊である。企業の業績や経営方針、事業展開といった事実をベースに、経営陣の過去のメディアでの発言を拾う形で、著者はその経営判断に至った経緯や背景を解説している。

優れているはずの経営者の経営判断の明暗を分けたものは何か。著者が失敗の一因として挙げているのは、「感情」や「しがらみ」といった、ある意味で「人間くさい」、そして「目に見えない」ものだった。これを「認知バイアス」という。もちろん、誰しも「これがベストだ」と信じて決断を下すわけだが、それが経営者の感情やしがらみに左右されていると、自覚しにくい分だけ厄介だ。そこで、経営者は自分の内面を客観的に把握し、感情を味方につけたうえで物事を考え、決断する術を身につけることが必要になる。

また本書には、いくつかの戦略について「事業の改善には役立つが破壊的イノベーションは生まれない」という記述が出てくる。企業が既存の事業を維持、改良しているだけでは伸び悩む時代になってしまった。今までの成功セオリーを続けていくだけでは、「愚かな戦略」になってしまうかもしれない。こうした危機感を持つすべての人に読んでほしい一冊だ。

著者

ルディー和子
ビジネス評論家。立命館大学大学院経営管理研究科教授。セブン&アイ・ホールディングス社外監査役。米化粧品会社エスティローダー社マーケティングマネジャー、タイム・インク タイムライフブックス部門ダイレクトマーケティング本部長を経て、ウィトンアクトン社代表取締役。日本ダイレクトマーケティング学会副会長。
著書に『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』『売り方は類人猿が知っている』(以上、日本経済新聞出版社)、『マーケティングは消費者に勝てるか?』(ダイヤモンド社)ほか多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    大企業の経営者が論理的に考えて下していると思われる意思決定でも、実は感情やしがらみに左右されており、非合理的な部分もある。そのことを認識しなければ、判断を誤ることがある。
  • 要点
    2
    顧客の声を聞きながらモノやサービスを作ることは、既存の事業を改善するには有効だが、「破壊的で革新的なイノベーション」にはつながらない。
  • 要点
    3
    地元密着の中小企業がこれからの地方再生のカギであり、内向きで地元志向の若者が増えていることはチャンスである。

要約

「顧客志向」の落とし穴

顧客の声から破壊的イノベーションは生まれない
Olga Danylenko/iStock/Thinkstock

「顧客第一」、「顧客志向」。企業が業績回復を狙う際の方針として、よく使われる言葉である。一見、至極まっとうで真摯な態度であるが、その経営効果はいかほどであろうか。

ビジネスにおける「顧客第一主義」の重要性を最初に提唱したのは、ピーター・ドラッカーである。彼の著書によると、世界で初めて近代的マーケティングを実行したのは、江戸時代に創業した日本の越後屋であるという。「お客様は神様」という接客精神に象徴されるように、店側は顧客の要望や注文を徹底的に聞き、顧客は店員に甘える。しかし、こうした受動的な態度を取るだけの企業は、変化していく顧客の心理を汲み取ることができない。

一方、「従業員第一主義」を掲げる企業もある。従業員にとっての幸せを追求することで、従業員のパフォーマンスが上がり、顧客や企業に恩恵がもたらされるという考え方だ。企業と顧客の間に立つ従業員がうまく機能すれば、顧客の声を上手く活かして既存の商品やサービスを育てていくことができる。

しかし、これが通用するのは、既存製品の改善・改良という「持続的イノベーション」だけである。「破壊的イノベーション」を生み出すときには、意味を成さないだろう。アップル社のスティーブ・ジョブズがマッキントッシュを発売する際も、顧客の声は聞かなかったという。顧客の声というのは、常に顧客の想像できる範囲内であるため、革新的な製品を生み出すときには必要ないのだ。結局のところ、顧客の声を聞きすぎることで、企業は自らの可能性を狭めてしまっているということになる。企業はもっと、「自分の心の声(直感)」を聞いたほうがよい。

「プライシング」の落とし穴

企業の体力を奪う「値下げ競争」

2001年から10年以上にわたって、牛丼のチェーン店がこぞって値下げ競争を繰り広げた。業界第2位だった「松屋」、第3位の「すき家」が、それぞれ牛丼の値段を100円以上値下げした。その後、業界第1位だった「吉野家」がこの値下げ競争に参戦したことにより、競争は長期化し、牛丼の慢性的な低価格化の一途をたどることになった。

「吉野家」は価格を下げずに牛丼のブランドを守ることもできたのに、なぜこうした決断を下したのか? 当時の「吉野家」はBSE問題のさなか、米国産牛肉にこだわり牛丼の販売を停止していたこともあり、企業体力を大きく削られてしまっていた。安部社長は、過去の倒産という失敗経験に基づいて意思決定をする「パターン認識」と、敬愛した先代の価値観への絶対的信奉によって、経営判断のミスを犯したといえる。業界トップを走っていたにも関わらずフォロワー企業に合わせて値下げをし、一方で肉の品質にはこだわり続けるという矛盾した戦略となってしまった。

「価値」と「価格」のつりあい
Danilin Vasily/iStock/Thinkstock

当時はデフレの影響で、牛丼に限らず各業界において値下げ競争は激しくなり、長期化し、それが常態化していた。

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要約公開日 2015.10.01
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