銀座のすし

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銀座のすし
出版社
文藝春秋
出版日
2013年06月07日
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おすすめポイント

「銀座のすし」とはどのような世界だろうか。読者の中には度々行かれている方もいるかもしれないが、多くの方にとって「敷居の高さ」と「いくらかかるかわからない」という威圧感すら感じさせる言葉だろう。

本書は著者が客としてではなく取材という名目だからこそ聞くことが可能であった、各店の歴史や逸話が語られた食文化の教養書といえる作品だ。本書を読めば、銀座の名店として紹介されている23店を制覇したいという、小さな野望を抱く向きも多いことだろう。また、本書で語られる歴史の数々は、日本の食文化に更なる誇りを持つきっかけにもなろう。

「銀座のすし」というタイトルが気になるのであれば、その期待は裏切られない書であり、一読することをお勧めしたい。日本の文化の真骨頂である、限られたスペースに宇宙をも生み出す力は、東山文化の枯山水に留まらず、「銀座のすし」にも存在している。変えるべきところ、変えないところの絶妙なバランスは、職人のこだわりだけでなく、銀座という土地あるいは客層が持つ「粋」と「品」により適切に保たれている。その緊張感もまた、「銀座のすし」という独特の世界観を醸成するのであろう。

ライター画像
大賀康史

著者

山田 五郎
1958年、東京都生まれ。上智大学文学部在学中にオーストリア・ザルツブルク大学に遊学し、西洋美術史を学ぶ。卒業後、講談社に入社。『Hot-Dog PRESS』編集長、総合編纂局担当部長等を経てフリーランスに。時計、ファッション、西洋美術、街づくりなど、幅広い分野で講演、執筆活動を続けている。『百万人のお尻学』『20世紀少年白書』『山田五郎のマニア解体新書』『知識ゼロからの西洋絵画入門』『知識ゼロからの西洋絵画史入門』『純情の男飯』など著書多数。『出没!アド街ック天国』『ぶらぶら美術・博物館』などテレビ、ラジオでも活躍中。

本書の要点

  • 要点
    1
    「銀座のクラブ」と「銀座のすし」には、「一流」や「高級」というだけでなく、「いくらかかるかわからない」という凄みすら伴う。これはクラブ同様、すしにおいて銀座が世界の「本場」であることの証左である。
  • 要点
    2
    銀座のすしには、二葉鮨を起源とする「二葉会」の系統と、今はなき銀座の老舗美寿志(みすじ)の系統が大きな派閥として存在している。
  • 要点
    3
    「美寿志」起源の久兵衛、与志乃起源の「すきやばし次郎」など、伝統を重んじながらも「銀座のすし」に変革を起こす店もある。だからこそ「銀座のすし」は色あせないのだ。

要約

はじめに

本書の概要

本書はグルメ本としての構成ではない。銀座の名店の歴史を紐解く教養書としての位置づけと言えるだろう。

本書は著者、山田五郎氏が2年の月日をかけて、取材として訪問した際の内容をまとめた大作とも言える。銀座のすしの名店23店が紹介されており、味の優劣ではなく、その店がどのような背景で形作られ、なぜ今の味付けとしているのか等を中心にまとめられているものである。

どれも歴史や趣がある名店揃いであり、省略して良い店などあるはずもない。誌面の都合上、私個人として印象に残った6店舗のエピソードに関して、その紹介を中心にハイライトを作成した。

銀座のすしの源流

銀座のすしとは
View Stock/View Stock/Thinkstock

江戸前の握りずしは不思議である。すしは今も昔も客前で鮮魚の切り身を酢飯に載せてふるまうものである。庶民のファーストフードであったはずの食べ物が、フレンチより高かったり、ミシュランガイドで三つ星を獲得したりするのだ。

なぜすしだけが、ファーストフードで特別な扱いを受けるのだろうか。その謎は銀座という街が解き明かしてくれる。「銀座の○○」と聞くと、多くの人は身構えるだろう。中でも「銀座のクラブ」と「銀座のすし」には、「一流」や「高級」というだけでなく、「いくらかかるかわからない」という凄みすら伴う。これはクラブ同様、すしにおいて銀座が世界の「本場」であることの証左である。

すし自体、元々は江戸時代に本所・両国あたりで生まれたものである。しかし冷蔵技術の発達やすし自体の進化を経て、今なお隆盛を極めているのである。

二葉鮨
DAJ/amana images/Thinkstock

「銀座のすし」の歴史において、その源流として名高い店が「二葉鮨」だ。創業は、銀座煉瓦街が完成した明治十年。江戸前「三大始祖」と言われる、両国與兵衛、千住・みやこと並ぶ中、銀座で創業した唯一の老舗である。つまり、銀座のすしは、二葉鮨ではじまったと言ってもよいだろう。

木造二階屋は、創業時のままかと見まごう貫禄だが、実は戦災後の昭和二十六年築。内装には、風の強い崖で曲り育った大木を利用した曲線のカウンター、柱の丸時計が印象的で、客が終電に乗り遅れないように10分進めたままであることも粋である。

建物だけでなく、元祖「銀座のすし」の技法と味も、本来の江戸前の握りを保ち続けている。酢飯の味は、戦後一般的となった砂糖は使わない。赤酢と塩だけで味付けし、初めはしょっぱく感じる向きもあるかもしれないが、二貫、三貫と食べ進むうちにネタとの相性が良く、いい塩梅に思えるだろう。

二葉鮨のネタで特筆すべきは小鰭(こはだ)であろう。冷蔵技術が発達した現代では、煮たり酢で締めたりする「江戸前の仕事」は減っているが、「二葉鮨」は小鰭を酢と塩で締めた後に、冷蔵庫で一週間寝かしているという。噛めば熟した旨味がしみ出し、そこには生臭さは微塵もない。

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要約公開日 2014.01.21
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