あれか、これか

「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門
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「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門
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ジャンル
出版社
ダイヤモンド社

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出版日
2016年04月21日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「ギザのピラミッドかヴェルサイユ宮殿、もしくは現金10億円、このどれかを差し上げます。選んでください」――そう言われたら、あなたはどれを選ぶだろうか? 建築にかかったコストという観点から見れば、ピラミッドの価値が1番高そうだ。一方、施設としての利用価値がより見込めそうなのはヴェルサイユ宮殿のほうだろう。もちろん、現金10億円は言うまでもなく魅力的で、1番使いやすそうに見える。

どれを選ぶべきなのか判断に迷うところではあるが、著者によれば、少なくとも1つ選ぶべきでない選択肢が混じっているという。それが現金10億円である。ファイナンスにおいて、現金の価値は最も低いと著者は断言する。しかしそれは「キャッシュ(お金)を価値判断の尺度にしない」からではない。キャッシュフローを生まないからこそ、現金の価値は低いと考えるのである。

人生は選択の連続であり、あらゆる局面で私たちは決断を迫られる。しかも、その機会と重みは年を追うごとにどんどん増していくから厄介だ。だが、お金についてであれば、ファイナンス理論が正しい意思決定のための尺度を提供してくれる、それが著者の主張である。

企業価値評価のスペシャリストであり、10年以上ファイナンス講座の教鞭をとってきた著者の語り口はわかりやすく、それでいておもしろい。ファイナンスがまったくわからない人にも自信を持ってお薦めできる一冊である。

著者

野口 真人(のぐち まひと)
プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト
1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。
2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。2014年・2015年上期M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。
これまでの評価実績件数は2500件にものぼる。カネボウ事件の鑑定人、ソフトバンクとイー・アクセスの統合、カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO、トヨタ自動車の優先株式の公正価値評価など、市場の注目を集めた案件も多数。
また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。
著書に『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    ファイナンス思考の第一原則は、価格と価値を分けて考え、価値の見極めに軸足を移すことである。
  • 要点
    2
    モノの価値を、それを生み出すコストの積み上げだけで決めることはできない。
  • 要点
    3
    すでに存在しているモノの市場価格を参考に価値を見出そうとするのは危険である。現在の相場が本当に妥当なものなのか疑わしいし、そもそも前例がない場合に対応できない。
  • 要点
    4
    ファイナンスは、モノの価値をキャッシュ(現金)ではなくキャッシュフロー(お金の流れ)によって定める。そのため、将来生み出すキャッシュフローの総額が多いものほど高い価値がある。

要約

モノの価値はどこにあるのか

価格に惑わされず、そのモノの価値を見極めよ
batuhanozdel/iStock/Thinkstock

一般的に、人々は買い物や取引をする際、価格を見比べて損得を判断しがちである。「こちらのほうが価格が安いからお得だ」とか「あっちのほうが値段が高いから、価値も高いに違いない」というように、価格同士の比較が価値判断の基準となっている。だが、価格だけを見比べても正しい判断はできない。正しく意思決定をするためには、そのモノの持つ本当の価値を明らかにしなければならない。これがファイナンスの考え方である。

1つ例を挙げよう。2008年のリーマンショック直後、世界中のほぼすべての株価が下落してしまった。この急落に恐れをなした投資家たちは、次々と手元の株式を売り払った。そんな中、世界一の投資家ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイ社は、ゴールマン・サックス・グループが発行した優先株式と新株予約権を、無謀にも一手に引き受けた。その後、ゴールドマン・サックスの株価は回復し、バフェットは優先株の投資では16.4億ドル、新株予約権では13億ドルという巨額の利益を手にした。バフェットにとって、リーマンショック直後のゴールドマン・サックスの株価は本来の価値よりも低いものに映っていた。だからこそ、世界中でパニック売りが行われる中で、1人だけ「買い」という選択をしたのだ。

価格という目に見えるものにどうしても人はとらわれがちになるが、正しい意思決定は「価格と価格」を比較する視点ではなく、「価格と価値」の両方を見渡す視点からしか生まれない。このように、ファイナンス思考の第一原則は、価格と価値を分けて考え、価値の見極め(価値評価)に軸足を移すことなのである。

原価からではモノの価値はわからない

価値の考え方は、大きく分けて3つある。コスト・アプローチ(原価法)、マーケット・アプローチ(取引事例比較法)、そしてファイナンスだ。

コスト・アプローチとは、それにかかった費用の総和で値段を決めるという思考法である。たとえば銀座にあるカフェのコーヒーの値段が高い理由について、コスト・アプローチは銀座の地価の高さをその要因として挙げる。「地価が高いため家賃も高くなり、カフェの運営コストも高くなる。だから必然的にコーヒー1杯の値段も高くなる」というわけだ。

しかし現実問題として、世の中にあるものの大半の値段は、コストだけで決まっているわけではない。

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要約公開日 2016.06.27
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