観光立国の正体

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観光立国の正体
出版社
出版日
2016年11月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

観光はサービス業である。ゆえに、観光を地域の基幹産業に据えるのであれば、観光客に「また来たい」と思わせるサービスを提供してリピーターを獲得していかなくてはならない。それを怠れば客から旅先に選ばれなくなり、やがて観光地として寂れていく。そして、地域全体の活力までもが失われていくことにもつながる。

日本の観光地は、かつては団体客を効率よく回していくことで収益を上げていた。しかし、団体客が減って個人客の割合が高くなった途端に、客をリピーターに変える魅力や価値が十分に備わっていないことを露呈し、多くの観光地は集客に悩むようになっていった。

著者の一人である山田桂一郎氏は、山岳ガイドやスキー教師としてスイスの観光産業に携わってきた人物だ。日本各地を回り、スイスで培った経験や知識をもとに観光地の再生、ひいては地域の再生のためのアドバイスをしている。そのポイントは「住民主体の地域経営」と「地域全体の価値向上」である。本書ではこれらの点を踏まえて立て直しに取り組み、成果を上げた地域が紹介されている。

観光産業だけが潤うのでは意味がない。農林漁業や商工業などの他の産業、そして一般住民までもが豊かさを実感できるようになることが重要なのだと山田氏は強調する。その地域が真の意味で豊かであれば、訪れたものに幸せを実感させ、良き思い出となる。まさに観光地を「感幸地」にするためのヒントが詰まった一冊だ。

ライター画像
山崎裕介

著者

藻谷 浩介(もたに こうすけ)
1964(昭和39)年山口県生まれ。日本総合研究所主席研究員。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』『しなやかな日本列島のつくりかた』『和の国富論』など。

山田 桂一郎(やまだ けいいちろう)
1965(昭和40)年三重県生まれ。「観光カリスマ」。JTIC.SWISS代表。観光立国スイスでの知見を元に、日本各地で地域振興や観光地再生の事業を手がけている。

本書の要点

  • 要点
    1
    スイスのツェルマットは、小さい村ながらも多くのリピーター数を誇る世界有数の山岳リゾートである。住民主体の「ブルガーゲマインデ」という組織が村役場と連携し、地域経営を支えている。
  • 要点
    2
    北海道弟子屈町はブルガーゲマインデの理念のもとに地域経営組織を立ち上げ、再生を果たした。
  • 要点
    3
    地域全体に大きな経済効果をもたらすには、富裕層を取り込むという視点が必要不可欠である。そのためには、その地域ならではの付加価値を持つサービスや商品を用意しなければならない。

要約

スイスの観光立国

リピーターと「異日常」
anshar73/iStock/Thinkstock

スイスのツェルマットは人口約5700人の小さな村であるが、年間約200万泊もの観光客が訪れる。その7割以上がリピーターで、帰り際に翌年の宿の予約をしていく客もいるほどだ。まさに世界でもトップレベルの山岳リゾートといえる。

なぜツェルマットのような小さな村が多くのリピーターを獲得するに至ったのか。たしかに当地はスキーやトレッキングのコースが豊富で、雄大なアルプスの絶景を堪能できる。しかし、それらの観光資源だけでは毎年リピートする理由にはならない。一度体験すれば十分と感じる人も多いだろう。

真の理由は、ツェルマットに住む人々が地域に対して愛着と誇りを持ち、長い年月をかけて住みよい環境を整えてきたことにある。例えば、ツェルマットでは燃焼燃料機関を使った自動車の乗り入れ規制が行われている。これは、自然と共生した伝統的な生活を、次世代により良い環境で伝えたいという思いから実施している。このように住民の生活満足度を満たしていくことが、住民の表情や態度に本質的な豊かさをもたらしている。そして、訪問者はこんな場所に住んでみたいと感じ、リピーターとなっていく。

つまり、ツェルマットが多くのリピーターを獲得しているのは、アルプスの絶景からなる「非日常」の世界だけではなく、魅力的なライフスタイルを持つ「異日常」の空間があるからなのである。

国として生き残るために

スイスという国は、国土の約7割が山岳地帯で天然資源もない。かつては周囲を「列強」の国々に囲まれ、豪雪や土砂崩れなどの自然災害にも悩まされてきた。自分たちの力で食べていくためにはどうすればよいのか、生き残るための手段を模索する必要があった。

19世紀半ば、イギリスの富裕層の間で登山ブームが起こって貴族たちがアルプスを訪れるようになると、スイスは観光産業が生き残る術であることを見いだした。きれいな水や空気、新鮮なミルクやチーズ、生ハムなど、アルプスのライフスタイルからなるもてなしの数々は、当時公害とスモッグに悩まされていたイギリス人たちを大いに喜ばせた。評判はすぐに広まり、山岳リゾートとしてのスイスの存在は世界中に知られるようになった。

ここで忘れてはならないのが、これからどうやって生き残っていくのかという「サバイバル意識」があったからこそ、スイスの観光産業は成立したということである。放牧しか手段がなかったヨーロッパの辺境国は、自然と調和した自分たちのライフスタイルの価値を再発見しサービスの質を高めたことで、多くの訪問者を惹きつけるようになったのだ。

地域経営の視点

日本の観光地が生き残るには
igaguri_1/iStock/Thinkstock

日本は観光立国を自負しているものの、多くの観光地が問題を抱えている。マーケティングをすることもなくバブル崩壊後の景気低迷のせいにして、選ばれなくなった原因を見抜くことができていない事業者も多い。

日本の観光地は、団体の一見(いちげん)客を効率よく回していくことばかり考え、満足度やリピーターの獲得を怠ってきた。そして、目先の利益ばかりにとらわれて、魅力ある地域づくりに取り組んでこなかった。

団体旅行が主流だった時代はそれでも問題なかったのかもしれない。しかし、個人旅行の割合が約9割を占め、インターネットなどによって情報収集が容易になり選択肢が多様化した現代においては致命的である。

観光産業は流行れば流行るほど人手を要し、新たな雇用を生みだす。日本政府の景気対策に効果が見られず地域経済が先細りしていくなか、観光産業を強くして生き残りを図ろうとするのであれば、スイスで取り組まれてきた地域経営の手法を大いに参考にすべきであろう。

そのためには地域が持つ「本当の魅力・本当の宝」を洗いだし、観光事業者にかぎらず農林漁業や商工業、そして一般住民にいたるまで、地域内のあらゆる層を取り込んだ連携が不可欠となる。

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要約公開日 2017.06.16
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