君主論

未読
君主論
出版社
出版日
2004年12月10日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.0
革新性
4.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

近代政治学の古典として名高い『君主論』だが、「残虐非道をよしとする非情の書」と見なされることもけっして少なくない。しかし、時代背景を鑑みながら本書に向きあえば、なぜこのような内容の書物が執筆されたのかが見えてくるだろう。

著者のニッコロ・マキアヴェッリは、イタリア・ルネサンスの末期にフィレンツェで生まれた。外国勢力の侵攻により、イタリア内の勢力均衡による平和が崩れ去っていくなか、書記官であったマキアヴェッリは、軍事や外交に日々奔走していた。本書が一貫して性悪説の立場にあり、現実主義を貫いているのも、そうした激動の時代を反映したものだといえる。当時のフィレンツェは弱小国家であり、油断をすればすぐにも崩壊しかねない状態だった。そんな状況のなかで、強いリーダーシップが求められたのは言うまでもないだろう。

「君主かくあるべし」という議論は洋の東西で行われているが、本書で描かれているのは、ダイナミックに動き、成長し、崩壊するものとしての「権力」だ。逆に、法制度などによって支えられた、安定した「権力」に関する議論はほとんど行われていない。ここに、マキアヴェッリのもつ政治感覚が如実にあらわれている。

本書は極めてスリリングであり、読むだけでも大変面白い。古典だからといって、読まずにいるのはもったいない。教養書としても、実用書としても、本書の持つ価値はいまだ薄れていないのだから。

著者

佐々木 毅(ささき たけし)
1942年秋田県生まれ。東大法学部政治学科卒業。東大法学部教授、東京大学学長、学習院大学教授を経て、現在、東大名誉教授。専攻は政治学史、政治思想。主な著書に『マキアヴェッリの政治思想』『プラトンの政治』『プラトンの呪縛』『現代アメリカの保守主義』『政治学講義』などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    新たに獲得した地域を治める最も安全な方法は、その地域にある制度や法をすべて破壊することである。
  • 要点
    2
    残酷な行いは一気に断行し、その後は民衆の利益になるような行動をとるべきである。
  • 要点
    3
    傭兵と援軍は無益であるばかりか、危険である。君主は自らの軍隊を持つ必要がある。
  • 要点
    4
    君主はケチであるべきである。気前が良いという評判を得るために、資産を使い果たしてはならない。
  • 要点
    5
    人々から好かれなくても問題はないが、憎悪されたり軽蔑されたりすることは全力で避けるべきである。

要約

征服したあと、どうするか

破壊からはじめよ
Darrin Klimek/DigitalVision/Thinkstock

君主がある地域を征服した際に、心がけるべき点を述べていく。獲得した地域の人々が、自由な制度の下での生活に慣れ親しんでおり、すでにある法にしたがって統治されている場合、その地域を治めるには、(1)それらをすべて破壊する、(2)支配者自らがその地に赴いて居住する、(3)その地域の法に従った統治を認めつつ税を徴収する、という3つの方法がある。このうち、最も簡単なのは3番目の方法であるが、安全な方法という意味では、1番目の破壊を推奨したい。というのも、自由な制度に慣れ親しんだ都市は、破壊しないかぎり、新しい君主を破滅させてしまうからである。

都市の人々は、自由という名目や昔の制度を口実にして、常に反乱を企てているものである。これは、どんな政策をとろうとも、どんなに恩恵を施したとしても同じである。その都市の住民を分割して散り散りにさせないかぎり、なにか変事があればただちに以前の統治様式に戻そうという動きが出てくるのだ。

フィレンツェに従属して100年も経っていたにもかかわらず、ピサが反逆したのはその好例であろう。共和国は生命力に満ちあふれており、君主に対する憎悪の念も強く、復讐欲も強い。彼らは昔の自由の記憶を決して捨てない。したがって、最も安全な方法は共和国を破壊することである。それがむずかしければ、君主がそこに直接住み、指揮をとらなければならない。

【必読ポイント!】君主の心得

実力で君主になった場合

自らの実力によって君主になった者にとって、権力を維持することは比較的容易だが、権力を獲得する段階での苦労は大きい。というのも、自らの力で権力を築きあげるためには、新しい制度や政治様式を導入しなければならないが、自ら先頭に立って、新しい制度を導入しようとするほどむずかしいことはないからである。

新しい制度を導入しようとすると、旧制度で利益を得ていた人々はかならず敵にまわる。おまけに、新制度で利益を得ることになると思われる人々は、味方としては頼りない。彼らが旧来の権力を握っている人々を恐れているからだ。

武装した指導者が成功し、武器なき指導者が破滅するのはそういった理由からである。人間は生来、移り変わるものである。だからこそ、力によって人々の心を繋ぎとめておくようにしなければならない。

幸運で君主になった場合
_ba_/iStock/Thinkstock

幸運に恵まれて君主になった者は、君主になるのに苦労しなかった反面、権力を維持するうえで大変な困難に遭遇することになる。これは財力によって君主の地位についた人々も同様である。

しかし、幸運によって君主になった者でも、素晴らしい君主になれる場合もある。その代表例がチェーザレ・ボルジアだ。ボルジアは父の幸運に恵まれたことで支配権を獲得し、父の不運とともにそれを失った。しかしボルジアはその後、自分にできるありとあらゆる方策をとった。すなわち、敵によっておびやかされないこと、味方を獲得すること、力や詐術を駆使して勝利すること、民衆に愛されるとともに恐れられること、兵士に慕われるとともに畏敬されること、自らを攻撃しうる者を絶滅させること、新しい制度によって旧制度を改めること、峻厳であるとともに親切であること、度量が大きいこと、忠実でない軍隊を解体し新しい軍隊を組織すること、他の王や君主との友好関係を築くこと、これらを徹底したのである。

残酷な手段で君主になった場合

同胞市民を殺害したり、友人を裏切ったりするといった手段で手に入れた権力は、長続きしないものだ。とはいえ、残酷な手段で権力を得たにもかかわらず、長い間安全な生活を送ることができている人々もいる。彼らは残酷さの使い方が「上手い」のである。

彼らが残酷さを発揮するのは、自らの地位を確立しようとする時だけだ。そしてその後は、民衆の利益になるような行動を心がけている。一方、最初は残酷な行為をあまりしなかったのに、時とともにその数を増やすような君主は、すぐに滅亡することになるだろう。

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要約公開日 2016.11.17
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