本を読む人だけが手にするもの

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本を読む人だけが手にするもの
出版社
日本実業出版社
出版日
2015年10月01日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「本を読む意味は何か」。この質問に自分なりの言葉で答えられる人はどれだけいるだろうか。ただ効率よく情報収集するための読書術に偏った本とは違って、読書の本質をあぶり出し、本との向き合い方を考えさせてくれるのが本書である。

著者は、リクルートでの経験を活かして、東京都の中学校で初の民間校長を務めた藤原和博氏である。「よのなか科」という、現実社会を教室で学ぶ斬新な授業を生み出し、数々のベストセラーを執筆してきた。彼は「今後は本を読む習慣がある人とそうでない人に二分される階層社会になる」と述べている。

本書には、読書がもたらすメリットや、読書が著者の人生にどのように役立ったのかという経験談が詳しく書かれている。具体的には、次のような興味深い見出しが並んでいる。「『他人の脳のかけら』を自分の脳につなげる」「人生を変える本との出合い方」「読書で人生の鳥瞰図を獲得する」などだ。

また、成熟社会においてますます重要性が高まる「情報編集力」を、読書によってどう磨き上げていけばいいのかが、具体的に述べられているのも本書の読みどころである。さらには、著者の本の選び方、校長時代の図書室再生秘話などから、読書好きな子どもを育てるための教育的観点を通して多くの示唆も得られるだろう。自分の読書体験を振り返り、より豊かな人生を送るための読書論の入門書にうってつけの1冊として、本書をお勧めしたい。

ライター画像
松尾美里

著者

藤原 和博(ふじはら・かずひろ)
教育改革実践家。元杉並区立和田中学校校長。元リクルート社フェロー。
1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任。メディアファクトリーの創業も手がける。1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08年~11年、橋下大阪府知事の特別顧問。14年~佐賀県武雄市特別顧問、15年~奈良市教育政策アドバイザーに。
『人生の教科書{{よのなかのルール』『人生の教科書〔人間関係〕』など人生の教科書シリーズ、『中くらいの幸せはお金で買える』(いずれも筑摩書房)、『35歳の教科書』(幻冬舎)、『坂の上の坂』(ポプラ社)、『つなげる力』(文藝春秋)、『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』(東洋経済新報社)、『たった一度の人生を変える勉強をしよう』(朝日新聞出版)など、著書は累計124万部を超える。『日経ビジネス』で8年間にわたって書評を執筆。講演会が1000回、動員数20万人を超える人気講師としても活躍中。

本書の要点

  • 要点
    1
    不得意な分野や興味を持たなかった分野の本を乱読することが重要だ。意図的に脳内に異質な回路がつくられ、脳の受容体が活性化されて、思いがけない発見が生まれやすくなるからである。
  • 要点
    2
    成熟社会では、身につけた知識や技術を組み合わせて、納得のいく解をつくり出す「情報編集力」がますます必要になる。この力は、コミュニケーションする力・ロジックする力・シミュレーションする力・ロールプレイングする力・プレゼンテーションする力と、物事を多面的に見る「複眼思考」に分解することができる。

要約

本を読んで得られる真のメリットとは

読書習慣の有無が階層を決める?

これからの日本では、身分や権力による「階級社会」ではなく、「本を読む習慣のある人」と「そうでない人」に二分される「階層社会」が訪れると著者は予測している。文化庁の「読書」に関する調査結果によると、1カ月に1冊も本を読まないという人が47.5%に達している。著者は、パチンコやケータイゲームにはまらず読書をするだけで「8人に1人、つまり上位10%の希少な人材」になれると述べている。

読書によって身につく、人生で大切な2つの力

読書によって身につく大事な力は「集中力」と「バランス感覚」である。

成功者はもれなく高い集中力を誇っている。集中力を鍛えるには、時が経つのを忘れ、人の話が耳に入らないほど、本の世界に入りこむ経験が非常に有効である。

また「バランス感覚」とは、自分と地球、自分と他者など、世の中と自分との適切な距離感を保つ能力を指す。周囲の物事との関係性がつかめないと、対人関係にも負の影響を及ぼしかねない。少し仲良くなるとベタベタした関係に陥る一方で、何か問題が起こると絶縁状態になるなど、極端に白黒をつける関係しかつくれなくなるのだ。バランス感覚は、子どもの頃は体を使った遊びの中で身につけられる。一方、大人になってからは読書によって獲得するのが近道だ。他人の体験や知識を取り込んで、自身の内なる世界観を広げることを著者は提唱する。

読書で「他人の脳のかけら」を自分の脳につなげる

「ジグソーパズル型思考」から「レゴ型思考」へ
©iStock.com/LewisTsePuiLung

20世紀の日本では、パズルのようにピースの置き場所が決まっており、唯一の正解を早く正確に導き出す「ジグソーパズル型思考」が求められていた。これにより日本は大きく経済成長を遂げることができた。しかし、ジグソーパズル型の人には、最初に設定された「正解」の画面しかつくれず、途中で柔軟に変更することができないという問題点がある。

今後の成熟社会では、つくり手の想像力次第で、組み上げ方を無限に広げ、自らビジョンを打ち出し、納得する解をつくり出せるレゴブロック型の人材が必要となる。この「レゴ型思考」を身につけるには、読書を通じて、様々な著者の「脳のかけら(アプリのようなもの)」を自分の脳につなげていかなければならない。一人の人生で経験できることには限りがある。無数のフックをつくっておくことで、多種多様な脳のかけらを引っかけることができる。このフックのことを生物学の言葉で「受容体」と呼ぶ。

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要約公開日 2016.03.03
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