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大前研一ビジネスジャーナル No.6

「教える」から「考える」へ 世界の教育トレンド/日本人の海外シフトの現状と課題


本書の要点

  • 世界の初等・中等教育の二大トレンドは、アジア型の詰め込み教育と、北欧型の「考える」教育である。日本は、北欧型の教育に舵を切り、義務教育によって「社会性のある人間をつくる」ことと、大学によって「食べていく手段を身につけさせる」ことを目指すべきである。

  • 新興国市場において各国の企業がシェアを奪い合う中、日本企業の進出は遅れをとっている。日本企業をグローバル化させるためには、他国の人材を国内に受け入れ、他国に浸透している人たちとネットワークを築くことが必要になる。

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【必読ポイント!】 世界の教育トレンド

転換を迫られる日本の教育

日本の国家戦略を考えるうえで一番大切な問題は教育である。日本は、クオリティの高い人材を一斉に育てて産業界に提供する「大量生産型」教育を行ってきた。そこでは、他の国や人がすでに導き出した答えをいかに早く覚え、再現するかに重きが置かれている。この「大量生産型」教育に取り組む巨大新興国が増えている今、日本が従来の教育を続けていても、国の競争力を高めることはできないだろう。21世紀は、自分の頭で考え、新たな付加価値をつくりだす人材の数によって、国家の力が決まる時代になっている。この15年ほどの間に、教育の力で優秀な人材を多く輩出している国を見ると、いずれも「答えのない教育」を実践している。日本も、突出した能力を持つ個人の育成を目標にしなければならない。世界で活躍する日本人の共通項は、次の二つである。一つは、文科省のカリキュラムの外で育っていることだ。二つ目は、幼少の頃からチューターやインストラクターといった個人教授からテーラーメイドの教育・訓練を受け、才能を伸ばしていることである。優秀な人材の能力をさらに伸ばすことで、国力を向上させることが求められている。

世界の教育動向

andresrimaging/iStock/Thinkstock

イギリスやアメリカなどの先進国では、「ボーディング・スクール」という全寮制の寄宿学校がエリートを養成する役割を担っている。また、アメリカには世界トップレベルの大学がそろっており、世界中から留学生が集まっている。かつて米国では、留学生の中では日本からの学生が一番多かったが、現在は減少の一途をたどっている。その理由は、多くの日本企業がアメリカへの企業派遣をやめてしまったことと、日本人がTOFLEで留学に必要なスコアを取ることができないことである。TOEFLでは、日本人が苦手な論理思考と英語の組み合わせが問われるのだ。アメリカのトップ大学は、非常に高い留学生比率や外国人教員比率を誇っている。その一方で、国全体としては就学率が下がり続け、大学中退率も54%と非常に高い。高校に行かなかった人と、大学を卒業した人の収入の違いが顕著であり、収入格差が、さらに子どもの教育格差や成績格差につながるという状況を生み出している。

誰もが無償で受けられるオンライン講座

世界のトップ大学は、誰もが無料で受講できるオンライン講座、MOOC(ムーク)を普及させようとしている。中でも、初等・中等教育を行うカーン・アカデミーは、ネットを通じて高水準の教育を誰にでも無償で提供するというコンセプトを持ち、子どもが学習の集中力を持続させるための工夫が凝らされていて、効果を上げている。

アジア型詰め込み教育と、北欧の「考える教育」

shironosov/iStock/Thinkstock

世界の初等・中等教育の二大トレンドは、アジア型の詰め込み教育と、北欧型の「考える」教育である。日本はどっちつかずのまま、中途半端な教育システムになっており、学習到達度調査(PISA)の2009年の結果を見ても、日本の順位は大幅に下がっている。

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要約公開日 2015.09.09
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