フォルクスワーゲンの闇
世界制覇の野望が招いた自動車帝国の陥穽

未 読
フォルクスワーゲンの闇
ジャンル
著者
ジャック・ユーイング 長谷川圭(訳) 吉野弘人(訳)
出版社
定価
2,000円 (税抜)
出版日
2017年07月31日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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フォルクスワーゲンの闇
世界制覇の野望が招いた自動車帝国の陥穽
著者
ジャック・ユーイング 長谷川圭(訳) 吉野弘人(訳)
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出版社
定価
2,000円 (税抜)
出版日
2017年07月31日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
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レビュー

2015年に発覚したフォルクスワーゲンの排ガス不正事件。ニューヨーク・タイムズの記者がその全貌を丹念な取材で暴いたのが本書である。フォルクスワーゲンはナチス・ドイツ時代に、そのプロパガンダとして利用されていた。こうした歴史とともに、自動車帝国として君臨し続けた経営トップの独裁ぶりが精緻に描かれており、実に読みごたえがある。

コンプライアンスやコーポレート・ガバナンスという言葉が経営の現場に浸透したと感じる今でさえ、大規模な不正の発覚は枚挙に暇がない。こうした事実に、問題の根深さを感じずにはいられない。自動車メーカーは本来、銀行に匹敵するレベルで強力なコンプライアンス機能が求められるという。排ガスや安全性の面などで厳しく規制されるため、社員を不正に走らせないことが肝要だからだ。その自動車メーカーである同社が、今回騒動を引き起こした張本人である。

組織的な不正というのは、ある日突然湧いて起こるものではない。じわじわと時間をかけて、罪の意識すら感じさせないほど自然に組織を蝕んでいく。経営トップが権力をふりかざし、恐怖政治を行えば、社員の罪悪感はなおさら恐怖の影に隠れてしまうだろう。まともな思考を持ち合わせていたとしても、組織人として行動するうちに、いつの間にか倫理観が歪んでしまうかもしれない。本書を読めば、これが決して対岸の火事ではないことがわかるだろう。

フォルクスワーゲンがはまってしまった泥沼の入り口までガイドするので、その先の本当の闇はみなさん自身の眼で確かめてほしい。

金井美穂

著者

ジャック・ユーイング (Jack Ewing)
ニューヨーク・タイムズ記者。1994年、ビジネスウィーク誌の特派員として赴任以来、ドイツで取材を続けている。2010年、ニューヨーク・タイムズ入社。欧州特派員として経済記事を担当し、自動車産業などを取材。フランクフルト在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    フォルクスワーゲンの歴史は、ナチスが推し進めた国民車プロジェクトとして始まり、戦後には民主的に生まれ変わったドイツの象徴として普及していった。
  • 要点
    2
    フォルクスワーゲンでトップに君臨していたのが、初期の国民車プロジェクトを率いたフェルディナント・ポルシェの孫、フェルディナント・ピエヒである。ピエヒはリスクを恐れず、挑戦的で野心に満ちた人物だった。
  • 要点
    3
    ピエヒは権威主義的なトップダウンの経営スタイルをフォルクスワーゲンに浸透させ、それが社員を日常的な不正に引き込んでいった。

要約

自動車帝国の歴史

はじまり

自動車帝国の歴史は1937年にさかのぼる。ナチスの労働戦線が「国民車」としてのフォルクスワーゲンをつくるために会社を設立したことで幕が開いた。

ドイツでは、大衆向け自動車「国民車」をつくるのは国家の威信をかけた取り組みだった。なぜなら、自動車を発明したのはドイツ人のカール・ベンツだが、それを手頃な価格で販売することに成功したのは、アメリカ人のヘンリー・フォードという、屈辱的な状況だったからだ。フォードのおかげもあって、1938年当時アメリカではすでに5人に1人が自動車を所有していた。一方、ドイツの自動車所有率はまだ50人に1人だった。

1933年、ヒトラーは政権を手にすると、この国民車プロジェクトを国家プロジェクトとした。ナチスが国民に約束した生活水準改善のシンボルとしてフォルクスワーゲンを利用するためだ。自動車の普及が進めば、軍事利用のために国中に張り巡らせたアウトバーンのカムフラージュになるとの目論見もあった。

フェルディナント・ポルシェ
Thossaphol/iStock/Thinkstock

この国民車プロジェクトを任されたのがフェルディナント・ポルシェである。彼はヒトラーお気に入りのエンジニアだった。ダイムラー・ベンツや革新的なレーシングカーを次々と開発していた。

プロジェクトは当初、既存の自動車メーカーで構成される自動車生産者組合の監督下にあった。しかし、彼らにとって国家の資金で設立される競合メーカーは邪魔者でしかない。ポルシェへの妨害工作が続いた。にもかかわらず、ポルシェのエンジニアリングにかける情熱を削ぐことはできなかった。

その後、ドイツ労働戦線がフォルクスワーゲンプロジェクトを監督することになった。ドイツ労働戦線はナチ党が支配する組織で、独立系労働者団体を強制的に吸収し、没収した財産の一部をフォルクスワーゲン製造工場の建設に充てた。

ヒトラーは当時、1946年に工場をフル稼働させ、年間150万台を生産するという目標を掲げた。これはフォードの生産台数を上回る規模であり、規模の大きさへの執着ぶりは計り知れないものであった。フォルクスワーゲンによる、のちの市場支配の端緒がここに見られる。

ナチスのプロパガンダからの転身

1945年、イギリス占領軍からアイヴァン・ハースト少佐がやってきた。彼は、フォルクスワーゲンにとって実質的に戦後最初の最高経営責任者となる。ハーストは工場を愛しており、経営の才を発揮し、翌年には生産台数を1万台にまで押し上げた。また販売組織をつくり、輸出にまでこぎつけた。ハーストの功績によって、フォルクスワーゲンはナチスのプロパガンダから、国際的で顧客重視の自動車メーカーへと生まれ変わったと言える。

ハーストが戦後初のドイツ人最高経営責任者として選出したのは、ハインリッヒ・ノルトホフだ。彼は戦時中の工場運営の手腕を買われた。ノルトホフが役職に就任した1948年は、ドイツマルクが導入され、西ドイツの経済が劇的に伸長した頃だ。この通貨改革の直後、フォルクスワーゲンの月間生産台数は2500台に倍増した。独裁政権が生み出した「国民車」としてのフォルクスワーゲンは、民主的に生まれ変わったドイツの象徴となり、驚くべきスピードで普及していった。

ピエヒのキャリア

フェルディナント・ピエヒ
GeorgeRudy/iStock/Thinkstock

フォルクスワーゲンの歴史を語る上で欠かせない中心人物がポルシェの孫、フェルディナント・ピエヒである。彼は子どもの頃からポルシェのエンジニアリング・オフィスを遊び場としていた。ピエヒが技術的な仕事に愛着を持ったのはこの頃からだ。ピエヒはポルシェからエンジニアリングへの情熱と使命感を受け継いでいたにちがいない。

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