夫婦という病

夫を愛せない妻たち
未読
夫婦という病
夫婦という病
夫を愛せない妻たち
未読
夫婦という病
出版社
河出書房新社
出版日
2016年01月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

夫婦とは、血のつながりのない他人同士でありながら、最も近い関係である。日々の生活をともにする中で、いいことも悪いことも共有し、血縁の家族と同様またはそれ以上に互いの心の深部まで入り込んでいく。結婚前に互いのことを充分に理解し、結婚後もずっと愛し合うことができるなら、誰も悩みはしないだろうが、現実はそううまくはいかない。結婚前に相手の長所だと思っていた部分も、何かのきっかけで許しがたい短所に見えることも珍しくないだろう。

本書は、夫婦関係におけるさまざまな悩み、すれ違い、関係性の変化などを21のケーススタディとして描き、その事象の裏にある心理を、精神科医の立場から丁寧に分析した一冊である。ケーススタディで描かれている夫婦像には多くのバリエーションがあるが、誰にでもどこかあてはまる部分や、共感を覚える部分があるのではないだろうか。

夫婦の関係性を紐解くうえでのキーワードとして、「愛着スタイル」や「自己愛」などが挙げられる。つまり、幼少期の家庭環境や親との関係性が、夫婦の問題に色濃く影響を及ぼしているのだ。見方を変えると、夫婦という関係性を通して、人間の心、生き方、コミュニケーションの本質が浮き彫りになっていくともいえるだろう。

幼いころからの親子関係が、今の自分の愛情のあり方を左右していることを知れば、それは子育てにも活きてくる。結婚している人、結婚を考えている人のみならず、自分を見つめたいと思うすべての人に大事な問いを投げかける一冊だ。

著者

岡田 尊司(おかだ たかし)
1960年、香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医学教室にて研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などに勤務。山形大学客員教授を経て、現在、岡田クリニック院長(大阪府枚方市)、大阪心理教育センター顧問。パーソナリティ障害、発達障害治療の最前線に立ち、臨床医として現代人の心の問題に向き合い続けている。著書に『悲しみの子どもたち』(集英社新書)、『アスペルガー症候群』(幻冬舎新書)、『愛着障害』(光文社新書)、『マインド・コントロール』(文藝春秋)、『母という病』(ポプラ新書)、『人間アレルギー』(新潮社)他多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    夫婦間の悩みの解決策を考える際、お互いの育ってきた環境や親とのかかわりによって形成された「愛着スタイル」や「自己愛」の理解が重要となる。
  • 要点
    2
    愛着スタイルは、「安定型」と「不安定型」に大別され、後者は「不安型」と「回避型」に分類できる。
  • 要点
    3
    特定のパートナーに縛られたくないと考える夫婦の場合、母子を中心とした母系家族を築き、夫婦関係が流動的であっても子どもへの影響を最小限にするというかかわり方も、ストレスの少ない家族の新しい形となる。

要約

【必読ポイント!】 すれ違う妻と夫

パートナーとの関係をどう考えるか

心の不調や、子どもとの関係に悩んでいる人の中にも、悩みを掘り下げていくと、夫婦関係の問題が根本にあるという場合が多い。離婚率が上昇している現代、パートナーとの関係に何かしら悩みを持っている人は非常に多いといえる。夫婦のすれ違いを解消するためのカギは、「愛着スタイル」や「自己愛」「怒りのタイプ」など、人それぞれの特性にある。自分と相手がどんなタイプなのかという視点で、相手との関係性を見つめ直せば、解決の糸口が見えてくるだろう。

不安定な愛着スタイル、「回避型」と「不安型」
Pilin_Petunyia/iStock/Thinkstock

人と人とが結びつきを持つときには、オキシトシンというホルモンが働いていることがわかっている。オキシトシンには、親密さを深めたり、相手の気持ちへの共感を高めたり、不安やストレスを軽減したりする働きがある。人間だけでなくほかの哺乳類にも備わっており、「愛着」を形成する生物学的なしくみだといえる。

幼い時から安定的に愛情を受けて世話をされていた場合には、愛着のしくみは安定する。逆に、幼い時に受けた愛情や世話が不十分であったり、傷つけられた経験が度重なったりすると、愛着のスタイルが不安定になる。そして、前者を愛着スタイルの「安定型」、後者を「不安定型」と大別できる。愛着スタイルが「不安定型」のまま大人になると、パートナーとの関係や子育てにおいて、思いやりがもてない、厳しすぎる、不安やストレスを抱えるなどの困難を抱えやすい。

また、「不安定型」の中にも2タイプあり、人と親密な愛情を築くのが苦手な「回避型」と、逆に過剰な結びつきを求めるが裏切られたり見捨てられたりすることに強い不安を抱く「不安型」に分けられる。とりわけ「不安型」は、幼少期において、気まぐれにかわいがられたり突き放されたりと、むらのある愛情の注がれ方をしている場合が多い。

「回避型」と「不安型」の反応はあらゆる面で正反対なので、それぞれのタイプの人が夫婦になり、何かのきっかけですれ違いが生まれると、溝がどんどん深くなってしまう。たとえば、子育てのことで悩んでいる「不安型」の妻が、自分の気持ちに共感を寄せてほしい一心で夫に悩みを相談したとする。すると、「回避型」である夫は、人と情緒的なつながりをもつことが苦手であるため、妻の話を受け流してしまう。それどころか、「回避型」は自分の苦しさについては表に出さないために、ストレスをため込みがちだ。このように、愛着スタイルのズレが、互いに不満を募らせる原因となってしまう。そうならないためには、互いの愛着スタイルの違いに対する理解が不可欠なのである。

未熟な「自己愛」がもたらすもの
LittleBee80/iStock/Thinkstock

愛着スタイルのほかにも、夫婦関係のほころびを繕うカギとして「自己愛」というキーワードがある。「自己愛」とは、成熟を遂げることで自信を育み、他者を敬う気持ちや志を実現する力の源泉にもなる、自分を大切にするために必要な能力だと考えられている。

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要約公開日 2016.08.01
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