医療現場の行動経済学

すれ違う医者と患者
未読
医療現場の行動経済学
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すれ違う医者と患者
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医療現場の行動経済学
出版社
東洋経済新報社

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定価
2,640円(税込)
出版日
2018年08月09日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「あなたは末期がんで、もう治療の余地はありません」――そう告げられたらどうするだろうか。何度も余命告知を経験してきた医師は、治療を中止して副作用から逃れ、残された時間を有意義に使ったほうがいいと考えて告知を行う。しかし患者にとっては、余命告知は初めての経験である。治療の中止を決断することは難しいものだ。そしてその結果、残りわずかな余命をさらに縮める医療を選択してしまう。

この心理は、行動経済学では「損失回避」として知られているものだ。人は損失を確定させることを嫌うあまり、少しでも損失がない可能性を含んだ選択肢を選んでしまう。そうして患者は、治療を中止して余命を確定させることから逃避し、奇跡的に治癒する可能性に賭けるのだ。そして副作用で命を縮めてしまう。医師から見ると、患者が合理的な判断をしてくれないことが理解できず、また患者からすれば医師が意思決定を迫る理由が理解できない。

行動経済学では、人間の意思決定にバイアスがあることを想定している。医師・患者ともに行動経済学を知れば、バイアスから逃れて合理的な意思決定ができるようになるというのが本書の主張だ。本書を通して、起こりがちな医師と患者のすれ違いの理由が理解できるとともに、もしものときにはより合理的な判断ができるようになるだろう。

ライター画像
池田明季哉

著者

大竹 文雄(おおたけ ふみお)
1961年京都府生まれ。1983年京都大学経済学部卒業、1985年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。1985年大阪大学経済学部助手、同社会経済研究所教授などを経て、2018年より大阪大学大学院経済学研究科教授。博士(経済学)。専門は労働経済学、行動経済学。2005年日経・経済図書文化賞、2005年サントリー学芸賞、2006年エコノミスト賞(『日本の不平等』日本経済新聞社)受賞。2006年日本経済学会・石川賞、2008年日本学士院賞受賞。著書に、『経済学的思考のセンス』、『競争と公平感』、『競争社会の歩き方』(いずれも中公新書)など。

平井 啓(ひらい けい)
1972年山口県生まれ。1997年大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了。1997年大阪大学人間科学部助手、同大型教育研究プロジェクト支援室・未来戦略機構・経営企画オフィス准教授を経て、2018年より大阪大学大学院人間科学研究科准教授。博士(人間科学)。2010年より市立岸和田市民病院指導健康心理士。専門は、健康・医療心理学、行動医学、サイコオンコロジー、行動経済学。2007年日本サイコオンコロジー学会奨励賞、2013年日本健康心理学会実践活動奨励賞を受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    診療現場では、医師と患者の双方が、相手の言っていることを正しく理解しなければならない。行動経済学の知識を利用することによって、バイアスから逃れて合理的な意思決定ができるようになる。
  • 要点
    2
    東京都八王子市では、昨年度の大腸がん検診受診者に対して便検査キットを自動的に送っている。キット送付後しばらく経過したところで、「今年度に大腸がん検診を受診しなければ、来年度は便検査キットが送付されません」と短期的な損失を強調するはがきを出したところ、その後の受診率が高まった。

要約

【必読ポイント!】 診療現場にみる行動経済学

サンクコスト・バイアス
wutwhanfoto/gettyimages

診療現場では、医師と患者の双方が、相手の言っていることを正しく理解しなければならない。ここではいくつかの事例をもとに、行動経済学的な説明と医療者の対応を紹介する。

あるがん患者は、がんが転移するたびに薬を変えながら10年にもわたって抗がん剤治療を続けてきた。しかしあるときから抗がん剤の種類を変えてもがんが進行するようになり、別の持病も悪化したため、医師から抗がん剤治療をやめることをすすめられた。

だが患者は、「ここまでやってきたのだから」と抗がん剤治療を続けることを希望した。これまで耐えてきた10年間のつらい治療がすべて無駄になってしまう気がしたのだろう。

これはサンクコストの誤謬と呼ばれる心理現象である。サンクコストとは、過去に支払った費用や努力のうち戻ってこないもののことを指す。過去に行ってきた治療はこれからの治療の選択とは無関係だ。しかし患者の心理としてはそうはいかない。医師は患者の心理を理解したうえで、過去のコストよりも将来の費用と便益を強調して説明する必要がある。

現状維持バイアス

半年前に多発転移の診断を受けて抗がん治療を受けていた患者に、新たな転移が見つかった。彼女は2種類目の抗がん治療を開始したが、骨の転移も増大し疼痛が出始めていた。そこで医師は、今後症状が悪化することも視野に入れ、早期に症状緩和専門の医師の同時診察を受けることをすすめた。だが彼女は、「痛いけれど新しい先生に診てもらうほどではない」「まだ大丈夫」などというばかりだ。

このとき彼女には、現状維持バイアスが働いていたと考えられる。現在の状態から何か変更することを損失とみなしてしまっているということだ。

主治医はそのことに気づき、「抗がん剤治療が2種類目になった方皆さんに一応お伝えしている」と前置きしたうえで、痛み止めを使っても改善しなければ専門の医師に診てもらうことを提案した。現状ではなく、標準的な治療法を判断基準にしてもらうように誘導したというわけだ。

現在バイアス
Halfpoint/gettyimages

危篤状態にある男性の妻が、医師から今後の説明を受けている。そこで医師は、「延命措置を行わないで自然な形で最期を迎えることを希望する」もしくは「心臓が止まったとき、延命措置を希望する」のどちらを選ぶかと、彼女に選択を迫った。

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