コカ・コーラ流 100年企業の問題解決術

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コカ・コーラ流 100年企業の問題解決術
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コカ・コーラ流 100年企業の問題解決術
出版社
早川書房
出版日
2015年09月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

昨今の不安定な市場において、企業が成功を収め続けることはとても難しい。大企業は新興のスタートアップのもつ「アジリティ(敏捷性)」に足元をすくわれてしまうし、スタートアップは立ち上がりに成功しても、大企業のような「スケール(規模)」を手にすることができずに終わってしまうことが多い。

そんな中、創業から100年以上を経てもなお優位性を失っていない企業がある。それは世界200カ国以上に事業を展開し、10億ドル規模の売り上げを誇る商品を約20種類も生み出した、ザ コカ・コーラ カンパニー(以下コカ・コーラ社)だ。本書は、コカ・コーラ社が「デザイン」を有効活用することにより、スケールとアジリティの両方を手に入れるまでの過程を描いた1冊である。

デザインの責任者として同社に招かれた著者は、部下に「ファンタの新しいパッケージを選んでください」と頼まれ、こう答える。「ラベルの問題ではないでしょう。必要なのは新しいシステムです。(中略)幸い、それは私たちの手でデザインできます」。この言葉が指す通り、本書においてデザインとは製品の見た目を考えるだけではなく、製品に関わる要素すべてを効果的に結びつける作業のことである。

本書を読み終えるころには、著者の部下と同じ過ちを犯すことはなくなっているだろう。「デザイン」は「センスのあるだれか」の仕事ではなく、だれもが意識しなくてはいけない課題だとわかる。本書を読んで、あなたも「デザイナー」としての一歩を踏み出してほしい。

著者

デビッド・バトラー
ザ コカ・コーラ カンパニーのイノベーション&アントレプレナーシップ担当バイスプレジデント。デザイン会社勤務を経て、ウェブ関連コンサルティング会社「プロセス1234」を起業。2004年にコカ・コーラ社に入社し、デザイン戦略の責任者を務める。2012年より現職。2009年、ファストカンパニー誌の「マスターズ・オブ・デザイン」に選出され、2014年にはフォーブス誌の「経営幹部ドリームチーム」に選ばれている。

リンダ・ティシュラー
ファストカンパニー誌のシニアエディター。主に企業のデザイン戦略について執筆。ボストン・グローブ紙やハフィントン・ポストにも寄稿している。

本書の要点

  • 要点
    1
    企業の成功に不可欠な「スケール」と「アジリティ」の実現には「デザイン」の力が必要だ。デザインとは、問題解決のために物事を意図的に結びつけることである。
  • 要点
    2
    コカ・コーラ社はデザインを戦略的に用い、スケール拡大に成功した。しかしニーズの多様化により自社ブランドが複雑化したため、アジリティ重視の戦略を取る必要が出てきた。
  • 要点
    3
    スケール戦略には、標準化により大量生産を実現するランボルギーニのようなシステムが、アジリティ戦略には、組み替えることで多くの選択肢を柔軟に提供できるレゴのようなシステムが必要である。

要約

「デザイン」はこう活用せよ! ――「い・ろ・は・す」の成功事例

優れたデザインは、問題を解決する
lekstuntkite/iStock/Thinkstock

コカ・コーラ社のデザイン戦略を辿る前に、デザインのもつ力を示す事例を見てみよう。日本コカ・コーラ社の近年のヒット作といえば、飲料水の「い・ろ・は・す」である。同社では「い・ろ・は・す」の前にも「ミナクア」という飲料水を展開していたが、だんだんと売上が停滞するようになっていた。調査の結果、残念ながら、価格やチャネル、広告、製品自体に至るまですべてに問題があることがわかった。これらを一気に解決するには、デザインの力が必要だと著者は考えた。

デザインと聞くと、製品の見た目や形の美しさのことをイメージしてしまうかもしれない。しかしここでいう「デザイン」は、個人の主観に左右される「アート」とは異なっている。デザインとは、問題解決のために意図的に構成された、様々な要素の結びつきのことだ。優れたアートはときに人々の理解を超えるが、優れたデザインは、だれにとってもわかりやすく、役に立つものでなくてはならない。

「い・ろ・は・す」は何を解決したか

このとき彼らは、デザインによって「リサイクル」の問題を解決することにした。日本国民は環境への意識が高く、リサイクルは生活の一部になっているのに、「ミナクア」のボトルは潰しにくく、また東京の狭い家では、ゴミ収集日まで家に溜めておくにはかさばりすぎてしまう。そこで同社は、軽くて簡単に押し潰せるペットボトルを開発した。小さく潰せるのでゴミ箱をいっぱいにしてしまうこともないし、バリバリと押しつぶす感触も楽しい。また、これにより製造過程の二酸化炭素排出量も抑えられる。

このコンセプトを明確に伝えるため、広告では「おいしく飲み、しぼって、リサイクルする」というメッセージを発信した。「い・ろ・は・す」という商品名も、健康と環境を志向する「LOHAS」からつけられている。デザインにより、目に見えるペットボトルが、目に見えない環境志向のイメージを想起させるというシステムが生み出されたのだ。すべてが有機的に結びついたこの商品は、消費者にリサイクルの楽しさと大切さを伝え、売上と、リサイクル率をともに増大させることに成功した。

環境問題や自然災害のような「厄介な問題」は複雑で、一企業がすっきり解決することはとてもできないが、一方で、決して避けては通れない課題である。優れたデザインは、こうした世界規模の問題を解決する一助ともなる。

「なぜ」をデザインしよう
Orla/iStock/Thinkstock

「い・ろ・は・す」の例は、我々がまず「どこから始めるか」を決めなくてはならないことを教えてくれる。これを裏付けるのが、サイモン・シネックがTEDトークで紹介した「ゴールデンサークル」である。

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要約公開日 2016.02.26
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