なぜ、残業はなくならないのか

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なぜ、残業はなくならないのか
出版社
出版日
2017年04月10日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「長時間労働の是正」は、多くの国民が注目しているトピックである。安倍内閣が「働き方改革」に取り組んでいるさなか、痛ましい「電通過労自死事件」が起こり、世論も大きく動いている。電通においては夜10時以降の残業は禁止になり、政府でも労働時間規制を強化することが検討されているが、本当にそれで、企業にはびこる長時間労働は是正されるのだろうか。サービス残業が誘発されるだけではないのか。そもそも日本社会にこれほどまでに残業が根づいているのはなぜなのか。

本書で著者が述べているように、残業に関する議論は「意識を変えるべきだ」などの感情論に流れがちだ。残業の理由としても、わかりやすさから、上司との関係が取り沙汰されることが多い。また、「日本人は働き過ぎだ」「生産性が低い」という、いつのまにかすりこまれたステレオタイプ的な物の見方も根強くある。著者は、データを読みときつつ、根拠の薄弱なそうした議論を一掃し、「残業の合理性」や、「日本社会が残業ありきで設計されていること」を指摘する。その上で、職場で人が死ぬような社会には断固としてNOをつきつけ、このような現状にどう立ち向かえるのか、政府によってリードされている「働き方改革」は有効なのかを論じている。

一人の労働者として、長時間労働について考えるとき、本書は必ずその思索の助けとなってくれるだろう。

ライター画像
名久井梨香

著者

常見 陽平
働き方評論家、千葉商科大学国際教養学部専任講師。1974年生まれ、北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より現職。
専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演を行なう。著書に、『僕たちはガンダムのジムである』(日経ビジネス人文庫)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『「意識高い系」という病』(ベスト新書)、など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    日本には、残業ありきで会社や社会が設計されているという現実がある。経営者からすれば残業には合理的な面もあり、雇用システムや仕事の任せ方も残業を誘発しやすくなっている。
  • 要点
    2
    政府の掲げる「働き方改革」で検討されていることは、効果が疑わしいことが多い。仕事の絶対量や任せ方といった残業の要因自体を変えていくよう踏み込んでいくべきだ。
  • 要点
    3
    政府は、サービス残業のような隠れた残業も明るみに出るよう、企業に労働実態の把握を義務づけてはどうか。企業は、「予約の取れない寿司屋」のように客を選ぶモデルをめざすことで、残業を減らせるのではないか。

要約

日本人と残業の関係

日本の労働時間
shironosov/iStock/Thinkstock

著者はまず、日本人の労働時間について、ファクト・データの確認を行なっている。

『データブック国際労働比較2016』からは、メディアで報じられているように、単に「日本人は働きすぎ」とはいえない現状が見えてくる。他国と比べて、日本の労働時間は長いが、アメリカやイタリアなどの労働時間も長い。日本の労働時間「だけ」が長いわけではないのだ。

また、日本における一人当たりの総労働時間は、1980年代から現在にかけて、労働基準法の改正などの影響を受け、徐々に減少している。ただし、総務省の「労働力調査」によれば労働時間の短い非正規雇用者の割合は増え続けており、そのことが一人当たりの総労働時間に影響を与えていることが推察される。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」を見ると、このことはさらに明確になる。パートタイム労働者の割合が増えている一方で、一般労働者の総実労働時間はほぼ横ばいだ。つまり、正規雇用者の労働時間は改善されていないのである。加えて、日本の労働時間を他国と比較したときに明確なのは、日本は長時間労働者の比率が高いことである。性別ではとくに男性、業種別では運輸業、郵便業、建設業、教育、学習支援業に長時間労働者が多い。

サービス残業の存在

前出の、総務省の「労働力調査」による労働時間数と、企業調査に基づく厚生労働省の「毎月勤労統計調査」による労働時間数には、開きがある。この開差が、実際に働いた時間より少ない時間を申告する「サービス残業」だ。

サービス残業に関しては、労働者が認識していないサービス残業も存在する。たとえば、和風居酒屋などで働く人が和服に着替える時間をタイムカードに計上していないというケースがある。この行為は、使用者の指揮命令下におかれたものと評価できるので、労基法上の労働時間に当たると考えられる。ただ、その認識は普通の労働者に浸透しているとはいえない。こうしたことも、残業を考える上では考慮に入れておく必要がある。

なぜ、残業が発生するのか

残業ありきで設計されている社会

著者は、厚生労働省の『平成28年版過労死等防止対策白書』と、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査を参照し、なぜ残業が発生するのか、企業側と労働者側の双方の回答を確認している。どちらの側にも、

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要約公開日 2017.08.01
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